全体的にかなり丁寧で、カジュアルでありながら本気で読むとどこまでも深くなるという印象です。伏線や新展開もかなりのロングパスで、すっかり忘れていたこと、そもそも意識していなかったことを出してきたりします。後者に関しては、妖精まわりの展開で顕著に感じました。普通のなろう小説を読むのと同じ感覚で読んでいたため、あうっそんなとこまで拾ってくるのかぁっ と、本当に驚きました。全体的に伏線や設定の拾い方は、普段なろう小説を多く読んで、テンプレに慣れていればいるほど驚きが大きくなるのではないかと思います。
めちゃくちゃ長いのだけがネックですが(「レジンキャストミルク」を超えて100万字越えの作家キャリア最長長編ってネタじゃなかったんですか)それでもしばらく読んでみると、長さを気にせずスルスル読み進めることができます。全体が起伏に富んでいて、飽きがきません。
最大の特徴は、主人公とその家族のみならず、彼らがかかわる人々の暮らしを余すことなく生き生きと描いていることでしょう。誰一人ただの舞台装置にはなっておらず、行動や言動から信念が、生き様が、生きてきた月日がうかがい知れるようになっています。読んでいるだけで彼らの息遣いが伝わってくるかのようです。単なるキャラクターではなく、私たちの隣人として存在する人間かのように、一人一人に愛着がわいてきます。
また、主人公が大人になる過渡期であることを多く描写していることも印象深いです。家族や周囲の人々と支えあいながら、内面的に成長していきます。なろう系と、若者が体験を通じて成長するビルドゥングスロマンとしてのライトノベルのいいとこどりがとてもうまくハマっています。
(まとめ)この作品は異世界に生きる市井の人々の人生を描き出し、生きること、愛することの素晴らしさを心に訴えかける人間讃歌です。評価が星1000越えすれば超有名作品というカクヨムにおいて、星9000越えというとんでもない数値をたたき出していますが、それも納得です。もっとメジャーになり、広く語られるようになってもいいように思います。