エピソード 2ー2
回収したお金の使い道を決めるために、私は子供部屋に足を踏み入れた。薄暗い部屋の中、古びた木製の家具が並び、窓から差し込む陽光が埃を照らし出している。その部屋の隅、ちょうどエミリアを除いた三人が集まっていた。
その可愛い弟妹達を改めて紹介しよう。
まずはシリル。
三人の中では一番の年上で十二歳の男の子。ココアブラウンの髪と瞳がもたらす印象通りに落ち着いた雰囲気を醸し出している。
続けてルナ。シリルの一つ年下で十一歳の女の子。明るい黄色の髪と瞳。少し素直じゃないところがあるけれど、いつもポジティブで本当は情の深い子だ。
最後は一番年下のフィン。まだ九歳の彼は桜色の髪と、緑の瞳の持ち主だ。女の子と見紛うように愛らしく、非常に大人しい性格をしている。
そして私とエミリアを加えた五人が、いまこの孤児院にいる全員である。
いつもは元気で明るい三人だけど、今日はなにやら元気がない。しょんぼりと、椅子やベッドサイドに俯いて座っている。彼らの顔には不安の色が濃く表れていた。
だけど、私に気付いたシリルがばっと立ち上がった。
「アリーシャ姉さん!」
叫ぶと同時に駆け寄ってくる。続けて「アリーシャ!」「アリーシャお姉ちゃん」と言いながら、ルナとフィンも駆け寄ってきた。
「みんな、調書とお仕事お疲れ様。ここ数日、あまり相手してあげられなくてごめんね」
私がそういうと三人は急に泣きそうな顔になった。
「……どうしたの? なにかあった?」
心配になって尋ねると、子供達はギュッと手を握って俯いた。だけど、シリルは不安を振り払うように顔を上げ、私の顔をまっすぐに見る。
「エミリア姉さんはいつ帰ってくるの? 警備隊のおじさんはもうすぐ帰って来るよって言ってるんだけど……本当なのかな?」
「……そっか、心配掛けちゃったね。警備隊の人が言ったことは本当だよ。エミリアはそろそろ戻ってくるから安心して大丈夫だよ」
私はそう言って微笑んだ。すると、ルナが「本当……?」と涙目で私を見つめてくる。だから私はしっかりと頷き返す。
「ええ、本当よ。だから、もう泣かないで」
それでようやく信じてくれたのか、ルナは涙を拭いながら、「……よかった」と小さな声で呟いた。フィンも無言ながら私の袖をギュッと握る。だけど、シリルだけは不安な顔のままで、「じゃあ、孤児院はどうなっちゃうの?」と呟いた。
「……それは、どういう意味?」
「院長先生、捕まっちゃったんだよね?」
「……そっか。シリルはやっぱりしっかりしているね」
マグリナが捕まったことで、院長不在の孤児院が潰される可能性に思い至ったのだろう。だから私は「孤児院はなくならないから大丈夫だよ」とシリルの頭を撫でる。
「そう、なの? でも、院長先生はどうするの?」
「マグリナみたいなのは嫌よ!」
「優しい院長先生、来てくれる?」
三人が思い思いの口調で不安を口にする。
私は「そうね……」と少し考える素振りを見せた後、「この孤児院出身で、みんなのことを大好きな、グリーンの髪と瞳の女の子が院長先生になる予定なんだけど、あなたたちはどう思う?」と問い掛けた。
三人は最初キョトンとした顔をして、それから大きく目を見張った。
「もしかして、アリーシャ姉さんが院長先生になるの?」
「実はね、孤児院の院長になるための試験を受けているの。まだ正式に決まったわけじゃないけど、試験に合格したら本当の院長になれるのよ」
三人は私の言葉に対し真剣に耳を傾けてくれている。
「だから、みんなも応援してくれる?」
私が尋ねると、シリルは「絶対応援する!」と珍しく声を張った。ルナも「アリーシャなら、ほかの人よりマシなんじゃない?」とそっぽを向く。最後にフィンが「ボク、アリーシャお姉ちゃんが院長先生なら嬉しい」と微笑んだ。
うちの子達が天使すぎる。
……なのに、回帰前の私は彼らを残して皇族に復帰した。その結果、孤児院は解体され、彼らは別々の孤児院へと送られることになった。
あのときは、自分のことで精一杯だった。でも、もう少しちゃんとしてあげればよかった。そんなふうに悔やむことになったけれど、こうしてやり直しの機会を得ることが出来た。
回帰したいまなら、みんなを守ってあげることが出来る。
今回は絶対にみんなを離ればなれになんてさせない。私が孤児院を守り抜いてみせる。
その覚悟を胸に、子供達を纏めて抱きしめた。
「大丈夫、今度はずっと一緒、だからね」
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