12:VSクモ女


言い訳させてほしい。


いや、本当に。本当にちょっとだけでいいから、時間を私にください。


そ、そこまで怖がらせる気はなかったんですよぉ!!!


あ、それはそれとして、さっき教えたこともう吸収してて師匠とっても鼻が高いです。でも私としてもいきなりこんなイベントぶち込むつもりはなかったと言いますか、出てきちゃった手前何もせず帰るのは“クモ”としてどうかといいますか……。



(ま、まずね。前提から話させて?)



今私たちが生きるこの世界、そしてこの時代の“ヒーロー”という立ち位置はとても危険だ。何せ悪の秘密結社がダースじゃ足りないレベルで乱立している。昔ちょっと各学校にあったハングレ集団のレベルで、簡単に一国ぐらいなら落とせそうな秘密結社がわんさかいるのだ。確かに安全な場所がないわけではないけど、都心とかもう魔境。


こんなのもう国が終わるよ! って状況なんだけど、それを何とか押しとどめているのが“ヒーロー”たち。まるで何かに定められたように、一つの秘密結社に、一人か一チームのヒーローたちが生まれて、日夜殺し合いをしている。血で血を洗うような世界、私がこの子たちに会うまで“浄化技”をお話の中だけの存在って思っていたことからも解るように、勝ち負けはどちらかの死によって決まる。


戦わなければ生き残れないし、強くなければ明日の朝日を拝むことはできない。



(この子たちが相対している“アンコーポ”。私の知る秘密結社に比べれば、まだ紳士的で生易しい。けれどそれが今後も続くかどうかは解らないし、追い込まれれば行動も過激になるだろう。)



全部が全部私が守ってあげられるわけじゃない。本当にこの子たちが私の子供だったりしたら本当にすべてを投げ出して守るだろうけど、幾ら師匠と慕われようともやっぱり他人だ。自分の生活もあるし、彼女たち以外の所で何か問題が起きて、その案件のせいで手を離せない状態が起きてしまう可能性もある。


それに、私は私のことをあまり信用できていない。そうそう追い込まれることはないだろうが、自分を守るために未来ある子供を見捨ててしまう可能性だってある。私は化け物、この体についてまだ自分でも完全に把握できているわけでもない。“私自身”が一番信用成らないのだ。


出来る限りのことはするつもりだけど、私に頼り切ってしまうような存在にはなってほしくない。


一番最後に自分を守れるのは、自分自身だけなのだから。



(だからこそ、この子たちには強くなってもらう必要がある。)



私は、この子たちの師匠役を引き受けた。


この役割に担う様に準備を整えたし、今後も全うするつもりだ。


けれど強くなるためには、どうしても実戦経験が必要なことも確か。勿論肉体も大事だし、実戦経験もある程度“組手”でカバーすることは出来る。けれどそれは、真の“実戦”ではない。悪い言い方になってしまうが、命の危険のないお遊戯だ。


この世界で生き残るには、真に自分の命が掛け金として扱われても、一切動じない、動じたとしてもその動きを鈍らせないだけの“心”が必要になってくる。私が持つデスカンパニーのデータだけど、デスカンパニーによって滅ぼされた他の秘密結社のデータとかも残っていた。そこを漁れば見えてくるんだけど……。まぁね、家族を人質にとられて何もできないまま死んだ人とか。相手の狂気に圧されて負けた人とか、結構出てくるのよ。


“九条恵美”として、師匠として、この子たちには圧倒的強者とのやり方を教えることは出来る。戦力差をしっかりと理解し、自分たちが戦えるのか、それとも逃げに徹した方が良いのか。それを教えることは出来る。けれどそれは、真に“命”が掛かったものではない。自分が理解できない“狂気的な”存在を相手することではない。



(この子たちが成人していて、ある程度自分に責任を持てる存在なのならば、それこそ“アンコーポ”との戦いの中でそれを理解してもらっていたと思う。けれどこの子たちはまだ子供で、経験も少ない。勝てない相手に挑んでしまう、ってこともある。)



