第6話 染野との再会、尾行者の正体

 初夏のある日の夕方、7号館の大教室でシケ長会議が行われた。シケ長会議では、各クラスのシケ長が集結し、試験対策に関する情報共有する会議である。

 シケ長会議を仕切っているのは、2年生のシケ対委員長である。シケ対委員長は、試験対策のポイント、共有サーバーの使い方、学生会館のプリンターの使い方などを説明していた。

 試験対策委員会は、学生たちの自主組織である。そのため、連絡手段も自主的に構築しなければならない。メールアドレス記入のため記入用紙が前から後へと、氏名と連絡先が記入されて回されていく。瑛人が自分の個人情報を記載して、後ろの席に回した。すると、後ろに座っていた人物が肩をつついてきた。

「やっぱり、瑛人君だったんだ。また、会えてよかった」

 瑛人が振り返るとそこに座っていたのは染野桂子であった。速水瑛人はこの時になって、染野が東大に合格していたことを知ったのであった。

 染野は、会議の解散後に再度、瑛人に話しかけてきた。

「ねえ、どこの学科に行くの?」

 久しぶりに会った割に、いきなり理系学生の核心を突いてきた。やはり、この女、どうかしている。

「いちおう、知能航空工学科に行きたいと思っている」

「ふーん。なかなかよさそうよね」

 聞かれたら同じ質問を聞きなおすのがある程度の礼儀である。

「染野はどこに行きたいの?」

「ねえ、今度、連絡していいかな?」

 瑛人は「またこちらの質問をまた無視しただろ」と思ったが特に気にせず、連絡先を交換した。

 帰宅のため染野は駒場東大前駅へと向かっていった。その後ろ姿を、瑛人はじっくりと眺めていた。そして、瑛人の頭の中である写真と照合が行われ、確信が得られた。

「あの後ろ姿、やはり、そうか・・・」

 あの日、長距離ドローンでモスクワが攻撃された後、瑛人の自宅付近に出没した人物、それは染野桂子であったと。しかも、その日は東大入試の前日であったのだが。

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