第5話 五か年計画実施中
今回、呼び名が難しいものが幾つかあるわ。
ジョージアなのかグルジアなのか。
コーカサスなのかカフカースなのか。
後に出て来るけどキイウなのかキエフなのか。
現在の日本国では前者が奨励されているけれど、当時のソ連内や日本での呼び名に従うからこの話内部では後者になることは承知しておいてね。
さて、1929年になったわ。
世界には大恐慌が吹き荒れるけれど、ソ連はこの恐慌で被害が大きくなかったとも言われているわ。
それゆえ、一部の学者などは「もしかしてソ連って凄い?」と思い始めたらしいわね。
実際はそこまで単純なものではないわ。
まず、基本的に都合の悪い部分は隠ぺいしていたということがあるわね。
あと、モスクワ生徒会は「こうしよう」と思ったら、何万人死のうと全く気にしないところがあるのも大きいわ。
生徒会は既に前年に五か年計画を立てて、国家として工業化を目指すことになるわ。
具体的には農作物をできるだけかき集めて換金して、それを元手に機械や技術者を招聘するということになるわね。
ソ連はとてつもなく広いけど、運搬ルートがきっちりとなっているのはウクライナやカフカース方面よ。ということで、この地域から農作物をかき集めるわけよ。そして生徒会のノルマは絶対だから、足りないなら本人達の食い扶持も持っていくことになるわ。
ということで、ここからホロドモール(大飢饉による死)が始まることになるわね。正確な犠牲者の数字は出ていないけれど、500万人前後が亡くなったのではないかと言われているわ。
「この実態でもそこまで明るみに出ていない以上、恐慌の実情がどこまでオープンになっていたかも分からないよね……」
全くその通りよ。
一方、サダモフとモブ父はこの間、西シベリア調査の許可を貰って調べることになるわ。
工業化資金が足りなくて農作物をかき集めているくらいなのだから、当然こうした調査に大きな予算があてられることはないわ。ピンポイントで探し当てないと、ね。
「これもプレッシャーだよねぇ……」
そうね。周辺地域ではガンガン餓死者が出て来ることになるのだから、結果を出せないと大変なことになるわ。
おまけにソ連から亡命したトロツキーが海外から批判記事をバンバン書いているのだからね。実務家としてはたいしたことがなかったけれど、文章家としてのトロツキーは一流なのよ。
だから、悠ちゃんの言う通り、失敗できないというプレッシャーは物凄いのよ。生徒会全体が破滅ということになりかねないわ。
とはいえ、これがこの国最大の危機とも言い難いのも事実よ。この生徒会は今後も一事が万事でこういう形で進んでいたのだろうと思うわ。
サダモフとモブ父が頑張っている間、私達はもっぱらスターリンの妻・ナージャの精神安定に努めることになるわ。
失敗したら生徒会自体が破滅だから、プレッシャーは凄まじいことになっているわ。スターリンも気が気でない……か、どうかは分からないわね。今のところつとめて陽気に振る舞っているわ。
つとめて陽気に振る舞うということは、遊んだりしていることになるから、ナージャのプレッシャーと不満も高まっていくわ。
子供にしては色々分かっている私達は、ナージャにとっても頼れる存在なのよ。
「おじさん(スターリン)にとっては仕事とソ連のことが何よりも大切だわ」
「それは分かっているけれども……」
宥めがてら、私達はクレムリンのスターリンのところにも行って、ナージャが不満に思っていることを伝えるわ。
「このままだとナージャはストレスで、スヴェトラーナを
「それは困ったな……」
「あと、これがサダモフからの報告書」
「おお、読ませてもらうよ」
ギリギリの綱渡りをしているソ連にとっては、西シベリア計画は重要なものよ。もし本当に油田が見つかったりすれば大分余裕をもたらすことになるのだからね。
だから、スターリンは食い入るように報告書を見つめているわね。
「……ミコヤンにはいつでも会えるようにスケジュールを調整しておこう。サダモフには『話したいことがあるならすぐにモスクワに来なさい』と言っておいてくれるかね?」
「分かったわ」
これまた、良いことなのか悪いことなのかは分からないけれど、強権国家のソ連では上層部に「必要」と思わせることができれば一気に労働力が割り当てられたり予算もつけたりしてもらえるわ。
明確にやりたいことがある転生者にとっては、色々な分野を納得させなければいけない日本よりもやりやすい側面があるのかもしれないわね。
労働力を割り当てられて、強制的に働かせた結果(これはサダモフも得意だわ)、浅い地域でガスや石油が確認されるようになったの。
これをうまく持っていくことができれば工業化資金が増えることになるわね。
今度は西側資本と交渉しなければならないわ。
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