そして何よりも、“相手”が待ってくれる可能性なんてないのだ。


もし負ければ、デスカンパニーであれば即実験材料か、怪人の素体に。アンコーポがそれをするかどうかは解らないが、まぁ酷い結末しか待っていないだろう。故に、私としては勝てる相手としか勝負させたくない。勝率が極端に低い勝負は、やらせたくないのだ。


でもそんな戦闘ばかりだと、“戦闘経験”が足りなくなり、おそらくどこかで詰む。


この世界にいる敵はアンコーポだけじゃない。私がまだ都心にいたころ、定期的に闇夜に紛れて掃除していたのだが、そう言った存在が消滅したという時期は一度もなかった。何度消し飛ばしても、新しい存在が生えてきている。それがこの世界。


もしアンコーポとの戦いが終わったとしても、また別の敵が出てくる可能性もある。そしてそいつらは、本当に“手段”を択ばないかもしれない。


急ぐ必要は確かにない、けれど確実に“経験”を。それも“安全”に得てもらう必要がある。



(なら私がそっちも担当しなきゃじゃないですかぁ!)



私だったら手加減することも出来るし、その命を奪うまでの戦いには発展しない。ちょうどいいことに、“クモ”という存在は酷く怯えられている。“化け物”とか“妖怪”と呼ばれていたし、自分たちの常識が通用せずなんか急に襲って来る敵としては最適だろう。


アカリさん、ルビーさんの方はなんか急にお礼を言って来て酷くびっくりしたが……。そもそも悪の存在、“怪人”に心を許すこと自体やってほしくないのだ。


だって怪人が“善”の心を持ってるなんて誰も証明できないのだから。


まぁつまり? 定期的にやってくる経験値兼レイドボスとして? ついでに怪人の恐怖と、それの乗り越え方を理解させる存在として? あと自分たちの常識が完全に通用しない存在がいるってことを教える存在として? 私がいるってことなんですよね。



(確かに、こういう事をするつもりはあった。でも決して今日するつもりはなかった。でもあのくそビジネス野郎が数揃えて攻めて来たもんだから、こっちも出なくちゃいけなくなった。んで“クモ”が出て来たなら、何もせず帰るってのは“化け物”として間違ってる。)



んじゃもう今やるしかないでしょうが!!!



……え? 一回に全部つぎ込み過ぎ?


…………そ、そうかも。



(と、とりあえずもう言っちゃったし! や、やるしかねぇ! 二人とも頑張れ! 頑張って! ほんとに! お願い! あとで“九条恵美”がとびっきり甘やかしてあげるから! いい感じに乗り越えて!!!)



【あぁもちろん手加減してあげましょう。さぁ幼子? 足掻きましょうね?】



そう言いながら、この子たちがギリギリ避けられる速度で攻撃を繰り出していく。私の腰から生えている2対の脚での刺突だ。まぁ本気でやったらさっきのビジネスとかみたいに吹き飛んじゃうから、軽ーくね? 速さはあるけど、力を入れてないから当たってもとんでもなく痛いだけの攻撃。


ま、当てる前に止めるけどさ。



「な、何で!?」


【何故? 面白いことを言いますね幼子。“お礼”のお返し、ですよ?】



何故攻撃されたのか解らないといった風に叫びながら逃げる二人を、2対の脚だけで追いかける。いやほんとは私も同じこと聞きたいんだけどね? もう殉職してるけど昔の職場で今の私みたいなことしてる怪人がいたみたいでさ……。それが一部の怪人から『わかるー!』って言われてたみたいなのよ。


なんかよくわかんないけどとりあえず命のやり取りが大好きで呼吸をするようにしちゃう集団っていうの? 私の場合そんなのに相対したら問答せずに消すけど、二人はまだ顔を合わせたことすらないでしょう? びっくりするのは解るけど、頑張って対処してくれると助かります。


が、頑張れジュエルナイトー! 攻撃! とにかく攻撃してクモ女を倒してー!



