第43話 富士見桜の影たちとともに
「このチャンスは一回しかないだ。しかも、一度も経験したことのないミッションだ。そう思うとどうしても手が震えてしまう」
「落ちついて。照準器に目標を合わせるんだ」
「誰なんだ?」
正体不明の人影たちが瑛人に重なり合う。また一人、また一人、影が重なるたびに瑛人にのしかかっていた重いものは消え去り、飛翔体の操舵は楽になっていった。
今度はアンビリカルケーブル経由で別の声が聞こえる。
「頑張りなさい。きっと、できるわよ」
「誰?」
「空母を動かしているのは私じゃないわ」
「?」
「作戦があるわ。そのまま飛び立ちなさい」
「わかった」
瑛人は指示に素直に従った。
東京湾上空で待機していたF3より極超音速ASMが発射された。極超音速ミサイルはロケットブースターで加速したのち、ラムジェット燃焼を開始。速度はマッハ9に達した。極超音速ASMに憑依した速水瑛人は、一人称視点で軌道を微調整し続けていた。
「うおおおおお」
その時、ジャンヌ・ダルクの後部に搭載されていた対ドローン用の近接防空システム3基が起動。迫りくる極超音速ミサイルをめがけ連続射撃を開始したが、極超音速で飛来する物体は迎撃できない。一方、速水瑛人は、照準器に必死に空母を補足し続けていた。
「ふはははは。ほんのあと数行で、完成だ、世紀の名作がな!!」
夙川隆作の執筆も最高潮に達していた。
その時、目を覚ました染野桂子は、機材周辺で感性ロボット『コビット』が動きまわっているのを目撃した。
「あ、『コビット』が動いてる」
『コビット』は、夙川隆作と速水瑛人の筐体につながる配線を入れ替えると、操作卓上でスイッチを押した。
極超音速ASMが空母に衝突すると、夙川の体が激しくのけぞり、卒倒。そして気を失った。衝突の直前、『コビット』の操作により極超音速ミサイルの搭乗者が夙川に入れ替えたのだった。
その時、夙川邸を取り囲んでいたサイバーテロ用の機動隊がなだれ込んできた。機動隊は元独裁者のロシアの元大統領の逮捕令状を持っており、警視自らが陣頭指揮を執っていた。
突入した機動隊はまずスカイグラディエーターの筐体にぐったりしている速水瑛人を発見した。そのARヘルメットのブラックアウトし、偏向レンズは縦横無尽に走った亀裂だらけとなっていた。
「この青年は?」
「おそらく、速水氏のご子息です」
「意識状態が低い。いますぐ白金台に搬送しろ」
次に機動隊は夙川隆作の身柄を確保した。
「どうした。死んだのか?」
「いえ、生きています。これは夙川隆作本人のようです。シラミ=ジルのデジタルツインは夙川隆作の体からいなくなっています」
「くそ、逃げられたか。付近一帯を捜索しろぉ!!」
屋敷内を捜索する機動隊の足元で、夙川隆作のデジタルペンがカタカタと音を立てていた。
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