第34話 都築光写真集をついに完コピ きらきら女子に憧れて
3月、速水瑛人と染野桂子は卒業式を迎えた。卒業式は安田講堂で行われる。卒業式でガウンを着て、ちょっと興奮気味の染野。
「これこれ。これに憧れてて。ずっと着てみたかったのよ」
染野は安田講堂前の広場や工学部3号館前でクラスメートと集合写真を撮影した。
「わたし、都築光ちゃんみたいになれたのかな?」
その後も、染野は都築光の写真集と同じ構図を何枚か自撮りを続けていた。
夕方、染野は自宅も戻ると、部屋の電気も点けずに、倒れるように椅子に座りこんだ。コロナの後遺症で体力が削られていたのだ。
染野はおもむろにパソコンをつけ、卒業発表のムービーを流し始めた。
「わたし、きらきらした女子になりたいと思ってたの。今の私ってきらきらしてるのかな?」
染野は独り言を口にしていた。
ムービーの中でゴミを片付けるロボット。片付けるたびに教室から歓声があがった。
「わたし、きらきらしてるかな?」
次第に、染野桂子は涙を流し始めていた。
こぼれた涙は液晶ディスプレイの上に落下し、まるでレンズのように可視光を屈折させていた。
一方、瑛人はコーカサスの戦場にいた。その日もドローン兵器を操り、必死に敵軍の進撃を食い止めていた。ここでいう敵軍とは「コーカサスの白い悪魔」が指揮する無人戦車たちのことである。
戦闘終了後、戦闘に疲れた瑛人はシミュレータの座席でそのまま寝落とした。
夢の中で瑛人はスカイダイビングをしていた。遠くまで視界が開けていて気持ちがいい。
やがて地上が近づいてきたので、パラシュートを展開した。地上では、落下傘をみて地上の住民のような人たちが集まってきた。風でどこに流されても集団は瑛人を追いかけてついてきた。
地上により近づくと集団はライフルや小銃を構えてしているのが見えた。地上を走っていた人物たちは地元住民ではなく武装集団だったのだ。
近くでは、墜落した戦闘機が煙を上げていた。
体や顔の近くをヒュー、ヒューと音を立てながら弾がかすめた。銃で狙われているのは自分だったのだ。
瑛人は何とか弾をよけようともがき続けた。
さらに地上に近づくと地上にいた兵士が見えた。殺気に満ちた兵士たちは頭に鉢巻を巻き、日本刀を構えて瑛人が降りてくるのを待っていた。
「味方だ!俺は味方だ!やめろ!やめろ!」
その間もライフルの射撃は続く。瑛人の体を何発か銃弾が通過した。
「俺は日本人だって・・・」
そして瑛人の体は動けなくなった。それでもなおも、瑛人の体は落下傘に固定され、攻撃から逃れることはできなかった。
そこで瑛人は目が覚めた。全身汗だくである。瑛人は自分の身体を探り続けた。落下傘に固定されたベルトは見つからなかった。瑛人は自室から動いてはいない。ただ寝落ちしていただけ、もともとベルトなどしていない。だから、ベルトは見つかるはずがない。銃撃の痕も見つからない。
「はあ、はあ、生きてる・・・」
瑛人は呼吸を整え、しばらくするとシミュレータの席から立ちあがり、部屋から退出していった。
父親の設計作業用の机の上に無造作に旧日本軍の設計図が置かれていた。いつもと変わらない。いつもの風景である。そして、それら図面のいくつかには「東京帝国大学 ・・・研究所」との文字が刻まれていた。これも、以前からずっと変わらない。いつもの文字である。
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