3:方針を定めよ!
とまぁそんなことが昨日ありまして……。
「キュイ。」
なんやそのキャラ、って? いやおっしゃる通りです……。怪人として初めてヒロインと会話したせいかなんかよくわかんない存在になってしまった……!!! ほんとになんだあの喋り方は! もっとしっかりしろよ私! 大人でしょ!? コミュニケーションぐらいしっかりしろッ! 身バレ防止のためにまぁ普段と違う必要はまぁあっただろうけど! もうちょっとこう、あるだろ!
何だよ“私の巣”って! そんなもんこの家にある蜘蛛糸ベッドぐらいしかねぇぞ!? 町を全部私のものとか恐れ多すぎるわ!
「いやにしても、あの怪人殺さないでほんとによかったよ。私の中に根付いちゃってた“怪人”のイメージが強すぎたのか“お約束”の浄化技のことすっかり忘れてた。……中身、どう見ても幼稚園児だったしさぁ。」
“ユアルビー”を名乗るあのアカリとかいう女子中学生の前から姿を消した私は、いつも通りの光学迷彩で隠れながらその後の様子を観察させて貰った。あの子たちからすれば圧倒的なほどに差がある私に対して、あれだけ啖呵を切ったのだ。怪人となった元の存在に何か思い入れがあり、自分たちで終わらせる必要があるのだと察した私は姿を消したわけだけど……。
『ジュエルシャワー』という光の奔流が怪人、クライナーに直撃。なぜか『あかる~い』なんていう柔らかな断末魔と共に消えたあの怪人は、なんと元の人間に戻っていたのだ。そしてなんとびっくりそこにいたのは幼稚園児。いやマジで殺さなくてよかったよね。この手で未来しかない幼子を消しちゃうところだったし。すっごくぞっとした。
(仮面に備え付けてるカメラで映像は保存済み。軽く分析してみたけど、私や組織が持つ知識ではほぼ解析が不可能。つまり私の知るものとは全くの別系統の力であることが理解できた。)
胸元に下げていた宝石が強く光っていることから、それ由来の力である事も解る。そして霧散していったクライナーを構成していたエネルギーと、実は腹をぶち抜いたときに少しだけ採取させてもらったビジネスの肉体が保有していたエネルギーはほぼ同一。原理は解らないが、特攻が入る浄化技。改造を無効化する力を彼女たちが持っていると言うことが、判明したわけだ。
一瞬私を含めた改造人間にも影響があるのかな? と思ったが流石にないだろう。あのクライナー以外のこの世界における一般的な怪人は、外科手術をもって怪人へと変貌する。単なる光で元に戻ることはあり得ない。“力”を得る過程は、ヒーローも怪人も同じだ。
(つまり、あの子たちと私達は、完全に“別種”と言うことが理解できたわけだね。……自分の常識で動かないようにしないと。)
んでまぁ『排除しなくてよかったぁ』と安心した私は、幼稚園児ちゃんやあの“ジュエルナイト”なる少女二人に発信機をこっそり付けた後、その場から離脱した。
何せ敵のアジト、彼女たちと戦っていた『アンコーポ』という存在を消し飛ばさなければならなかったわけだしね? 私が腹を貫いたビジネスとかいう男だけど、実は様々な場所に発信機を付けさせてもらっていた。ぶち抜き内臓をスプラッシュさせた時も、内部に幾つか埋め込んだし、服や頭髪。それ以外にも沢山付けさせてもらった。
全部が私が所属してた組織、『デスカンパニー』の技術の粋が込められた自作の発信機。地球上どこにいようが確実に探し出せる代物だったんだけど……。
「キュイ?」
「仰る通り、逃げられちゃったのよね。」
地中はもちろん空中、組織が昔使ってた人工衛星も使って探した。けれど反応はゼロ。ソレで奴が発していた言葉を思い出しながら考えたんだけど、ビジネスは『この世界の人類は良いエネルギーになる』と言っていた。そしてあの妖精っぽい存在の世界を侵略したとも言えるような発言も。
ここから考えられることは、あのビジネスという存在のアジトが“この世界に存在しない”という可能性。もしかすれば中継地点ぐらいはあるのかもしれないが、魔法少女っぽい二人の浄化作業を見ていたせいでそれも探知できなかった。
つまり、私の存在をこの世界にある他の秘密結社に教え、私を殺しに来る可能性が高い“ピレスジェット”に情報が伝わるという可能性はぐっと低くなった。けれどこちらの現地勢力と何か交流を結んでいる可能性も排除できないため、どちらにせよ組織ごと滅ぼす必要がある事には、変わらない。
「多分だけど、私の理解できない何かがここにあるんだろうね。もしくはあの“ジュエルナイト”を付け狙ってるか。今回釘を刺したからある程度大人しくはなるだろうけど……。絶対今後も出てくるはずだ。」
……ふふ、いいとも。蜘蛛は執念深いんだ。こっちの身の安全が確保できるまではこっちも全力で排除してやる! 今はまだ無理だけど、あの空間転移能力があったビジネスの身柄でも確保して突撃してやるからな……!
