第9話 フィンランド銀行総裁

 フィンランドの首都ヘルシンキにやってきたわ。


 フィンランドは元々ロシア帝国の領土だったけれど、ロシア革命のドサクサに紛れて独立したのね。

 その後、ソ連シンパと独立派が争い、独立派がドイツと手を組んでソ連派を追い出して、ドイツから国王を迎えて、王国となったのよ。

 ただ、すぐに第一次世界大戦でドイツが負けたから、その後は政体を共和国に転換したわ。

 一度ドイツと組んだという実績があるので、生徒会も体育会もフィンランドがドイツとまた組むことを恐れているわ。レニングラードを取られてしまうからね。

 そして、実際にもう一回組むことになったのよ。ただ、ソ連から自国を守ることはできても、攻める余裕はないから、レニングラード攻撃に兵を出すようなことはなかったけれどね。


 今、私達はフィンランド銀行にやってきて、総裁のリスト・リュティを待っているわ。

 史実では、ソ連との戦争が始まった時には大統領として国を率いた存在よ。スターリンとヒトラーの双方をペテンにかけて、独立を守り切った恐るべき存在だわ。

 また、日本文化とされるバーコード頭の走りでもあるのよ。

「バーコードは絶対褒めてないよね?」

 リュティがやってきたわ。まだ若いからバーコードではないけれど、おでこはとっても広いわね。

「こんにちは。リュティさん」

「どうも。ソ連の方々が一体、何用なのかね?」

「唐突だけど、私達ソ連はフィンランドに投資したいのよ。受けてもらえないかしら?」

「フィンランドに投資? どういうことなのかね?」

 警戒しているというより、断る理由を考えている様子よ。

 リュティは民主主義と自由主義を愛する人物だから、共産主義から投資など受けたくないと考えているようね。しかも、家族や友人を共産主義との内戦で失っているから、個人的にも恨みが大きいのよ。

「フィンランドはソ連に近すぎるのよ。一度ヨーロッパでことが起きたら、またドイツにつくんじゃないかと思ってしまうわけ」

「……そういうこと外交や政治的なことは大統領や首相に聞いていただけないかね?」

「それでもいいのだけど、仮に政治で決められたとすればリュティさんにとっては不本意なことでしょ。イギリスの金融関係者と近いのだし」

「……」

 警戒の度合いを強めたようね。

 リュティはイギリスやアメリカの金融関係者との間に強いパイプを持っているわ。ただ、それはソ連に明らかになっていないはずで、「どうして知っているんだ?」という思いがあるようね。


「別にそれを解消する必要はないのよ。言ったでしょ? ソ連が恐れているのは、フィンランドがドイツと組んでレニングラードを攻撃してくることよ。だから、フィンランドに投資することでその危険を避けたいわけ」

 フィンランドに投資していれば、ソ連側としては「もし、おまえ達フィンランドがドイツと組むなら全額返せよ」と言えるわけね。貸しがあるから外交的に安心できるのよ。ソ連なら踏み倒すかもしれないけど、フィンランドはそんなことをしないはずだからね。

「ドイツに近づくのは避けてほしいけれど、イギリスと相談することは自由にしてもらって大丈夫よ」

 ソ連がこれだけ融資してきましたと言ってくれば、イギリスもソ連が浸食することを恐れてフィンランドに追加投資をするわ。そうなると、フィンランドにとっては悪くない話よ。

「……少し考えさせてくれたまえ」

「もちろんよ」

 リュティは話を持ち帰ったわ。


「うまく行きますかな」

 サダモフが髭に手をあてながら聞いてきたわ。

「さてね。そうすぐに結果が出るとも思わないけど、現実的も見据えて黙認すると思うわ」

 フィンランドはイギリスを頼りにしているけれど、イギリスがいざという時に頼りにならないことも承知していると思うわ。

 英独が戦争になるとフィンランドを助ける余裕はないのだからね。

 そうなると、フィンランドを助けられるのはスウェーデンかドイツかソ連よ。

 隣国スウェーデンは助けてくれそうだけど、この両国のタッグではソ連にもドイツにも勝てないわ。

 ソ連が安全策を提供している以上、保険として乗ってくるのが自然なのよ。

「ソ連と経済協定取っているとなったら、ドイツがフィンランドを攻めるんじゃない?」

「その場合は、ドイツ軍に冬の寒さを認識してもらえばいいのよ」

 ソ連はフィンランドに攻め込んで大失敗して「所詮はウォーズマンだった」と馬鹿にされることになったわ。

 ドイツが同じことをしても失敗するわ。ソ連も支援するしね。「フィンランドにも勝てないドイツ」をアテにして日本がアメリカに開戦することはまずないわね。


 さて、リュティが結論を出す前にもう一つの巨頭であるマンネルヘイムとも会いましょう。

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