第20話 東大サッカー総長杯の開幕

 6月、東大サッカーサークルによる総長杯の予選が始まった。予選はリーグ戦である。速水瑛人の所属する『コールドスリーパーズ』は、レモンスパーズ、トマトFC、ウォーリーズと襖SCと同じグループである。

 レモンスパーズは、神奈川県のソフィア高校OBが設立したサッカーサークル。強力なフォワードが多数在籍し、得点力は学内トップクラスである。トマトFCは、かわいらしい名前に反し、実力は学内最強である。これら2チームはコールドスリーパーズより格上である。

 ウォーリーズは、ユニフォームが赤白の横ストライプがユニフォーム。所属メンバーは文系中心。メンバーが不足しているので4年生まで動員して参加している。襖SCは強力なラインディフェンス(通称、襖ラインディフェンス)が武器である。これら2チームはコールドスリーパーズよりも格下である。

 予選リーグは上位2チームが決勝トーナメント進出である。トマトFCがトップ通過は確実なので、格下2チームに勝利した上で、レモンスパーズに対しては引き分け程度に持ち込めば、予算通過の可能性があるという状況だった。

 しかし、初戦の襖FC戦でいきなり問題が起きた。フォワードの速水瑛人がラインディフェンスをドリブル突破して、1点取ったものの、襖FCが大きく蹴りだしたボールをキーパーが取り損ねて1点を献上。このままドローとなった。

 試合が行われる御殿下グラウンドは人工芝。普段、『コールドスリ―パーズ』のホームグラウンドは駒場の土のグラウンドなので、ボールの弾み方が違う。このことを考慮できていなかったのである。

 2戦目のトマトFCは、前半で3点取られたが、後半に控え選手への入れ替えが行われ、失点は3点で済んだ。

 3戦目のウォーリーズでは、マイクロドローンを飛ばして、フォーメーションを空中から撮影。結果、ウォーリーズは右サイドに空いていることを確認した。

 後半、右サイドからの攻撃に切り替えると、次第に押し気味となったが、右サイドからのクロスボールに速水瑛人が飛び込んだところ、相手のディフェンスと交錯。相手のファウルとならなかったうえで、速水瑛人はそのまま控えと交代となった。スコアはスコアレスのドローとなった。


 速水瑛人と染野桂子は『ドリームサーキット渋谷店』に来ていた。染野桂子が言うところによると、そこに設置してあるクレーンゲームのぬいぐるみが取りたいが、すでに三千円近く費やしても、どうしても取れないそうだ。

「お願い。このうさぎのぬいぐるみをとって」

 染野の所望するぬいぐるみを狙うと、意外にもたったの1回で釣り上げることができた。

「やったー。ありがとう。このぬいぐるみの帽子が欲しかったの。これ、『こびっと』にびったりだと思うのよね」

 そこに、後ろの方から声がした。

「カズさん。両替している隙に取った連中がいたみたいです」

「おいおい。この位置までずらすのに、どれだけ手間かかったと思ってるんだよ。まいったな。一体、どうなってんだ」

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