第7話 モスクワ体育会の脅威?
1930年になったわ。
モスクワ生徒会には笑顔があふれているわね。
私がエルミタージュ美術館の絵を(利権込み前借も含めて)史実の5倍でさばいたものだから、モスクワの金庫に貯蓄ができているのよ。
目標を達成できて、危機を脱することができそうだという安心感が支配しているわ。
もちろん、このためには西シベリアの道路が必要になったけれど、それはソ連には問題ないことよ。
ウクライナやカフカースの言うことを聞かない農民を連れ出して、そっちで働かせることにしたようね。
酷い話だけど、史実のままなら言うことを聞かない面々は餓死一択よ。
史実よりは可能性があるかもしれないと納得してもらうしかないわ。
「それでも、二百万人くらいは餓死やら強制労働で命を落としそうだよ……」
「……そうね」
「……それでも一応、工業化は達成されるわけだから、尊い犠牲の上に、となるのかな。これが最後だといいんだけど」
「残念ながらそうはいかないわね……」
10年後の1943年にはインドのベンガル地方で大飢饉が発生するわ。
こちらは300万人ほどが餓死したと言われているわね。
こちらの原因はソ連と比べると複合的よ。日本軍が空爆して輸送路を壊したとか、サイクロンもやってきたとか、生産量が低かったとか色々言われているわね。
ただ、アマルティア・センの研究によればこの年のベンガル地方の収穫量自体は大きかったのよ。だけど、政府の支出が不平等だったために、賃金上昇ペースを遥かに超える勢いで食料価格が上昇してしまい(賃金は100⇒130、穀物価格は100⇒385らしいわ)、結果、大半の層が食料を買えなくなってしまったというのよ。
こちらのパターンは現代日本にも普通にありえそうな話ね。
それはさておき。
資金が当初の5倍だから、教育予算もかなりつけられるようになったわ。
工業化を進める以上は技術者や知識人も必要となるからね。ここできちんと教育機関を整備できたことは功績と言っても良いと思うわ。
すなわち、資金が5倍×教育予算が倍で技術者が2倍×安心した雰囲気だから更に2倍で、モスクワ生徒会の認識では100万パワーが2000万パワーになるわ。
それはさすがにないけれど、倍の進展は遂げていそうよ。
私とサダモフ、そして上司のミコヤンにとっても上々の結果よ。
アメリカやイギリスの大富豪と会うことができて、絵画交渉と利権交渉を行うことができたのだから。
彼らがソ連に利権をもつことになったから、協力関係を締結しやすくなったのよ。現在の表向きの関係は最悪だけど、それが全てを現すわけではないわ。
この調子でドイツをどんどん孤立させていきたいわね。
と、うまくいっているのだけれど、調子に乗ったのかスターリンは大嫌いな赤軍(モスクワ体育会)トップのミハイル・トゥハチェフスキーを弾劾しようとしたわ。
この2人の遺恨はポーランドでの戦いに遡るの。
細かいところは省くけど、この2人の連携がうまくいかなくてピウスツキ(1895年編に名前だけ出ているわね)に負けてしまったのよ。で、当時まだ生きていたレーニンは責任をスターリン側にあると見て解任してしまったの。
だからスターリンはトハチェフスキーを恨んでいるというわけね。半分以上逆恨みな気がするけど、とにかくそう思っているのよ。
トゥハチェフスキーの能力は相当なものよ。ただ、それをひけらかすから嫌う者も多いのよ。「理解できない空想的な作戦で軍を危機に陥れそうだ」というような批判が飛んでいるわ。
そういう批判に乗って、「トゥハチェフスキーは反革命的だ」と弾劾させて、尋問させたのよ。
この深入りは史実同様に生徒会で止められてしまったわ。ただ、史実では諦めずに7年後に粛清に成功するわけね。
体育会をどうするかというのも難しいわ。
というのも、資金に余裕があるから、赤軍の機械化も史実より進んでいるのよ。
軍の強化が進んでいるということは、軍のトップにいる人物も強力な力をつけるわ。すなわちトゥハチェフスキーということよ。
同列の司令官は他にもいるけれど、白軍との戦争から活躍し続けているトゥハチェフスキーに実績で勝てるものはいないわ。
史実より強くなったトゥハチェフスキーが大粛清を始める前に反旗を翻す可能性もゼロではないということよ。
モスクワ体育会は、モスクワ生徒会にとっては危険な存在になっているわ。
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