第4話 瑛人の東大受験、結果は・・・

 ついつい桜花の解析に時間を費やしてしまったため、寝不足状態で臨んだセンター試験であったが、結果は900点中887点とまずまずの出来栄えだった。

 ふふ、あと1点でぞろ目だったのに。油断した。速水瑛人は結果を見ながら一人でにやっとしていた

 お茶の水の予備校の教室内ではセンター試験の結果について会話が聞こえてきた。

「ああ、俺はぞろ目。777点だった」

「数学でやられた。66点だ。数学って一か所ミスると、ごっそりなくなるから・・・」

「それ、ちょっと危ないんじゃないの?」

「おれ、理科Ⅰ類じゃなくて、理科Ⅱ類にするわ」

「おい、それやめろよ。入試直前に科類を変えると理科Ⅱ類の倍率が上がるだろ」

 予備校内の他の生徒の会話が耳に入ってきていたが、手元では瑛人は昼ご飯をたべながら、スマホでニュース番組を見ていた。ニュースでは、アッシリア共和国で発生したドッグファイトについて伝えていた。現地メディアでは、敵機を2機撃墜したF16のパイロットは英雄として称えられていた。


 東大の二次試験の前に、滑り止めの慶應を何とかしなければ、昨年度は集中できなかった。なぜなら、数学の問題で翼の揚力の計算問題が出てしまい、ついつい、その問題に時間を取られてしまったからだ。 


 今回はちゃんと集中しよう。

 窓の外に見えるあの黒い物体は何だろう?

 ドローンだろうか?

 何だろう・・・。

 いや、今は試験に集中しなければ・・・。

 慶應に行くことになったら、染野の後輩になってしまうんだろうか?

 その時、どんな風にしゃべればいいんだろう。

 学年が違うとやはり敬語なんだろうか?

 いかんいかん、今は試験に集中しなければ・・・・。


 慶應の試験が終わった。後日、速水が試験結果を開封するとき、少々緊張したが、何とか慶應は合格することができた。


 慶應大学の合格発表の数日後、速水瑛人は息抜きに秋葉原のドリームサーキットに向かった。少し間が空いたが、腕は衰えていなかった。瑛人はスカイグラディエーターでF22を2機連続で撃墜。すると、隠しステージが現れた。

 今回の隠しステージは長距離ドローンでモスクワのクレムリンを攻撃するというものだった。未知のドローン機体への搭乗は瑛人の胸を高鳴らせた。

 実際にミッションをスタートさせると、どうしたことか、相手国から迎撃機は来ず、迎撃システムもなく、ただひたすら、ドローンになって飛行し続けるばかり。終いには、モスクワまでほとんど何の障害もなくたどり着いた。辺りはタマネギ形のドームをもった建物がいくつも見えた。テトリスの世界だ。瑛人の操縦した長距離ドローンは、クレムリンの中になる独裁者の執務室に突入。この攻撃により、独裁者は爆死した。

 不思議なことにミッションが終わっても、すぐにゲーム終了とならなかった。ARディスプレイはフロア内の様子をしばらく映し続けていた。フロア内では炎上したフロアを消火作業で走り回る人の姿や、爆死してばらばらになった独裁者の様子などが生々しく映し出されていた。東大二次試験の直前にも関わらず、すっきりしない終わり方であった。

 その日の帰宅途中、瑛人は駅から背後にだれかにつけられているような気配を感じた。瑛人は振り返らずに静かに自宅に入ると、正面道路の見える部屋に移動。電気を付けずにカーテンのすき間から外を覗いた。すると、電信柱の物陰に誰かが潜んでいるのが見えた。

 尾行されていた?

 瑛人はホビー用の小型ドローンを室外で操作し、赤外線カメラで尾行者の写真を撮影した。しかし、尾行者はそのうちいなくなっていた。


 翌日は東大入試の日だった。瑛人は朝の日課でいつも国営放送のサテライトニュースを見ているが、今日は少しでも試験会場に行った方がよいと判断し、早めに家を出た。

 瑛人が消し忘れたリビングのTVではサテライトニュースが流れていた。

「日本時間の昨夜、クレムリンの大統領府に長距離ドローンが命中し、シラミジル大統領が死亡しました。この攻撃を受け、ロシア政府は特別軍事訓練を休止すると発表しました。なお、この攻撃に使用されたドローンの飛翔経路は不明です」

 TVの画面に映し出された映像は、昨夜、ゲーセン『ドリームサーキット』で速水瑛人がみたものと全く同じであった。

 翌月の3月10日、速水瑛人は無事に東京大学理科Ⅰ類への合格を果たした。

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