第33話 卒論でゴミ掃除ロボットを開発 映像に聴衆がざわざわ
4年の冬学期、知能電子情報工学科の学生たちの卒業研究が進むにつれ、学生たちはそれぞれ必要な実験機材を確保するようになった。卒業論文のテーマ選定で出遅れた染野は思うように実験機材が確保できず、廃棄物の中から使えるものを探していた。
「あ、まだ、使えるものがたくさん廃棄されている。すごいな、東京大学は」
染野は、ついつい、機材の物色に夢中になってしまった。
真冬に屋外で機材を捜索した甲斐あって、染野は学卒研究の途中で新型コロナに罹患。自宅療養をしながら実験に取り組むこととなってしまった。
しかし、忙しいときに限って、何か別の事をしてしまうもので、染野はついでに感性ロボットの『こびっと』の改造まで手を出してしまう。自宅療養中、染野の生活物資は、瑛人が自宅まで運んでいた。
染野はコロナから復帰してわずか数週間後、知能電子工学科の卒業論文発表会の日がやってきた。染野の卒業論文では、自律式のお片付けロボットに関する研究を発表した。
今まで、自律式の掃除機ロボットは世の中に存在したが、しかし、お片付けロボットは存在しなかった。これを、三次元カメラ、ロボットアームを備えた自走式ロボットを強化学習により勝手に学習していくという内容であった。
染野はムービーを交えながらプレゼンを行った。
「ロボットに与える教師データとして、まず、人間が完璧なお片付けを行いました。サンプル数は少数ですがこれを事前学習モデルとして準備しました」
染野の『完璧』発言を聞いて、教室内がざわついた。清掃後も小さなゴミが散らばり、文房具やプリント類が残置されていたからだ。
「これを完璧と呼ぶのか・・・」
教室内から誰かのつぶやきが聞こえてきた。
染野はスライドを動かし、次のページに埋め込んである動画を再生させた。
「では、実際の部屋で試してみたいと思います。これは私の自室です」
染野の自宅の一部が映し出された。染野はコロナに罹患していた間も実験を進めたため、自宅での撮影となってしまったのである。映像が進むと、教室内はさらにざわついた。予想以上に部屋の中にゴミが散乱していたからだ。
「これは実験用に特別に汚くしたわけではなく、普段からこのような状態です」
「ざわざわ。ざわざわ」
教室内の学生たちのざわざわ度合いはさらに高まった。
染野のプレゼンは進む。染野の用意したお片付けロボットは、資源ごみの分別、賞味期限の切れた食品の廃棄、書類の整理整頓、本棚の整理、スマホ充電ケーブルの接続など複雑なタスクをこなしていった。
知能電子情報工学科の卒論発表会が終わり、教授陣がその場で採点結果の合算を行った。一位になったのは、何と染野の発表であった。
染野は壇上に呼ばれ、記念品の盾を授与された。染野が一通りの実験を終えて、結果をまとめ上げたのは本当に数日前だったので、これは予想外の出来事であった。
学科長の山路教授が染野の発表についてコメントした。
「君の研究としては完ぺきな内容だったと思う。しかし、我々、教授陣は研究以外に何か別の問題が見つかったように思えたんだけど、どうだろう?自分では気づいたかな?」
「どこでしょうか・・・」
染野は必死に考えたが、思い当たるところがみつからなかった。
「まあ、それはともかく、君の卒論は特に優秀だったと思う。引き続き大学院でも研究をがんばって下さい」
「ありがとうございます」
プレゼンの動画をみながら、瑛人は固まっていた。
「・・・というやり取りがあったんだけど、なんでなんだろう」
はっきり言ってしまってよいのだろうか?女子大生の自室が汚いこと自体が問題であると。しかも、日本の最高学府である東大生の自宅である。ロボット使わなくても、普段からきれいであってほしいというのが世の中の思うところなのだ。
瑛人と染野は帰りにゴミ袋と雑巾をコンビニで買い、部屋の大掃除をすることとなったのであった。
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