あとがき

 この作品を執筆したころ、連日のようにウクライナ戦争でドローンの自爆攻撃の映像が流れていました。このビジョンは旧日本軍の特攻と同じなんじゃないか。これがこの作品のモチーフになっています。


 あとがきにて各登場人物について補足説明を加えたいと思います。

 まず、染野桂子についてです。染野は慶應大学を経て東大に入学しているので、多くの人は桂子を「けいこ」と読んでいたかと思います。合ってます。でも染野は「ソメイヨシノ」→「ソメノヨシコ」→「ソメノケイコ」という由来で命名しており、桂子は「よしこ」とも読めるようにし、染野が「ソメイヨシノ」の象徴であることを暗示するためにわざとルビを外しました。

 染野は環境サークルに所属しつつも、部屋がやたらと汚いという設定になっています。これは何でしょうか?最終章で、瑛人は夢の中で唐突に桜の木のゴミ掃除を始めます。その中で「サクラの木は自分ではゴミ拾いできないからな」という節が出てきます。染野=サクラ=自然界のことを意味していて、染野の周囲に散乱するゴミは人間の身勝手さを象徴なのです。

 例えば、染野は第一書記として学科の統率を図ろうとするシーン。本人ががんばればがんばるほど学生たちは離反。最終的には一人でシケプリを作って、提供するだけの状態になります。いくら感謝の気持ちを述べようとも、いえ、感謝の気持ちを述べられれば述べられるほど、染野の負担は増えていきます。日本の最高学府と言えども、所詮は学生。利己的なのです。

 次に、瑛人の名前の由来は「エイト」→「数字の8」→「蜂」。つまり、雄バチそのものを意味しています。その瑛人は、技量も能力も高く、友人を必要としません。冒頭の予備校のシーンでも、センター試験の点数に関する会話を瑛人は耳で聞いているだけで、会話に参加していません。作品を通じて瑛人と親しくやり取りをする男子学生はいっさい出てきません。わざとそのように設定しています。一方で、瑛人とやり取りをする人物や染野桂子であり、山路美咲であり、速水奈菜であり、すべて花に由来する名称になっています。これは、花の間を行き来する雄バチが「ドローン」で、花に翻弄されて戦う姿が「ファイト」を意味しています。作品タイトルの「ドローンファイター」とは瑛人のことを指しているのです。

 瑛人の身の回りで親しく接する男性として、一人だけ例外がいます。父です。父は機密情報を扱いながらも在宅勤務するという不思議な存在です。新型コロナを経て、在宅勤務がデフォルトの時代になると、父と子の距離は急に近くなります。父の仕事の雰囲気を感じながら子が生活する。それがアフターコロナ時代なのです。

 瑛人は高い能力を持っているために友人を必要とせず、そのために世間知らずなところが多々ありますが、それでも平常な精神状態を維持していたのは父の存在によるものです。しかし、父が仕事でいなくなると、夜な夜なコーカサスの戦場のドローンを遠隔操作するようになります。瑛人の闇落ちです。瑛人の精神は過敏になり、誰も読まない夙川執筆の小説におびえるようになります。

 夙川邸での対決では、染野が対戦相手として登場。日本人が愛したサクラの象徴である染野から無慈悲な反撃を受けつつも、自らの精神力で自制心を取り戻し、自爆して果てます。この物語の最大の落ちです。瑛人の身勝手さが自爆を招いたのでした。

 夙川も黒幕です。JR神戸線をご存じでしょうか?「さくら夙川」という駅を聞いたことがあるでしょう。夙川はサクラ=自然界側だったのです。しかも、シラミ=ジルが憑依したことで得た洗脳能力で染野桂子を配下とします。知能電子工学科はシケ長を第一書記と呼ばれておりますが、旧ソ連の指導者の呼称です。染野桂子が第一書記となった瞬間から、やがて瑛人と対決することが暗示されていたのです。


 説明がくどくなりましたが、この物語のラスボスは誰だったのでしょうか?

 「桜」が正解です。


 「こびっと」について書くのを忘れていました。「こびっと」は、母親の魂の最後の部分が宿っていましたが、平仮名の「こびっと」は、母親が覚醒していない状態。片仮名「コビット」は母親が覚醒している状態を意味していました。だいたい、瑛人が「こびっと」に絡むと「コビット」に変化するという内容なっております。


 最期になりますが、ドローンファイターをご愛読いただきありがとうございました。

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ドローンファイター コーカサスの白い悪魔と遠隔パイロット速水瑛人 乙島 倫 @nkjmxp

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