第18話 染野で部屋で見つかる写真集、やはり怪しい

 飲み会の帰り、染野は瑛人と一緒になった。染野は飲み過ぎて瑛人に絡んできた。

「瑛人君、足を怪我しているでしょ。肩貸してあげようか?」

 そう言いつつも、足元がふらついていたのは染野の方だった。

 染野の足元がふらついている。そして、しきりに速水瑛人の自宅に行きたがる。それは、うちの親父が在宅で仕事をしているのを知ったうえでのことなのだろうか? そういえば、染野は東大入試前に自宅周辺に出没していた。やはり染野はあやしい。

 瑛人は染野を自宅まで送り届けることとした。自宅で家族に引き渡せばそこで十分だろうと思った。しかし、染野の自宅近くに来て、瑛人は驚いた。染野は独り暮らしだったのだ。

「あ、あれ、一人暮らしだったの?市河高校だから家族と同居だと思ってたのに」

「私の実家は千葉の奥の方だから、慶應大学に入学してから一人暮らししているのよ」

「そうか、じゃあ、俺はここで帰るよ」

「うう、何か、気持ち悪い」

「大丈夫か?」

 速水瑛人は染野桂子を自宅の玄関まで送り届けることしたが、結局、自宅のトイレで嘔吐するのを介抱していた。

 染野桂子は一人暮らしなのに間取りは2LDKであった。部屋の中は雑然としていて、物が散らかっていた。瑛人は思った。環境サークルで環境問題を考える前に、自分の部屋を片付けないといけないのではないだろうか。

 染野桂子の嘔吐が落ち着いたので、リビングの机で水を飲ませていると、部屋に都築光の写真集があるのが目に付いた。一人暮らしの女性の部屋に女性の写真集。やはり、あやしい。虎穴に入らざれば虎子を得ず。ここはあえて踏み込んでみよう。

「なんで、都築光の写真集があるの?」

 染野桂子は、都築光の写真集を大事そうに抱えて答えた。

「これね。いつも都築光ちゃんの写真集を枕の下に敷いて寝てるんだ。そうすれば、都築光ちゃんみたいなキラキラした女子になれるかなって思って」

 都築光の写真集を枕に敷いて就寝する女子。東大女子なら許容されるのか?この女、やはりおかしい。

「なあ、染野。東大入試の前日なんだけど、俺の自宅周辺に来てなかった?君の姿、防犯カメラに映ってたんだけど・・・」

 防犯カメラではなく、マイクロドローンだったのだが、カマをかけてみた。きっと、シラを切るだろうが、それは想定の範囲内だ。しかし、染野はたんたんと白状し始めた。

「私ってね、慶應大学を休学して受験勉強してたじゃない。慶応大学に在籍しているから、滑り止めとか併願校とかないのよ。東大1校だけの受験だったのよ。だから、受験直前になって、不安で不安で仕方なくなっちゃって。会えないかな?と思って、自宅周辺をうろついてたの」

 瑛人の想定を超えた回答であった。染野の話によると慶應大学も半年以上休学してたけど、半年も休学して元の学年に戻れるようなことはなく、留年するのはほぼ決定していた。これで、東大落ちたら、ただのおばかであると。しかし、疑問は残る。一体、どのように自宅住所を知ったのか?

「え、だとして、俺の自宅の住所。どうやってわかったの?」

「瑛人君、いつも、定期券を鞄にぶら下げてるでしょ。あれで自宅最寄り駅をみたの」

「俺の家の正確な住所は?」

「一軒一軒、表札を見て回って・・・」

 まさかのブルートフォースアタック。瑛人は思った。その手間をかける時間があったら、東大の受験勉強ももう少し楽にできたんじゃなかろうかと。

「そうなんだ。でも、合格できてよかったね」


 だが、瑛人はほっとした。クレムリンへの長距離ドローン攻撃と染野の尾行が関係ないことが確認できたからだ。

 染野の部屋の『コビット』がスリープモードから復帰。目の輪郭が何度か点滅していた。

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