第30話 ドローン統制システム『クインビー』の開発
3年生の冬学期後半の年度末が近づく時期、速水瑛人の父親、速水正一は忙しそうにし始めていた。防衛省向けに研究開発を行っていたドローン統制システムの正式採用が決まったからだ。正一の話では、ドローン統制システムは『クインビーシステム』と呼ばれており、ブレインマシンインターフェースであるARヘルメットを曽着したドローン操縦士たちがこのシステムを介して接続することで、ドローン制御がより効率的になると言われている。効率的とは、つまり、高い技量がない操縦士であっても「ディープパイロットモード」が再現可能になることを言っているそうだ。
正一は瑛人に話すところによると、『クインビーシステム』は、今度、フランスから購入する中古の軽空母ジャンヌダルクに搭載することが決まっているそうだ。ここでも正一はあっさりと機密情報をばらしていた。
瑛人は思った。雄蜂であるドローンを統制するシステムにクインビーと名付けるとはこのネーミングセンス、どうかしている。
一方で速水瑛人が白金台医科学研究センターの仮想空間を徘徊することで、速水奈菜の魂を誘引と回収を続け、ついに、回収率は93%に達した。しかし、回収率はここで停滞していた。
残り数パーセント。これは、感性パートに集中していた。仮にこの状態で仮死状態から復帰したとしても、感性が失われた状態となってしまう。速水奈菜の感性パートはいったいどこに?必死の捜索が続けられていた。
速水瑛人と染野桂子は無事に4年生に進学。研究室配属となり研究活動に従事することとなった。これに伴い課題やレポートの比重は低下した。
御殿下グラウンド横の喫茶店で速水瑛人と染野桂子はコーヒーを飲みながら休憩を取っていた。
「瑛人くん、瑛人くん、ねえねえ聞いて。『こびっと』がほめると照れるようになったんだよ。ほらほら」
染野はスマホの動画を見せた。動画の中で『こびっと』は両手で頬を覆って、恥じらっているような動きをしていた。
「かわいいいぃぃ」
「これ、卒論なの?」
「『こびっと』を使った研究をしたかったんだけど、研究助手がだめだっていうの」
「なんで?」
「廃材を使ったというところは、研究では目新しいわけではないって。大学の研究は『サークル活動じゃないんだぞ』だって。瑛人君は何をしているの?」
「俺はドローンの編隊飛行の基礎研究。最終的には一人のパイロットで複数機を同時に操れるようにするんだ」
「それって、スカイグラディエーターでやってたじゃない」
「まあ、ぶっちゃけると、俺が操縦するとできるんだけど、研究で扱うと急に難しくなるんだよね」
4年生で研究室配属と言っても、いきなり研究を始めるわけではない。4年の夏休みに大学院試があり、夏までは大学院試の準備に費やし、秋以降から各自のテーマを動かしていくという場合が多い。
知能電子工学学科では、4年夏学期のシケプリ準備が進められていた。しかし、有志を募ってもシケプリはほとんど集まらない。第一書記の染野が仕方なくシケプリを作成して配布するようになっていた。
夏休み、大学院試が迫るがやはりシケプリは集まらない。仕方なく今回も第一書記の染野がシケプリを配布する。学生たちからは染野に感謝の言葉が大量に贈られた。染野は照れ笑いをしていたが、心は疲弊し始めていた。
一方、瑛人は成績優秀者となったため、大学院試は学科試験免除の別途進学となった。瑛人は大学院試の準備に費やす時間を使い、卒論を進めていた。学部生にとっては複雑な研究テーマも、試行錯誤を繰り返して問題点を掘り下げ、計画的に取り組み始めていた。
正一は、この頃から在宅勤務が減り、家を不在となることが増えていった。
瑛人の自宅では、夜な夜な父の執務室でドローンシミュレータを使ってドローン兵器を操っていた。
しかし、倒せば倒すほど新たな戦車隊が現れる。真新しい戦車隊を目の当たりにし、瑛人はニヤリとしていた。
「今度はT72が8両か。この程度の火力でこの陣地を突破できるかな?」
瑛人はドローンを操り、一両ずつ戦車を破壊していった。
その時、瑛人は思った。いちいち一両ずつ破壊するのは面倒だ。いっそのこと、複数のドローンを一気に操ることができたらもっと効率的だろうと。
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