エピソード 2ー10
優秀と噂の長女と、自分勝手と噂の次女。取引を持ちかけるのなら次女の方。そう言うとダリオンは怪訝な顔をした。
「ダリオンでも分からないことがあるのね」
私はそう言って笑い、答え合わせを口にしようとする。だけど「いや、待て! 自分で調べる。ノウリッジのマスターが情報戦で後れを取ってたまるか!」と言い出した。
「いや、そんな大げさな。貴方はフィオレッティ子爵家のことを調べてた訳じゃないんでしょ? それなら、知らなくても仕方ないわよ」
「フォローしようとするな、余計に泣きたくなる。という訳で、嬢ちゃん、悪いが二、三時間ほど待っててくれ。フィオレッティ子爵家のことを調べてくる」
「……えぇ?」
ダリオンにこんな負けん気の強さがあるとは知らなかった。意外な一面だなんて思ってるあいだに「じゃあ俺はちょっと調べてくる」と立ち上がった。
「あ、ちょっと、待って! それなら、そのあいだにやりたいことがあるの。実は――」
という訳で、私はここに来た本来の目的を訴えた。
あ~びっくりした。
まさか本当に飛び出して言っちゃうなんてね。でも、そういう知識欲の強さが、ノウリッジのマスターになれた理由なのかしら?
二十一歳にして、ノウリッジのマスターを務めている若き天才。つい先日まで二十歳だったいまの私は、二十一歳の彼にかなり親しみを感じている。
私がいるのはノウリッジにある研究室だ。さっき、立ち去るまえのダリオンに頼んで案内してもらった。目の前には錬金術の調合台が鎮座している。
孤児院に融通してもらう予定なんだけど、美容ポーションをセイル皇太子殿下の目の届く範囲で作る訳にはいかない。という訳で、テーブルの上に材料を広げる。
まずはルミナフラワーの花びらをさっと水で洗い、清潔な布で水気を拭き取った。それをすり鉢に入れてすり潰し、マグナミルクとシルバーミストの露を加えて混ぜる。
比率は覚える必要があるけれど、ここまでの作業は難しくない。ほどなくして、どろりとした液体がキラキラと光り始めた。次に錬金釜に純水を入れて熱し、そこにさきほどのキラキラした液体を入れて魔力を流しながら煮込む。
ほどなく、ふわりとした花の匂いが香った。それを合図に火を止め、熱が冷めるのを待って、濾過して不純物を取り除けば美容ポーションの完成だ。
それを何度か繰り返し、その合間に息を吐く。そこに扉がノックされた。
「どうぞ?」
応じると、ダリオンが研究室に入ってきた。
「フィオレッティ子爵の姉妹は仲違いしているように見えるがそれは間違いだ。後妻を欺くために仲違いしているように振る舞っているが、実は協力している。……どうだ?」
ダリオンは出し抜けにそう言った。その顔には得意げな笑みが浮かんでいる。私は「まさか、本当にこの短時間でそこにたどり着くなんて、さすがダリオンだね」と称賛を贈った。
次の瞬間、彼は「よしっ」と拳を握りしめる。
……ダリオンにも若さというか、こんな一面があったんだね。いや、私のよく知るダリオンより若いから、かな? ちょっと微笑ましい。
「……って、おい。なぜ俺をそんな、仕方ないなぁ、みたいな目で見るんだ?」
「えー? 別にそんな目で見た覚えはないけどなぁ」
「嘘をつけ嘘を。思いっきりそんな目で見てたぞ」
私はクスクス笑って、「それより、これを見て」とポーションの瓶を掲げた。
「おい、そんなことで誤魔化されると思って……って、妙にキラキラしているな。初めて見る見た目だが、それはなんのポーションだ?」
「これ? これはねぇ……ご婦人達に血みどろの争いをさせるお薬よ」
口の端を吊り上げてニヤッと嗤って見せると、ダリオンは大きく目を見張る。
「まさか……毒か?」
「違うわよっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます