第2話 現役合格の慶應大学生、染野桂子
その日、「ドリームサーキット秋葉原店」で「スカイグラディエーター」の筐体を降りようとすると、大学生っぽい女子がのぞき込んでいた。瑛人は思った。このゲームがやりたいのか?だとしてもそこに立っていたら筐体から出るのに邪魔なんだが。
ちょっと、表面がてかてかしたジャケットを羽織っていたその女子は、まじまじとディスプレイをのぞき込んでいた。瑛人の位置から女子を見ると、ちょうど見上げる形になった。その女子のネックレスやイヤリングがきらきらと揺れている様子が見えた。ふだん、この角度で女子を見上げることはなかなかないだろう。女子は躊躇することなく瑛人に声をかけた。
「あなたが『ドローンファイター』だったの?」
その女子の声を聞いて瑛人は思い出した。こいつは、予備校の同級生の染野だ。まともに会話したことがないのに、なんて、馴れ馴れしい態度なんだろう。
しかし、実際に画面には『DRONE FIGHTER』と表示されている。何の言い逃れもできない。
「まあね」
瑛人は静かに答えた。確か染野は慶応大学に進学したはず。こちらが浪人していると分かっていて声を掛けているのか?嫌味なやつだ。このまま立ち去ってもよいのだが、少し会話してみよう。
「染野さんがスカグラをやるだなんて意外だね」
「この前の東大模試。結果どうだったの?」
こちらの質問を無視したうえで、浪人生にそんなことを聞いてくるだなんて、どういう神経なんだ。どうかしている。
「B判定。まあ、B判定で十分だと思ってるけど」
「そうなの、わたし、D判定だったわ。1回目はA判定だったのに油断したわ」
「は?慶應大学はどうなったの?」
「私は東大に行きたいのよ。親が現役にこだわるから慶應に進学したの。あなたみたいにわざと滑り止めを不合格にするだなんていう度胸はなかったわ。来年の入試に受かって、わたしは東大に行くのよ」
わざと不合格??はは、そんなことあり得ないんだけどな。
「ねえ、今度、あなたの複座に乗せてよ」
相手は現役大学生だ。一緒にゲームで遊んでいる余裕あるんだろうか?しかし、いろいろ情報交換できるかもしれない。これもよいだろう。
「いいよ」
スカイグラディエーターの筐体には、二人乗り込める形態の筐体が用意されている。しかし、その場合、二人乗りでも操縦できるのは一人で、もう一人もARヘルメットを装着して、同じ戦闘画面を体験できるようになっている。これが複座システムである。
その後、速水瑛人と
「ドリームサーキット秋葉原店」の入り口近くのディスプレイに「スカイグラディエーター」の月間ランキングが表示させていた。
1.DRONE FIGHTER 11854ポイント
2.NOBELIST 7533ポイント
3.KEIO GIRL 5420ポイント
10.KING KAZU 4480ポイント
ここでの1位「DRONE FIGHTER」が速水で、3位の「KEIO GIRL」が染野であった。
速水瑛人は一覧表をみて気づいた。2位の「NOBELIST」は綴りが間違っていて、本当は「NOVELIST」が正しいんじゃないだろうかと。
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