第22話 東大法学部5年の佐々木カズヤ

 佐々木カズヤは法学部5年である。去年、司法試験に落ちたため、留年して再挑戦の準備中である。その日は渋谷にある司法試験予備校の斎藤塾に行った帰りで会った。後輩からは佐々木さんとか、カズさんとか呼ばれている。

 廣村康介と夙川隆作は2年で、それぞれ、文一、文Ⅲである。佐々木、廣村、夙川の3人は全員、開聖出身である。

 スカイグラディエーターの筐体は全部で5台設置されていた。各筐体は半個室のようになっていて、ARヘルメットと全球型のスクリーンの二重スクリーンである。『ドリームサーキット渋谷店』の筐体は機体の動きに応じで座席が傾いたりバウンドしたりする機構になっていて、さらに、参加者間の空中戦を鑑賞できる大型のオープンディスプレイが備えられていた。


 佐々木カズヤはスカイグラディエーターの筐体に乗り込むとF35を選択した。F35は最も操縦性、ステルス性と誘導武器の命中率も高い無難な機体である。

 一方、速水瑛人はF3心神を選択した。速水瑛人がF3心神を選択したのを見届けると、佐々木カズヤは手元の操作キーを通じて秘密コマンドを打ち始めた。ヘルメットの下の口元はにやついている。

 コマンド入力後、画面上のF35は光り輝き、一瞬見えなくなると、その光の中からはF22が出現した。コマンド入力はF22を出現させるための隠しコマンドだったのだ。佐々木は高笑いを始めた。

「はははは。今のうちに、その彼女にドラッグストアに行って風邪薬でも買ってきてもらいなよ。これから渋谷の街を服脱いで歩くんだからな」

「まあ、彼女ですって」

 染野は一人で照れていた。

 夙川隆作が廣村康介に目配せすると、二人はそれぞれ別の筐体に乗り込んでいった。夙川隆作が少し振り返って念押しをした。

「べつに1対1とは言ってないよね」

 廣村康介はラファールを、夙川隆作はF14を選択して参戦した。これで、速水瑛人のF3心神はF22を含む3機との対戦となった。

 カウントダウンが進む。あと15秒ほどで空中戦が開始される。3対1の対戦になりつつある状況ようやく気づいた染野桂子が身を乗り出した。

「こんなのずるい。だったら、私はF15で・・・」

 佐々木カズヤグループの女性が染野桂子の前に手を伸ばして進路を遮った。手の先にはメンソールタバコが握られている。

「勝手にやらせればいいのよ、これは雄蜂たちの戦いだから。私たち華の女子がいちいち首を突っ込む必要はないわよ」

「あなたは?」

「私は梅塚香織。去年、司法試験に合格した司法修習生よ。そこにいる去年択一で落ちた佐々木カズヤとは同期よ」

「文Ⅰなんですか?」

「わたしは文Ⅱのネコ。斎藤塾っている塾でダブルスクールして試験対策したら文Ⅰも文Ⅱも関係ないわ。ふだん『にゃー』とか言っててもね、本気出したらちゃんとやるのよ」

 香織はメンソールタバコを口にくわえた。

「カズはどうかしらね。ふふ」

 速水瑛人のボタン連打でカウントダウンが一気に進み、ドッグファイトが開始された。

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