第17話 知能工学部の学部紹介、瑛人は知能航空工学科を希望

 とある平日、たまたま授業のコマのない午前中、速水瑛人は「ドリームサーキット渋谷店」に来ていた。

 つい先日、父親が警告したディープパイロットモードの感度を高めたとき、バックプロパゲーションが使用者にダメージを与えると言っていた。父親の話が全くのデタラメとも思っていなかった。現に、ARヘルメットの反作用で意識不明の状態となった母親の姿を見ていたからだった。それでも、瑛人は自らの身体を被検体にして確認しに来ていたのだった。

 瑛人はスカイグラディエーターに搭乗、シーハリアーを選択した。相手はコンピュータのミラージュⅢである。親父が警告した感度パラメータを、わざとMAXをわずかに超えたところまで動かした。限界値を超えて感度を高めたシーハリアーは、操縦性は異様に高まり、まるで機体は手足のように自由自在に動かせるようになった。そのシーハリアーの動きにミラージュはまったく追いつけなくなっていた。

 次に、瑛人はミラージュからの機関砲をわざと何発か被弾した。すると右足に激痛が走った。父親が言ったバックプロパゲーションが起きたのだ。ゲーム終了後、痛みがあった右足のすねを確認すると、内出血を起こしていた。正一の言っていたことは真実だったのである。


 夕方、駒場の7号館の教室に入ると前の方から染野が手招きをしているのが見えた。知能工学部の学部紹介のイベントだった。なぜか、染野は隣の席を確保してくれていたのである。

「ありがとう。席とっておいてくれたの?」

「なんだか、足を怪我してない?サッカーで怪我したの?」

「え、ああ。まあそんな感じ」

 知能工学部は知能航空工学科、知能電子情報工学科、知能ロボット工学科の3科で構成されている。

 速水瑛人の希望は知能航空工学科で、染野桂子の希望学科は知能電子情報工学科であった。なお、知能電子情報工学科のシケ長はなぜか『第一書記』との呼称であるという説明もあった。

「シケ長が第一書記だって。知能電子情報工学科ってなんだかおもしろそう。ねえ、一緒に知能電子に行くっていうのはどうかな?」

 速水瑛人は、病室で治療中の母のことを思い起こした。

「いや、知能航空工学科にするよ。ドローンの研究がしたいから」

 瑛人はきっぱり答えてしまった。せっかく席を取ってくれた染野に対して気まずいような気がして付け足した。

「でも、知能工学部は共通科目も多いみたいだよ」

 瑛人は思った。第一書記って、旧社会主義国の言い方じゃないか。それに、能電子情報工学科って、大学の授業なのに『起立、気を付け、礼。』があるみたいだし。電気系は社会主義国なのか?そんな知能電子に行きたいだなんて、やはり、染野の発言は不思議なものが多い。しかし、不思議に思っていることを悟られてはいけない。適当にごまかさなければならない。

「第一があるってことは、第二もあるのかな?」

「きっと浦和一女があって、二女がないのと一緒よ」

「そのたとえはよくわからないんだけど・・・」

 学部紹介の後、有志で飲み会となった。


 (注)知能工学部の設定はフィクションです。実際の東京大学には存在しません。

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