第41話 生物ドローン兵器の恐怖 イーグルvsハチドリの群れ
「次の相手は、この慶應女子だ」
夙川隆作の視線の先に立ってたのはARヘルメットをかぶった状態の染野桂子であった。染野の輪郭が青白く光る。その動きは、まるで意思のない操り人形のようであった。
「この女子は、屋敷の入口辺りで、たまたま貧血で倒れていたのを介抱したものだ。ついでにと言っては何だが、この女子にも協力してもらうことにした」
夙川隆作は催眠術をかけるように染野桂子に向けて語りかけた。
「第一書記の女よ、お前は今から『イーグル』だ。向こうにいるハチドリをお前の爪でいまから八つ裂きにしろ」
大型スクリーンには、仮想空間の岩場の上にたたずむ大鷲と無数のハチドリが映し出されていた。イーグルに憑依しているのが染野で、染野が右腕を持ち上げると、スクリーン上のイーグルも連動して翼を広げた。鷲の胸にはカプセルがはめ込まれているのが見えた。その中には青い炎が静かに揺らいでいるのが見える。青い炎のカプセル。それは、病室のスクリーンでみた母親の魂の象徴「エスピリット」と全く同じである。
「さあ、ドローンファイターよ。イーグルの胸のカプセルを取り戻せ。逃げ去ったら、それまでだぞ」
染野桂子の魂はイーグルのカプセルに閉じ込められているのだ。イーグルが飛び去ることは、染野桂子の魂がネットワーク上に散逸し、行方不明になることを意味していた。瑛人の母親と同じように。
「おい、夙川。シミュレーターを止めろ!今すぐだ。聞こえないのか!!」
瑛人は大声で叫んだ。
夙川は瑛人の声を無視して、デジタルペンで筆記作業を続けていた。
瑛人が仮想空間に没入すると、仮想空間上に配置された二百匹のハチドリに憑依した。辺りは岩肌が露出したしており、日の光がまぶしく照りつけ、潮の香が満ちていた。かつて、夢の中でみた硫黄島と同じであった。
瑛人のスキルでは無数のドローンを同時に動かすことが可能。まず、瑛人がやったことは、ハチドリを使って、イーグルを取り囲むことであった。イーグルが仮想空間から逃げ出さないようにするためであったが、異常を察したイーグルは激しく暴れ始めた。
イーグルとハチドリが激突した時だった。画面上で一匹のハチドリは爆発して砕け散った。染野桂子の体が一瞬、痙攣すると鼻と耳から流血、同時に速水瑛人の右肩は青あざで腫れあがった。ARヘルメットを通じてバックプロパゲーションしたのだ。
「言い忘れたが、ドローン同士が接触すると爆発するからな」
そう言いながら夙川は一心不乱にデジタルペンで執筆を続けていた。
200匹のハチドリを同時に操作するため、瑛人のARヘルメットの感度設定は限界をはるかに超えていた。そのため、瑛人には通常の何倍ものダメージが伝わっていた。鼓膜が破れたり、目や口から血が出たり、鼻血を出し、それでも恋人の憑依したイーグルと格闘していた。
「夙川。どんな状況なのかわかってるのか!!」
瑛人は叫んだが、夙川は全く相手にしなかった。速水瑛人はさらにARヘルメットの感度を上げ、10匹で縦列編成を作った。ハチドリたちは縦一列に並んで突撃体勢を整えていた。
そこで夙川隆作が介入した。
「おい、染野。知らなかったかもしれないが、こいつは自宅で桜花のデータを解析して超音速ミサイルを開発した人物だ。あと、遠隔操作でフランカーやクレムリンに攻撃を・・・」
「や、やめろ」
速水瑛人の攻撃は空を切り、不発となった。
「どうした、ドローンファイター。操作ミスか?面白い。面白すぎるぞ」
しかし、次第にイーグルの戦意は失われていった。黙々と仮想空間中のイーグルを操作していた染野であったが、おもむろに正気になったようにしゃべりだした。
「瑛人君って・・・自宅でミサイルの仕事をしてたのね・・・」
染野桂子の頬に涙が一筋流れた。
「だから、私が家に遊びに行ったらダメだったのね。ごめんなさい」
イーグルは突然、攻撃をやめて、自爆した。染野桂子はその場でぐったりとして動かなくなった。
「HA、HA、HA。こいつはYABAI、YABAI。事実は小説よりも奇なりぃぃぃ!!」
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