第11話 ついに、桜蔭中学入試を欠席していたことがばれる
2月4日、例によって瑛人は美咲の入試同伴をしていた。その渋検見の入試の途中、瑛人の携帯が鳴った。美咲の母親からだ。母親はかなり慌てている。
「先生、さっき、パリピックスから電話があって、桜蔭の試験、欠席してたみたいだっていわれたの。何かの間違いなんじゃないかしら?今年はエベレストクラスでも御三家落ちる人も多かったみたいだからパリピックスも混乱して、変なことをいってるんじゃないかしらと思うの・・・。あ、あんなに一生懸命に過去問やっていたのに、どうして、どうして。ううう」
電話越しに母親は泣き始めていた。
「お願い、せんせい、私の代わりに桜蔭の入試結果を見て…」
そして、母親との通話は切れた。
パリピックスは、事前に受験者のIDやパスワードを知ったうえで結果を照会したものと思われる。絶対に手違いは無いはずだ。こっちで改めて結果を見たところで間違いなく桜蔭の結果は不合格だろう。
いずれにせよ渋検見2回目は倍率的にも難易度的にも無理がある。桜修館も手を抜いた形跡がある。さすがにこれで受かる桜修館ではないだろう。可能性があるとしたら、こっそり受けた渋溜の繰り上げか。
全滅オーラが出ている。他にこっそり受けていたところないんだろうか?
2月中は繰り上げ合格の可能性が残されているが、桜蔭は欠席である。天地がひっくり返っても繰り上げ合格はないだろう。
数日間、母親は寝込んでしまった。
渋溜も不合格だったが、報告できなかった。
しかし、奇跡が起こった。渋検見2回目が合格だったのである。母親はベッドから飛び起きて、親戚中に電話しまくっていた。奇跡の合格のおかげで何とか家庭崩壊を免れることができたようだった。一通りの入学手続きが終わったころ瑛人と美咲はファミレスで落ち合った。
「せんせい、わたしのこと嫌いになったでしょ」
こんな厄介な小6女子はこの世にいないだろう。しかし、瑛人もう少し小遣い稼ぎがしたいと思っていた。正直に伝えるわけにはいかない。
「そんなことないよ。美咲ちゃんのこと好きだよ」
「ぜったい、ウソ」
美咲はテーブルに運ばれたスイカソーダを飲み始めていた。
「わたし、将来、国連職員になるから」
「いいと思うよ」
「ねえ、せんせい。渋検見の予想問題、あれ、先生が作ったの?」
「まあね」
「まったく、同じ問題が出てたわよ」
「えっ。そんなことある!?」
「うそうそ。受かったのは私の実力よ」
美咲が飲み干したグラスには氷が何個か残っていた。
「先生が26歳までに彼女できなかったら、私が付き合ってあげるわ」
「なんで26歳なの?」
「わたし、国連職員になって世界の紛争や難民を解決するの。大学も海外の大学に行く。だから6年後には日本にいないと思うの」
つい、この間まで、自分が中学受験難民になりかけてたくせに、難民問題を解決するとかよく言えたな。それに、その理屈だと社会人になったときの俺は女子高生と付き合うことになるのだが。
しかし、美咲ちゃんは少し自尊心が強いので、自尊心を傷つけずに断る方が無難だ。
「だいじょうぶ。もう彼女いるから」
「なにそれー」
美咲は、グラスの中の溶け始めた氷をストローで懸命に吸い込んでいた。
「彼女の写真見せて」
「いいよ」
瑛人はスマホにある染野桂子の写真を見せた。瑛人は心の中でつぶやいていた。
ばれない。ばれない。この二人の接点はないんだから。
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