第8話 小さな強敵を懐柔せよ
1931年になったわ。
開発資金の一部を、今度は東シベリアに充てることにしたわよ。
ヤクート自治共和国での金、銀、ダイヤモンドの採取に励むこととしたの。
この時代の鉱山労働はどこの国であっても過酷極まりないものだわ。
当然、モスクワ生徒会でも変わりがないわね。しかも、囚人などに仕事をさせるのだから「死んで当然」くらいの扱いでこき使うのよ。ほとんどが死んでしまったと言われているわ。
「一事が万事そんな話だね……」
とにかく、これであと2、3年もすれば大量の”金”や”銀”が扱えるようになるわ。
更に軍の機械化を進めることができるし、広報へも力を注ぐことができるのよ。楽しみね。
未来は史実以上に明るくなってきたわ。
もう一度外に出ることにしましょう。
「どこに行くの? 日本? アメリカ?」
「フィンランドよ」
ソ連の二大都市といえば首都モスクワで、その次がサンクトペテルブルクよ。この時代、サンクトペテルブルクはレニングラードと名前を変えているわね。
レニングラードはバルト海に面しているのだけど、150キロもいけばフィンランドとラトビアに接することになるわ。つまり、戦火の対象になりやすいということね。
もちろん、フィンランドやラトビアがソ連を攻めることは多分ないけれども、ドイツがこの両国を占領して進軍してくるということは大いにありうるわけよ。
史実ではバルト三国はソ連に編入することができたけど、フィンランドは独立国だわ。
だからソ連はフィンランドに対して「お前達がそのあたりにいるとレニングラードが危ないから東の方をくれよ」と言い出したのよ。
「おまえの領土は俺の領土、みたいな理屈だね」
当然、フィンランドにとって簡単に受け入れられる話ではないわ。
ただ、第二次世界大戦の足音も聞こえていた時期だから、ある程度は応じようとしたのよ。だけど、ソ連は納得せずに「生意気な
「ここまで行くと、相手と交渉する気はほとんどなくて、最初から戦争するつもりだったのではと思いたくなるよ」
そうかもしれないわね。
ただ、この戦争は予想以上に高くついたわ。
ソ連軍は圧倒的な戦力で攻め込んだのだけど、フィンランドの冬の寒さに苦しめられ、更にフィンランド軍が各地で圧倒的な善戦を示したわ。もちろん、赤軍大粛清の影響も大きかったわね。
それでも物量にモノを言わせて有利な条件で講和ができたけれど、世界に「ソ連軍はフィンランドにも勝てない」という事実を知らしめたの。これで、ドイツも「これならウチもソ連に楽勝できるやろ」と思い、独ソ戦が始まったわけね。
私達が来た以上、この部分を修正する必要があるわね。
「フィンランドを味方につけるわけ?」
「それができれば理想的だけど、ね」
ポーランドと同じで、ソ連と極めて近いフィンランドでは共産主義者が内戦を起こしていたわ。
結局失敗したのだけど、それもあってフィンランドの知識人はソ連を警戒しているのよ。
協力しようぜ、ともちかけてもまず間違いなく断ってくるわね、困ったものだわ。
「いや、まあ、自業自得だよね」
だけど、早めに話をしておけば、最低限ドイツに協力しない言質は取れるかもしれないわ。フィンランドは元来親英国でソ連が戦争を仕掛けたから、やむなくドイツに協力を求めたこともあるのよ。
敵にしない方策があるかもしれないわけね。
幸い、第二次世界大戦時の二大巨頭である
外交団を送り込めばこの両者と会うことはできるわね。
「ということはモロトフさんかな?」
「いいえ、彼は適任ではないわ」
モロトフが外交専門になるのはもう少し後のこと、現在はコミンテルンを通じて海外の共産主義者と連携している状態よ。そんな彼がフィンランドに来るということはフィンランドの社会主義者と会うに決まっているわけで更に敵視されてしまうわね。
「フィンランドへの訪問は経済会議の訪問という形にしておく必要があるわ。フィンランドだけ訪問するのも怪しまれるから、他国へも訪問することにするわ」
「なるほど。そうなると、サダモフが行く形でいいんだね」
そういうことになるわ。
「同志スターリン。我々はバルト三国と北欧三か国の状況を視察して、要人と経済について話をしたいと思います」
「同志サダモフ。それは相手国を共産主義に転向させるということかね?」
スターリンも少し迷っているみたいね。
とはいえ、現状の彼はまだ完全な独裁者ではないし、サダモフの裏にいる私達が大きな貢献をしていることも無視できないわ。
「……分かった。つぶさに状況を精査し、それぞれの共産主義化に向けての課題を調べてくれ」
許可を貰うことができたわ。
いざフィンランドね。
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