第10話 ソ連の外交

 スウェーデン、ノルウェーにリトアニア、エストニア、ラトビアの交渉が終わったわ。


 ちょうどこの頃には極東地域で柳条湖事件から満州事変が発生しているわね。


 とはいえ、この段階ではアメリカが反発しているだけで、他国はそれほど関心を向けていないわね。皆が気にしているのは極右政党のナチスが躍進したドイツの選挙の方よ。

 ソ連にしてもそれは同じよ。何せ、ナチスは「共産主義は絶滅させる」なんて言っているのだから、物騒極まりないわ。

 こんなドイツがいるとなると、モスクワ生徒会に極東まで見る余裕はとてもないわね。とりあえず第一次五か年計画を終わらせて、ドイツと戦う体制を整えないといけないのよ。

 あと、生徒会の対日放任について、対立する派閥もあまりいないのよ。

 本来ならば一番厄介なのはトルコに逃げているトロツキーでしょうけれど、彼は革命のことしか頭にないから、軍事紛争が起きても、それは特に話題にはしないのね。

 ということで、日本のことは国際社会に任せることになるわ。ソ連の対応としては微温的な対応になるわね。


 ちなみにソ連では美術品を多額で販売したのだけれど、資金が出来たからといって今まで決めた路線をなおざりにするなんてことはないわ。つまり、ウクライナやカフカースからの食料品の徴収も継続して徹底的にやっているの。

 ホロドモールを覆すことは難しそうね。


 年が変わって1932年になったわ。

 前年の交渉を受けて、今度はフィンランドの方からリュティとパーシキヴィがやってきたわね。

 フィンランドはソ連との交渉に乗り気ではないだろうけれど、「こっちが使節を派遣したのに、そっちは来ないのか?」なんて因縁をつけられるのが嫌だから、やってきているのよ。

 不良に囲まれた優等生……じゃなくて、我儘な大国に囲まれた小国は本当に大変ね。

 彼らはモスクワでスターリンやモロトフと会談をして帰っていったけれど、モロトフはフィンランドに譲歩する必要性を感じていないようだわ。

「15年前は失敗しましたが、今度こそフィンランド共産党を強化して、共和政府を乗っ取るべきなのでは?」

 そう主張しているわ。

 ここはサダモフに反対意見を言わせるわよ。

「フィンランド自体は恐れるに足らずだが、敵対した結果、ドイツ軍がフィンランド上空を通ることになると危険ですぞ」

「ならばドイツと敵対しなければ良いのではないか?」

 モロトフはドイツとの同盟も模索しているようね。

 実際、彼らの構想の中には、日独伊三国同盟にソ連が加わるというものもあったわけよ。結局は締結しなかったけれどね。


 日独伊ソの連携も面白そうではあるけれど、それが実現したら日本は心置きなくアメリカと開戦してゲームオーバーになってしまうわ。この路線はなしね。


 他の地域を見ていると、トルコとは仲良し関係を築いているわ。

 アタテュルクがオスマン政府を打倒する際に、ソ連を頼ったことを契機として良好な関係が続いているのよ。この年には経済政策でもトルコはソ連を真似するようになっていくわね。


 バルカンを含めた東ヨーロッパについては、ハプスブルク帝国が潰れてしまって、それぞれの国が思い思いに動いていて秩序がなくなっているわ。

 民族自決の観点で独立はしていったけれど、完全に独り立ちできる国はごくわずかでドイツのファシズムとソ連の共産主義に振り回される……というのは1895年編でも説明した通りね。

 もっとも、全体的にはドイツが優勢よ。ハンガリーとポーランドの共産主義化に失敗してしまったし、オーストリアやチェコは民族的にドイツの方が近い。

 バルカン半島も共産主義よりは極右主義という形で推移しているわね。


 モロトフとサダモフの討論が続くわ。

 ドイツ寄りに行くべきか、ドイツと敵対路線を貫くべきか。

 まだまだ結論が出るのは先ね。

 そうなった場合、ソ連が優先してやることはもちろん。

「コー、ホー。コー、ホーと」

 既に利権を分け与えているけれど、アメリカやイギリスの有力者に引き続きプロパガンダ攻勢を仕掛けていくことになるわ。

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