第19話 セロトニン分析装置をおねだりする息子

 速水瑛人は夢を見ていた。

 見渡す限り壁もない白い空間にダイニングテーブルがあり、父が一人だけ座って新聞を読んでいた。その父親に瑛人は勢いよく話しかけた。

「おやじ、セロトニンの計測装置が欲しい。できれば非接触で」

 父は新聞を読むのをやめて、息子の顔を見た。

「なんでセロトニンの分析装置が欲しいんだ」

「染野の体内のセロトニンがどのように変化するか確認したい。あいつは、いつも、俺を見つけたり、しゃべっているとき、顔色が赤くなったりといった変化がみられる。おそらく、脳内物質のセロトニンが発生しているせいではないかと思う。この仮説を確認したい。染野にわからないように計測したい」

「わざわざ確認する意味がわからないのだが」

「この染野の症状は、いつの間にか俺にも伝播しているように思える。いつの間にか俺も染野のような症状が発生しつつある。全て、セロトニンのような原因物質のせいなんじゃないかと」

「はあ??」

 次の瞬間、ダイニングテーブルも父の姿も見えなくなっていた。


 白い空間の天井には青い空が、地面には草木が満ちていった。

 気づくとサクラの木が見え、その脇で母が立っていた。

「母さん。こんなところで何してるの?」

「あなた、ほんと変わった子ねえ」

「おれ、大学受かったんだよ」

「そう、それはよかったわねえ」

 瑛人の母はサクラの幹をさすっていた。

「ほら、このサクラ。きれいでしょう」

「ん?ああ、確かに・・・・。サクラがこんなにきれいだっただなんて・・・」

 次の瞬間、母の姿も見えなくなっていた。

 瑛人の耳元で何かのつぶやきが聞こえた。

「ん・・・。わかった。そうする」

 湿気を含んだ春の空気が瑛人の周囲を通り過ぎていった。


 その後、瑛人は染野桂子を食事に誘い、プレゼントを渡した。そして、二人の交際が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る