【ふふふ、こんなにも手加減しているというのに。逃げてばっかりじゃつまらないというもの。それに、攻撃せねば何も始まりませんよ、幼子。】


「ちょっと! ちょっと待って! タイム! ターイム!!! クモさん待って!!!」


【あら、休憩ですか? いいでしょう、私もそこまで鬼ではありませんし。】



手を大きく振るいながらそう叫ぶルビーちゃん。クモとしてそう返しながら、全力で謝る。いやほんとごめんなさい。急に戦闘始めて……、ほ、ほらさっきスポドリ渡したでしょ! それ飲んで、息整えて、作戦考えて、ね? ちゃんと二人である程度勝てるというか、抑えられる実力しか出してないから! ね! ね! 


ほら二人で相談! 妖精のプルポは……、役に立つか解らないけど。とにかく三人寄れば文殊の知恵って言うでしょ! とりあえず仮想敵をあの敵幹部のビジネスとして、そこから逃げられる程度のレベルに設定してるし! アイツが持つ明確な弱点みたいに、私も解り易い弱点用意してるから! そこ! そこを狙ってジュエルナイト!



「る、ルビーぃぃぃ! なんでお礼言っちゃったのよぉ! 完全に! 完全に狙われちゃったじゃない!」


「でもだって! 助けて貰ったらお礼言うでしょ!」


「そ、そうだけどさぁ!!!」


「ひ、ひぅ! 見てる! 見てるっぷる!!!」


【“蜘蛛”は見ておりますよ~。もう休憩は終わりですか?】


「「「も、もうちょっと待ってください!!!」」」



別にいいけど……。この子たち実際の本番で相手が待ってくれるって思ってるのかな? いや思ってなかったけど言ってみたら私がなんか止まっちゃったから動揺しちゃってる感じかな? ならいいんだけど……。あ、“蜘蛛”としては口が裂けても言わないけど、この周囲の監視カメラ含めて電子機器は全部止めてるし、この町に住む野生のクモちゃんたちに頼んで人払いもしてもらってるから安心して相談してね。



「ど、どうする!? 勝てない、勝てないよ!? というか満足させるって何!?」


【あら、言葉が足りませんでしたか? 時代ですかねぇ……。私に“強さを見せろ”と言っているのですよ幼子。もう一度言いますが、私を満足させる強さを見せれば賞品として何か面白い物を幼子たちに、実力が足りぬならば私の“子”にしてやろう、と言っているのです。解りますか?】


「「「ひぅ! (こくこくこく!!!)」」」



お三方が強く怯えながら高速で頭を縦に振る。……ところで私、“子”にしてやろうって何を意味してるんです?


あぁ、私。申し訳ないですけど解らないですね……。なんか口が開いたらそんな言葉言ってました。まぁなんでしょ、ロールプレイをし過ぎた結果キャラに呑まれた、というべきかと。


ですか……。というかそもそもこの勝負? って彼女たちの負けってあり得るんですか?


んもう私。そんなこと私が一番解ってるじゃないですか。どんな結果になろうとも“蜘蛛”は勝手に満足して帰っていくっていうシナリオですよ。んで終わったら二人が“九条恵美”の所に帰って来て、とりあえず私が「お疲れですか?」とか言いながら全力で甘やかす、まぁ罪滅ぼしをさせて頂くって感じですよ。


っと、脳内で人格を分けておしゃべりしてたらいつの間にかお話が終わったみたいですね。



【あら、もう相談は終わりですか? 人払いは済んでいますし……。おっと。そう言えば忘れていましたね。】



先ほどビジネスたちと戦っていた際、適当に吹き飛ばしたクライナー。気絶していたそれが目覚めようとした瞬間に、自身の糸によってその身体を固定しておく。“蜘蛛”としても、彼女たちがクライナーを守ろうとしている、正確には自分たちの手で浄化しようとしていることは知っていてもおかしくない情報。


