③1922年日本に転生しました
第1話 ギリギリ回避作戦
『ねぇ、千瑛さ~ん』
女神が揉み手しながらやってきたわ。
明らかに良からぬことを企んでいるわね。
「……何かしら?」
『ギリギリ、目一杯時代を下るとすれば何年生まれまで大丈夫そう?』
開戦回避の限界を聞いてきたわ。
新記録を出して他の時代の女神に威張りたいという下心が丸見えよ。
とはいえ、ギリギリを攻めるというのも興味深い試みではあるわね。
「そうね……」
もちろん、ギリギリで生まれたとしても方法はゼロではないけれど、方法があるということと、実践できるかということは別問題なのよ。子供にそれを行うことは不可能でせめてミドルティーンくらいになっている必要はあるわ。
その上で……
1920年代を過ぎてしまうと、関東大震災の同情で生じる友好モードは消えてしまうわね。
満州事変が起きると時代の流れはほぼ決まってしまうところがあるわ。
ここから日本を引きずり戻すのはさすがに至難と言うしかないわね。
「……1922年くらいかしらね」
「ということは、当初の開戦予定では19歳くらい? それは本当にギリギリそうだね」
悠ちゃんもびっくりしているわね。
とはいえ、ここまで来ると私にも100パーセントの自信はないわ。
「ここまで下ってくると、他力本願要素も出てくるから、確証はできないけどね」
『つまり、何回かリセットありなら成功しそうと?』
リセット理論。
うまくいくまでやり直す。身も蓋もないことを言いだしたわ。
余程、「この年でうまくいったのよ~」と自慢したいのね。
自分が行くわけでもないくせに。
「……おそらくは、ね」
『それじゃやってみて~』
全く気楽なものだわ。
「さすがにこれだけ制限があると、今までのように自由だけあれば良い、とも行かなくなるわ」
『まあ、確かにね。今まで以上に動きづらくなるわよね』
「親は地質学者がいいわ」
『おっ、職種も指定なの?』
「そうよ。子供の時からすぐに動ける環境である必要があるわ」
『ということは、やっぱり海外に出るわけなのね。まあ、それもそうかぁ。1930年代半ばの日本を10代で変えるのは難しいわよねぇ』
分かっているなら、こんなチャレンジさせるんじゃないわよ。
『ちなみにどういうデザインを持っているの?』
「逆転の発想よ。日本が最終的に開戦に活路を見出した理由は何?」
『ハル・ノート?』
「それは開戦した理由よ。開戦しても何とかなるかもしれないと考えた理由よ」
『……?』
「基本的にはナチス・ドイツよ。ドイツがヨーロッパで攻勢をかけていたから、ドイツがヨーロッパで勝ってくれれば何とかなるかもしれない、と思ったのよ」
1895年編でドイツのツィンマーマン電報事件というのをやっていたでしょ?
メキシコにアメリカを攻撃してもらうように頼んで、日本にも対アメリカ参戦させるから、というものよ。
同じことが第二次世界大戦で、両方側がアクションとして起こしたということね。
そして、日本は対アメリカ戦の希望をヨーロッパのドイツに持っていたわけよ。
「……ということは、ドイツが勝っていなければ、日本は世界を相手には開戦できないということよ。具体的にはソ連がドイツをコテンパンにやっつければいいわけよ」
ギリギリまで引き延ばすならここしかないわね。
ドイツが緒戦の段階でソ連にコテンパンに負けたとなると、日本はアメリカとやりあうプランを持たないわ。
それでもメンツとプライドをかけて開戦する可能性も当然あるけれど、ソ連に助けを求める方が可能性として高いと見るわ。
「つまり、ソ連を短期間でドイツに勝てるようにすれば成功というわけよ」
もちろん、簡単なのは西部戦線の方よ。
つまり、フランスがドイツ軍に勝利するパターンね。
これは実のところかなり簡単で、ドイツの暗号機具であるエニグマの解法を持っていけば実現の可能性は上がるわ。
ただ、西部戦線の難点は時期が大分早いということよ。
2年早いのよね。
だから、ギリギリ攻略にはならないの。
ギリギリのギリを目指すなら、ソ連をドイツに緒戦で勝たせるしかないわけ。
いうなれば、西部戦線転生は難易度Cくらいだけど、達成度もC。
東部戦線は難易度Sだけど達成度もSというわけね。
「ということはソ連に行くの!?」
「そうよ。過去二回はアメリカとかヨーロッパに行っていて、またまた西側では芸がないでしょ? 今回はソ連に行くのよ。モスクワでインターナショナルを歌い上げるのよ」
「でも、粛清とか滅茶苦茶凄いけど、どうするの? ソ連を掌握するの?」
「残念ながらそれは難しいし、そんなことにエネルギーを費やしているとドイツに勝てなくなるわ。スターリンとうまく付き合いつつやっていくしかないのよ」
「本当に難易度高そうだな~」
「難易度は高いけど、全く見込がないわけではないわ」
さて、それでは1922年に転生してみましょう。
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