ドローンファイター コーカサスの白い悪魔と遠隔パイロット速水瑛人
乙島 倫
第1話 予備校生の速水瑛人はアーケードゲームにはまる
速水瑛人は、とあるアーケードゲームにはまりつつあった。
そのアーケードゲームの設置してあるゲームセンター「ドリームサーキット秋葉原店」は秋葉原の外れにあり、速水瑛人が通うお茶の水の予備校から、徒歩で行きつくことができた。
速水瑛人は朝から夕方まで予備校で過ごし、放課後、何時間か自習室で自習した後、帰宅途中でゲームセンターに立ち寄って、ゲームをして帰るという日常だった。
速水瑛人がはまりつつあるゲームとは「スカイグラディエーター」という戦闘機同士の格闘戦のゲームで、360度の全面ディスプレイに加えて、専用のARヘッドマウントディスプレイでオーバーレイ表示するという二重スクリーン構造の筐体の中でドッグファイトを体験できるというものだった。
自機は、通常、戦闘機の中から選ぶ。選択可能な機体はF15やF16だけではない。無人機、ドローン、挙句の果てには民間機まで選択できるという設定になっていた。
ただ、はっきり言ってしまうと、何の兵装も持たない民間機と軍用機のバトルは超絶に難しい。この場合、民間機は味方の援護を受けながら、軍用機の攻撃をかわしてエリア外に退避することが勝利条件となっている。
なお、民間機ミッションを除くと、最も難易度が高いのは、無人機vsF22と言われている。
速水瑛人は、すでにF22を5回も撃墜したことがある程の腕前であり、速水瑛人はハイスコアランキングの常連であった。今日は、無人攻撃機X47のガトリング砲で猛禽類ラプターを破壊。スコアランキングにはいつも通り「DRONE FIGHTER」との名前を刻んで、この日の日課を終えることができた。
速水瑛人の父、速水正一は無人戦闘機の設計技術者である。無人戦闘機は国家防衛機密の塊であるが、なぜか、よく在宅勤務している。むろん、自室への立ち入りは固く禁止されている。母も防衛関係の仕事をしている国家公務員で、外国に派遣されて、最新鋭の防衛装備品の研究を行っていると聞かされている。親父はよく口にしていた、『特攻機をなくすことは、人道的である』と。
ある日、たまたま父の仕事部屋の鍵が開いていて、瑛人は中に覗くことができた。
中身を見ると机の上には、零戦や桜花などの特攻機の記録が無造作に置かれていた。その時だった。
「見るなと言っただろ。特特ランクの国家防衛機密だぞ」
びくっとして振り返るとそこに父が立っていた。
「ははは、そんな機密区分ないよ。無人機の学習データに特攻機の飛行記録を使っていたんだよ。レシプロ機だから、ドローンにちょうど良い。桜花は超音速ミサイルの参考になる」
父はあっさりと仕事の中身をばらしてしまった。
瑛人は思いがけない申し入れをしてしまった。
「なあ、おやじ、この桜花の飛行データの解析だけど、俺にもやらせてくれないか」
「はあ?」
不思議なことに親父は特に反対しなかった。この日から、予備校での受験勉強もこなしつつ、親父の仕事も手伝いもこなすこととなった。
夏休みも瑛人は、毎日のように予備校に通い、授業がある時間以外は自習をしていた。
瑛人は思った。当たり前のことだが、夏は暑いので、服の丈は短く、薄地である。男子も女子もそうである。しかし、夏の間に勉強を頑張っている受験生の場合、冷房のきいた自習室にいるから長袖とかを着ていることがある。半袖でおしゃれな格好の女子は頑張っている受験生ではないのだろう。まあ、俺の偏見なのだが。
今日も、熱いコーヒーを飲みながら、瑛人は課題を黙々とやり続けた。そろそろ、8月末に受けた第2回東大模試の結果が返ってくる時期となっていた。
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