故にこれまで使っていた糸同様、大体10分程で気化して消滅する自身の蜘蛛糸で固定。これで私もこの子たちも戦いに集中できるって寸法だ。



【さて……、では何を思いついたのか。見せてもらうとしましょうか。】


「行き、ますっ!」



私がそう言った瞬間、ユアルビーが全速力で私に向かって突っ込んでくる。


特訓の成果が出ているのか、それとも細かな衣装の変化による強化率の上昇なのかは解らないが、少しだけその身体能力が向上している。私からすればとんでもなく遅いが……、今のこの子たちなら十分だろう。そして、その後ろに隠れながら、ぴったりと後ろに付いてくるユアダイヤモンド。私の死角を突けるように、よく考えている。


そして突っ込んできた彼女たち。その先頭であるルビーが、そのエネルギーを拳に集める。



「『ルビーぃ、パーンチッ!!!』」


【ふふ、良い拳ですね。】



彼女全力の正拳突き。まだかなり粗削りですが、ちゃんと教えた殴り方が出来ていますね。私が“九条恵美”であればお小言を幾つか言わせてもらうのですが……、とりあえず今は脳内にメモしておくだけにしましょう。そしてそう考えている内に、ダイヤが所定の位置に入ります。


人の視界では、死角と呼ばれる位置。ルビーが力いっぱい打ち込むことで、注意を引いた後、ダイヤが打ち込む。この子たちの基本戦術。けれどまぁ、そもそも蜘蛛の視界は人とは違うので……。彼女が使用しようとした鞭打を、軽く自身の“蜘蛛”としての脚で受け止めます。



「っ!」


「もう、一回っ!」



そう、確かに初撃は大事。反撃を受けないようにするには、最初に決めてしまうことが肝心。けれどそう簡単に行くほど戦場は甘くない。だからこそ勝負を決めるために打ち込んだ全力の初撃。これが受け止められたときのことを、考えていないといけない。


ルビーはそのままもう片方の腕にエネルギーを集中させ、ダイヤは受け止められたことで起きた反動を逆に利用し、少し回転しながら、私の後ろに回り込もうとする。


そして始まるのは、前と後ろ。両方からの連撃。それを全て、一対の脚で受け止め、受け流していく。



(連続しての戦闘だけど……、ちゃんと出来てるね。さて、後は彼女たちがどう切り抜けるか。)



今の私は、両手両足を使用せず、“蜘蛛”の脚である腰から生えた2対の脚で、移動と防御を行っている。つまり一対は移動で固定されており、もう一対は攻撃防御に固定しているのだ。彼女たちと戦い始めてからは、一切この役割を変更していない。そして私が持つ、特異な能力も使用していない。


私が用意した弱点は、この一対。移動やこの体を支えるのに使っている脚を崩すということ。攻撃を受ければすぐに体勢を崩せるようにさっきから全力で力を抜いている。……でもこの様子、ずっと胴体を攻撃しているのを見ると、気が付いてないっぽい。となればもうちょっとヒントを……。


っと、そう来たか。ここは受けてあげた方がよさそう。


感知したのは、先ほどの戦闘で割れた地面の破材。黒いアスファルトの塊。まぁ石だ。



「ぷ、ぷるぽーっっっ!!!!!」



上から降ってくるのは、ちょうどさっきまで顔を真っ赤にしながらその石を私の頭上にまで運んでいた妖精のプルポ。何かしているとは思っていたんだけど……、君もちゃんと戦うんだねぇ。うんうん、クモ女ちょっと感激。マイナスだった評価を±0ぐらいにしてあげよう。


ま、本気で奇襲するのなら声を上げている時点で-20点ぐらい減点だけど。



【あらら。】


「「っ! 今ッ!!!」」



ちゃんと三人で協力して考えたのだ、解り易い隙を作る様に、防御に使用していた一対の脚で、上空から降ってくる石を塵へと変える。そうすれば出来上がるのが、思いっきり空いた私の腹と背。ここに叩き込めない程、この子たちは弱くない。



「「ぶっつけ本番! 『ダブル・インパクト』ッ!!!」」



その瞬間、同時に輝き始める二人の手。精神エネルギーの光が、私の視界を明るく照らした。








 ◇◆◇◆◇






よ、よし! なんか全然、怖いくらいに手ごたえなかったけど! 多分今ならいけるはず!



