第25話 工学部2号館松本楼の瑛人と染野
工学部2号館の松本楼で速水瑛人と染野桂子は昼食を食べていた。松本楼は、東大構内に出店しているおしゃれなレストランであるが、わざわざ工学部2号館を選んで出店しているところが何とも不思議である。普通の学食と異なり、ウエイターが席に案内し、グラスで水を提供し、注文を取りに来るのである。無論、どのメニューも1000円~1500円という価格帯で、東大生と言えども学生が普段使いできる店ではない。
注文を取りに来たウエイターに瑛人と染野は注文を伝えた。
「わたし、ハイカラハヤシカレーで」
「じゃあ俺はオムライスで」
「かしこまりました」
ウエイターが席を離れると染野と瑛人は世間話を始めた。
「どう、知能電子工学科は忙しい?」
「なんか忙しいね。工学部の中でも複素関数までやっているのはうちだけだし、学生実験が本格的に始まったら、みんな寝れなくなるんじゃないかしら」
瑛人は染野の手元にあった時間割を見た。
「これ、知能工学部といいつつも、電磁波とか量子力学とか物理系の授業もあるんだ。これは大変だね」
「まあね。でも、私は第一書記だから文句は言えないわ」
「第一書記ってなんだっけ?」
「シケ長の事よ」
瑛人がグラスの水を飲もうとしたときだった。瑛人の右腕に青あざができているのが見えた。
「瑛人君、どうしたの?なんで怪我してるの?」
「え、ああ、これは何かにぶつけたのかな」
「瑛人君、最近、寝不足そうに見えるけど大丈夫?」
「課題かな・・・」
「え、意外だね。演習とかだといつも一番目ぐらいに終わらせるじゃない」
「ほかに親父の仕事の手伝いを・・・」
「えー、すごーい。何をやっているの!何をやってるの!!」
「設計とか・・・」
ほどなくして、注文したカレーとオムライスが届いた。
「ちょっと、まって」
染野は自分のスマホを渡して、ハイカラハヤシカレーを人さじすくってポーズを取りニコリとした。瑛人がこれを撮影。これも都築光写真集の構図の一つである。
「ねえ、桂子ちゃん、今日の午後、安田講堂で弁論大会があるんだけど行く?」
「ごめんなさい。私のグループ、学生実験が終わってないの。今から3号館に行かないといけない」
「どんな実験?」
「三相交流発電だよ」
ちなみに、この工学部2号館、戦前には何学科が入っていたかご存じでしたか?
(注)火薬学科、造兵学科、航空学科など
戦後に解体されている
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