第23話 瑛人の操るF3心神 狙いは・・・

 オープンディスプレイ上では、各戦闘機が離陸滑走する姿が映し出された。レーダー画面上の右下からF3心神が、レーダー画面の左上からはF14トムキャッツとラファールが出現した。F22はステルス性が高く、レーダー画面には投影されてない。

 瑛人は、頭の中でこれから始まるドックファイトの作戦をまとめつつあった。ディープパイロットモードで蹴散らすか?いや、F22、F14とラファールと組み合わせ・・・。結局、敵は1機。

 F3心神の射程範囲のかなり遠くから、夙川隆作の操縦するF14は長距離空対空ミサイル『フェニックス』を発射。フェニックスは旧ソ連の爆撃機を迎撃するためのものである。最大射程付近から発射したフェニックスを最新型戦闘機に命中させることはそもそも難しい。F3心神は慎重に『フェニックス』をかわした。

 F14は何度もフェニックスを発射したが、心神はすべてかわした。これにより瑛人はおおよその見当をつけることができた。

 F14がフェニックスを乱射してきたということは、F14が先頭にいるはず。フェニックス多数を搭載していたということはF14には対空戦闘用の誘導武器はほぼ残っていない。ラファールを仕留めれば、この勝負、負けることはないだろう。

 F14の少し斜め後方にラファールがいる。だとしたら、F22の位置はこのあたりにいるはずだ。

 瑛人はF14の後方の何も見えない空間に機銃を発射した。無論、有効射程圏外である。しかし、F14とラファールは一斉に回頭した。

 瑛人は思った。ふふ、やはり、F22はそこにいたのか。しかし、狙いはまずはラファールだ。

 心神は、下からもぐりこみ、ラファールにロックをかけた。ラファールはF14とF22に挟まれて回避行動がとれない。

 夙川が廣村に向かって叫んだ。

「フレアーで回避しろ」

「で、できない。この位置だとフレアーが佐々木さんに当たる。わあああ」

 ラファールは撃墜された。F22とF14が空対空ミサイルを乱射してきたのをチャフで回避。誘導武器を打ち尽くしたF14をロックオンすると、誘導武器を発射する前にパイロットは緊急脱出。ゲームオーバーとなった。

 せっかくのステルス機も、僚機と編隊を維持すれば位置はばればれ。しかも、ミサイル発射の瞬間はレーダー画面に映る。

 佐々木カズヤのF22ラプターと速水瑛人のF3心神は誘導武器を打ち尽くし機銃で撃ち合うようになった。互いに山肌に追い込み、なんとか照準を合わせようとしていたが、時間切れが迫っていた。この勝負、引き分けなのか?

 その時、山の合間から無人機が現れF22に突撃した。撃墜の衝撃で座席がバウンド。その衝撃で佐々木カズヤが操縦席から放り出された。

 突然の出来事であった。瑛人が操作していたサブユニットの無人機がF22に特攻していたのだった。瑛人は言った。

「1対1とは言わなかったよね」

 筐体から転げ落ちたカズの表情は怒りに満ちていた。

「いつの間に無人機を仕込んでやがった」

 怒りで顔を紅潮させるカズ。

「うぉぉ」

 メンソールタバコを咥えた梅塚香織が佐々木カズヤをやたらと急かし立てていた。

「どうするの?やるの?やらないの?」

 速水瑛人が状況を見かねて、二人に割って入る形で声をかけた。

「明日、試験なんでしょう。早く帰ったらどうですか?」

 佐々木カズヤが吐き捨てるように答えた。

「約束なんだからな。守ってやる」


 渋谷のセンター街で、スキップしながら移動する学生グループがいた。上半身の着衣はなく、それぞれの背中には「法4」、「文Ⅰ」、「文Ⅲ」などとマジックで書かれていた。

「東大法学部4年の佐々木です。ほんとうでーす。学生証はこれでーす。明日、司法試験でーす。択一がんばりまーす」

 道行く人々の注目を浴びるどころか、逆に目を背けられていた。

「ひそひそ」

「東大生って言ってるよ。本物か?」

「法学部?まじで?」

「『タクイツ』って、何?」

 佐々木の後ろにいる廣村が夙川に話した。

「別に、俺たちまでやる必要なかったんじゃないのか?」

「まあ、『ふんどし』よりましだと思えよ。それに、先輩を一人だけにやらすわけにはいかないだろ」

 佐々木カズヤは振り返って声を掛けた。

「中途半端なことをすると、余計恥ずかしい。やるなら、徹底的にやり切らねば」

 道端の見知らぬ誰かから声がかかった。

「明日、試験がんばれよー」

「ありがとうございます。がんばりまーす」

 佐々木はわざとらしいぐらいに気さくに対応していた。

 夙川が忙しそうに手元でスマホに文章をタイプしていた。この様子に廣村が気づいた。

「さっきから、スマホで何を書いてるんだ」

「これ、今書いている銀杏並木文芸賞の原稿に入れようかと」

 廣村は夙川を二度見した。

「おい、お願いだから変なことを書かないでくれ」

「大丈夫。本名は出さないから」

 梅塚香織、速水瑛人と染野桂子はちょっと離れたところから見守っていた。

「ちゃんと約束守ったわね。見直したわ。さっき、もし、手を出したら、別れようかと思ってたんだけどね。ふふふ」

 もし、佐々木カズヤが手を出していたなら、梅津香織は、択一試験の前日の夜に別れ話を切り出していたのだろう。怖い女だ。と瑛人は思った。

 気づくと、速水瑛人のすぐ後ろに夙川がひっそりと潜んでいた。

「ちなみに、僕はディープパイロットモードが見られるかと思っていたんだがな・・・」

 なぜ、そのことを知っている?そういえば、夙川が使っていたコールサイン「NOBELIST」どこかで見たことがあるような気がする。瑛人はそう思ったが、思い出すことができなかった。

 その後、佐々木カズヤは、翌日の試験の択一試験をパスし、その後、論述も口述も合格し、司法修習生となった。

 

 その後の進学振り分けで染野桂子は知能電子工学科に、速水瑛人は知能航空工学科へと進学。なお、文科系でも文Ⅲには進振りがあるが、スマホで銀杏並木文学賞の原稿を執筆していた夙川隆作の進学先はロシア文学科だったと言われている。


注) 東京大学にスラブ文学科はありますが、ロシア文学科はありません。

  ロシア文学科はフィクションです。

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