「ダイヤ! いけるよね!」


「えぇ!」



そう言いながら、二人同時に空へと飛び上がる。一日連続で打っちゃうとかなり疲れるんだけど、とにかく今は出来ることをするしかない!


さっきの攻撃で煙が立ち込める場所に向けるのは、私達の胸に輝いていた“ナイトジュエル”。私たちの体に流れるありったけの力を全部ここに込めて、思いっきりぶつける。それに答えてくれた宝玉はその力を何倍にも膨れ上げて……。


今放たれる、赤と青の光。



「ルビーシャワー!」

「ダイヤモンドシャワー!」


「「輝く希望の宝石よ! その心の闇、払い給え!」」



「「ダブルジュエル・シャワー!!!」」



突き刺さる、光の柱。私とダイヤ、二人の光が入り混じったみんなの心を助けてくれる光。なんかクモさんそこまで悪い人じゃないハズなのに、さっきから全然お話が通じなかったし、多分疲れてるに違いない。だってとんでもなく手加減してくれてたし、あの人? 蜘蛛? が本気だったら二人とももう死んじゃってるはずだ。


だからこそ、私たちの光でお話が通じるくらい元気になってほしかったんだけど……。


私達の必殺技が撃ち終わり、二人同時にゆっくりと地面に降り立った瞬間……。


その背後から聞こえる、あり得るはずのない“拍手”。



【ふふ、良く出来ましたね幼子。“蜘蛛”は嬉しいですよ。】


「っ!」


【あぁ、もう“お返し”は終わりですよ? “蜘蛛”は満足しましたとも、幼子たちの勝ちと致しましょう。】



一瞬身を強張らせてしまう私達だったが、そう言われてちょっと。いやかなり気が抜ける。……あ、ごめん。気が抜けたの私だけみたい。ダイヤはまだ警戒してるし、いつの間にか私の頭にくっ付いていたプルポはプルプル震えちゃってる。


ほらダイヤ、大丈夫だって。だってクモさんなんか滅茶苦茶とんでもなく怖いこと言ってたけど、多分嘘とか言わない人? 蜘蛛だし。さっき『待って!』って言ったら待ってくれたじゃん。だから多分……、大丈夫! あ、でも蜘蛛さん。今度は“お返し”って言いながら襲って来るの辞めてね。



【あら、そうなのですか? てっきり人はそういうやり取りを好むのかと……。では今度からはしっかりと“襲う”と言ってからにしましょうか“幼子”。】


「あ、あの。襲わないって選択肢は……?」


【?】



あ、ダメだ。本能で解っちゃった。たぶんこれから定期的にこのクモさんが襲って来る気がする……。ひぃいん、なんとなく悪い人ではないってことは解るんだけど、お話通じないっぽいし、とにかく怖いよぉ! ししょー! 助けてー!



【ふふ、あぁそうだ。何か面白い物をあげる予定でしたわね……。まずそこに転がっている男は幼子たちのエモノとして、何が良いやら……。】


「「え?」」



そう言いながら二人で後ろを振り返ると、さっき私たちが必殺技を打ち込んだところに、伸びちゃってる男の人が一人。近くに転がっている革靴から解るように、絶対さっきまでクライナーだった人だ。え、つまりさっきの必殺技が放たれた瞬間に? あの蜘蛛糸でぐるぐる巻きになっていたクライナーと自分を入れ替えたってこと? そ、相当手加減されてたんだね私たち……。



【あぁそうだ。いいことを思いつきました。幼子たちにはこれをあげましょう。】



そう蜘蛛さんが言った瞬間、私たちの前に彼女がいて、そして手の上には何かの布が巻きつけられたような物体。昔話の絵本とかで見たことのある『反物』が握られていた。私とダイヤの、そしてプルポにはちっちゃな奴。太くて沢山の布が巻かれてるのが3本ずつ、合計9本。……ほへ?



