第24話 知能電子工学科のコンタクトグループ
知能電子工学科に進学した染野桂子であったが、シケ長のポジションである第一書記に就任。知能電子工学科は実習課題も授業コマ数も膨大で、学生たちは学業に忙殺されていた。
知能電子工学科には教員と学生の交流活動が存在した。俗にいうコンタクトグループである。コンタクトグループは、学科内の学生がランダムに何人かごとにグループに分けられ、教員と交流活動を行う。実際は、だいたいの場合、一度か二度程度、会食を行う程度である。
3年生夏学期のとある休日、第一書記の染野を含む学生グループが山路先生の自宅を訪問していた。染野のコンタクトグループの担当は山路教授でらご自宅は千葉県某所である。
意気揚々と対応する山路教授に対して、家族はなぜかよそよそしい。山路教授が家族に何か発言すると「ねえ、美咲ちゃん、お父さんが・・・って言ってるわよ」とか、「お母さん、お父さんが・・・って言ってるわよ」とか、なぜか伝聞口調で話が伝わっていた。
山路教授は家族と直接の会話がなかなか成立していない。
「おーい、『みさえ』」
山路教授が娘に声を掛けると、娘はつんとした表情で立ち、自室に入ってしまった。
これを見た学生たちが小声でひそひそと会話をした。
「おい、いま、『みさえ』って言わなかった?あの娘さんって『みさき』だったよね。なんで、違う名前で呼んだんだろう」
「ちょっと、わからないな・・・」
どうやら、山路教授は実の娘の名前を間違えて『みさえ』と呼んでしまったようであった。
なお、この娘さんは、渋川学園検見川に通っているそうだ。
山路先生が立ち上がり、廊下に向かって声を出した。
「おーい、東大生が来てるんだぞ。ちゃんと話を聞きなさい」
娘は自室の中から返事をした。
「こっち来ないで。私はぜったいにお父さんのいる東大なんて行かないんだから」
「ちょっと、まちなさい」
廊下から親子の口論が聞こえた。
代わりに山路教授の奥さんが入室し、にこやかな表情で学生たちに対応していた。
「うちの子ったら、どうも父親と気が合うみたいなのよね。ほら、似てるでしょう。おほほほ」
山地先生のお宅はちょっと大変そうだった。
染野桂子が作成した第一書記の引継ぎ資料には『コンタクトグループの接触については、自宅については考慮すべき。選択肢としては、工学部2号館の松本楼か山上会館の食堂が無難』と追記された。
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