使わなかった話題1・軍備

『しかし、何も戦闘がないのも面白味がないわよねぇ。日米開戦はともかく日中戦争の戦闘展開が見たかったんだけどなぁ……』

 転生履歴を振り返る中で、女神が戦争に触れ始めたわ。

 女神のくせに戦争が好きなのはどうなのかしら。

 呆れてしまうけど、彼女はどんどん話を続けていくわ。


『新しい開発の話とかもなかったし。戦争に絡めて、武器性能とかアップさせる話とか欲しかったなあ』

「確かに、この時代の特集本だと兵器スペックとか武器の性能なんかのカタログも多いよね」

『でしょ、でしょ。悠ちゃんは分かってくれるわよね~』

 急に戦車や艦船の性能やらスペックについての蘊蓄を語りだしたわね。

 面倒くさいわ。


「……1996年11月23日、アジスアベバからナイロビに向かっていたエチオピア航空961便が3人の若者にハイジャックされたわ。機体はボーイング767-200ERよ」

『ほえ?』

「ハイジャック犯は『この機種は11時間飛ぶことが出来ると書いてある』とカタログを指さしてオーストラリアまで飛ぶように指示。『燃料が足りないんだよ』と反対する機長や管制官を信じることなく、機体を飛ばせ続けたわ。結局、機体は燃料不足でコモロ諸島近海に不時着水して分解。乗客・乗員175人中123人が死亡する大惨事となったの。犯人達3人が死んだのは自業自得としか言いようがないけど、巻き添えになった人達は気の毒というより他ないわね」


 ここまでのスペック厨は珍しいけれど、性能を過信して交通事故を起こすこともよくあるわね。

 馬鹿馬鹿しい話ではあるけれど、精神論万歳の日本軍がこの3人のハイジャック犯よりはマシだと自信をもっていえるのかしら。

「日本軍は形勢不利になってくると、徴兵対象にならない児童や婦女子を武器生産にあてさせたの。参政権のところでも言った通り、学童たちをムチ打って働かせたわけね。彼らは頑張って働いたけど、能力不足はどうにもならないわ。彼らの作る弾丸は粗雑極まりないもので、敵の弾丸と同じくらい味方の弾丸も危険な状況を招いてしまったと言われているわね」

 参考以上のものにはならないということよ。


「そもそも、新技術があったとして優先的に開発すべきものが武器なのか、という疑問もあるわね」

 私達は逓信省を最初に掌握し、通信面を把握することでいざとなれば軍を封じる手段をもつことに成功したわ。

 これは戦闘や戦争になった場合にも同じことが言えるのよ。

「仮に広い中国や太平洋が戦場になる場合には、ある程度敵味方の通信は傍受されるわ。だから、暗号をどこまで強化できるかということも鍵となるのよ」

 例えばアメリカ軍は、ナバホ族などの言語体系が極めて難しい先住民たちに目を向けたわ。

「彼らを司令部と前線に置いて、司令部のナバホ族が前線に作戦を伝えて、前線のナバホ族がそれを現地で指示したというわ。日本軍はあまりに意味不明過ぎて全く解析できなかったらしいわよ。逆に日本は段々ネタ切れになってきて、酷い時は平文でやりとりしていることもあったらしいわね」

 現実的に戦うとなった場合に局面を良くしたいと思うのなら、こういうところを強化しなければならないわね。通信と機動がしっかりしなければ勝てるはずもないわ。

 そのためには特異な言語学者を用意するか、数学者を用意するか(イギリスでドイツの暗号解析にあたったアラン・チューリング達は数学の達人だったわ)といったところよ。


「暗号やその解読については、外交交渉でも必要になりうることがあるわ。本編にも入れようかとも思ったけれど(FDRとの会話付近に)、流れが悪くなるから除いたの。でも、これは本当に重要なところね」

「兵器の性能が悪くても勝った戦いはあるけれど、情報伝達や機動部分で劣勢なのに勝てた戦いはほとんどないよね」

「あとは耳にタコができるほど聞かされる話だけど、ロジスティックスね。性能は良いに越したことはないけど、それより先にやらなければならないことの方が多いのよ」

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