【“蜘蛛”の糸で編んだ布、先ほどまで使っていた自然と消える糸ではなく、ちゃんと残るもの。無地の白にしておきましたから、裁士にでも頼んで今時の服でも用意させるといいでしょう。】


「え、あ、あの。これ。」


【では幼子たち、また遊びましょうね? “蜘蛛”はいつも見ておりますから。】



すっごくさらさらしてるし、なんか光り輝いてる。明らかにこんなものどうしていいか解らない、そうクモさんに伝えようとしたけれど……。気が付いたらまた彼女の姿は消えてなくなってしまっていた。



「だ、ダイヤぁ。」


「と、とにかく帰りましょ。エミさんも心配してるだろうし……。」



その後変身を解き、とりあえず家に反物を置いてエミさんの元へと帰った私達。連続での戦いの上に、色々あり過ぎたせいで疲れが顔にすっごく出ていたのか、顔を合わせた瞬間とっても師匠に心配されちゃった。


え、その後? 師匠に膝枕してもらって夕方までお昼寝! 晩御飯も奢ってもらったよ! いいでしょー!


……そう言えばクモさんが言ってた“裁士”って誰のことなんだろ?








ーーーーーーーーーーーーー





〇サルでも解る! ネオ・デス博士の怪人講座!(デスカンパニー製怪人・ハンミョウ男編)


“裁士”、正確には和裁士という職業のことだな。簡単に言うと着物職人のことを言うぞ。ちなみにその糸だが、希少性を薄めるため防御性能は皆無に等しいが、クモ女の糸によって作られた布ゆえ職人に見せたらとんでもないことになるぞ? 最高級の布、その数百倍に良い素材故な! さすが我が最高傑作よ!!! ……え、色々と怖いから大人になるまで大事に取っておく? ま、まぁそれも良いだろうな、うむ。


……っと! はーはっはっ! ごきげんよう諸君! ネオ・デス博士である! 今日もサルに等しい貴様らの頭脳でも理解できるように“懇切丁寧”な説明をしてやろう! さて今回はまたネタ切れと言うことで、この私が過去に生み出した怪人を紹介していくことにしよう! まぁ我が最高傑作であるクモ女を覗いて私が関わった怪人は全滅している故、コイツも死んでいるのだが……、まぁ貴様ら愚かな脳みそが少しでも真面になるよう! この私が時間を割いてやろうということだ! 感謝したまえ! はーはっはっ! では基本スペックといこうか!


■身長:192.1cm

■体重:106.3kg

■パンチ力:40.4t

■キック力:41.8t

■ジャンプ力:14.9m(ひと跳び)

■走力:5.2秒(100m)

★必殺技:直死土葬術


こいつはハンミョウという面白い適性を持つ男を改造人間にした怪人だな。まぁ早い話、トラップタイプの怪人よ。策略や人質をもって敵を所定の位置まで追い込み、その後は地中に作り上げた自身のテリトリーで敵を排除する。痛覚に強く作用する毒を持っていた故に、一度その罠にはまってしまえばとんでもない苦痛と共に死に絶えてしまう、という寸法だな。


戦闘員や改造人間の素材確保のため、人間の捕獲及び輸送作戦の指揮を執っていたようだが……。朝の通勤列車を丸々確保するというかなり大規模な作戦を行ってしまい、ピレスジェットに発覚してしまったようだ。その後一度地上で戦うも敗戦。そのまま逃げるように自身の巣へと連れ込んだようだが、ピレスジェットにとっても地中は都合の良い場所。何せ奴も毒を使うのだ。地上と地中を繋ぐ穴を塞いで、ピレスジェットが全力で毒を噴射。ハンミョウ男はドロドロに溶けながら絶命することになってしまった。


ま、そんな結末よ。


やはり罠などという姑息な手段に頼らずともすべてを圧倒できる力が必要というわけだな。ふふふ、その通り! まさに我が最高傑作であるクモ女のことだ! はーはっはっ!!! 


ではな諸君! 次の講義まではもう少し真面な頭脳を手に入れておくがいい! さらばだ!






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