第9話 美咲の中学受験、目標は桜蔭、前受校は・・・
翌年の1月、速水瑛人の教え子である美咲がついに中学受験本番を迎えた。美咲の本命校は私立女子中学の最難関、桜蔭中学である。
しかし、問題が起きた。1月の前受校をいきなり全滅したのである。持ち偏差値より15ほど低い。確率論的には考えられない。本番が始まる前にいきなりがけっぷちの状態となっていた。
その日、美咲、瑛人と母親は家族会議を行っていた。
「美咲。あなた、解答欄が1個ずつずれてたとか、名前を書き忘れたとか、そういうのじゃないの?」
美咲は黙っていて何も答えない。瑛人が代わりに応える。
「まあ、仮にそうだとしても結果は変わりませんし、不合格の点数はぎりぎりです。あとで繰り上げの可能性もあります。ただ、気になるのは、公民がまだ苦手な気がするので、公民の補強をした方がいいんじゃないかと」
入試の点数がわかる理由はなんなのか?私立中学の結果、特に前受校の場合だと、合否だけではなく、科目別の採点結果が開示されるのである。
試験科目は算数、国語、理科、社会の四教科。だいたい、社会が最後の方で、公民分野はその中でも最も後半。しかし、公民の得点率が異様に低い。過去の模試の結果を考えてもありえない。
瑛人は美咲の方を見ながら、同じことを話した。
「苦手な公民の復習をしようか?」
「いや、桜蔭の過去問をやる」
「桜蔭じゃなくて、豊島岡に下げるとかはどうかな?」
「そんなの絶対にいや」
それを聞いて、母親は急に誇らしげなしゃべり方をし始めた。
「まあ、美咲ったら意地になっちゃって。きっと私に似たのね」
母親が仕事のために退席し、二人は勉強部屋に向かった。
美咲は、桜蔭に始めると1年分の過去問を瞬殺した。
「すごいね。ひょっとして答えを丸暗記しているのかな?」
「実はね。私のコンタクトレンズ、スマホになってて答えが映るようになってるのよ」
「本当?どれどれ見せて」
瑛人は美咲の眼球をじっくり見つめた。
「そもそもコンタクトなんてしてないじゃないか」
「今から違う学校の過去問をやるのよ」
美咲は机の引き出しから、別の学校の問題集を取り出した。
「あと、先生、お願いがあるの」
「何だい?」
「私のお年玉あげる。あと、ちょっと、ごにょごにょ」
「え、その作戦はどうなんだろう」
美咲の机の上には前受校の問題冊子が放置されていた。瑛人はその問題冊子の下書きに点数計算をした痕跡があることに気づいていた。
美咲は、どうやら、試験時間中に自分がどのくらいの点数が採れるのかあらかじめ把握しながら、解答していたようだ。いったい、何のために?
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