「よし、そうと決まればあーちゃん! 情報の整理といこう! 付き合ってね!」
「キュー。」
まず現在判明している陣営は三つ!
ヒーローというかヒロイン陣営の“ジュエルナイト”! 明らかに妖精っぽい存在がいるからその力で変身しているっぽい子たち! 変身前の姿を確認してるし、発信機も付けさせてもらってるから現住所及び本名把握済み! いつでも介入可能! というか子供にあんま戦わせたくない! 面倒ごとは大人に任せておきなさい!
次は敵の秘密結社陣営! 組織名“アンコーポ”! 判明している幹部はビジネス一人! 営業担当とか言ってたからおそらく企業タイプの組織だと考えられる! 会話内容から鑑みて人の負の感情を利用しているっぽい! 原理及びその本拠地不明! 発覚次第殲滅!
最後私! おわり!
まず“敵の殲滅”に重きを置いた場合、どうなるかを考えよう。相手の本拠地を割り出すのには、やはり『一旦仲間になったように見せかける』というのが最適だろう。幹部っぽい奴の腹をぶち抜いてしまったが、力を見せつけたのは事実だ。悪の秘密結社というのはいつでも力を欲している。こちらがその意欲を見せれば、本拠地に呼び出してきてもおかしくない。ケドまぁ警戒されるのは確かなので、ある程度の土産がいる。
つまりあの女の子二人を確保して、ビジネスに接近。手土産として敵のアジトに侵入した結果、殲滅を開始。って寸法だ。確かにビジネスやクライナーは弱かったけど、まだ相手の底が見えたわけではない。もしかしたら私の天敵である“ピレスジェット”並みに強い奴がいるかもしれないが……、その時はこっちも切り札を切るだけ。
なーに、足の1、2本程度なら速攻で脱皮すれば失っても元通りになるしね! それをおとりにぶっ殺せば万事解決よ!
(けど、問題がある事は事実。)
もし私が苦戦するレベルに相手が強かった場合、手土産として巻き込んでしまった子供たちに怪我をさせてしまうかもしれない、という問題が浮上してくる。そしてもしそれほど強ければ、私も醜い本来の姿を見せなければならないし、敵のアジトを攻めるわけだからそれ相応の血生臭い現場になるだろう。
クモの腹に乗せて糸で固定しておけば最悪は防げるかもしれないが……。確実ではない。そして何よりも、かなりの恐怖映像を連続して見せることになってしまう。中学生と言えばまだ若いというよりも、“幼い”だ。その精神への悪影響は計り知れない。
「そう考えると、あまりいい作戦ではないよねぇ。そもそも“敵”相手に手加減とかできないし、多分確実に脳と心臓を突き破るぐらいはしちゃうと思う。怪人になったせいか私は慣れてるけど、あぁいう浄化技を持ってる子からすれば血なまぐさいのはダメだろうねぇ。」
……ん? 突き破ると言えば私。あのビジネスの腹突き破った上に臓器っぽいの握りつぶさなかったか? あ、あぁ。なるほど。道理で滅茶苦茶怖がられるわけだよ……。そりゃ怖いよねぇ。わ、悪いことしちゃったな……。菓子折りもって謝罪……。いや逆に怖がらせるだけか。
ん? どうしたのあーちゃん。そんな人を変質者を見る様な顔して。
え、女子中学生の名前と住所把握してるのヤバくないか、って? ……確かに!
「ちゃ、ちゃんと理由あるからね!? 決して私はそういう変態さんなわけではないからね!? そも同性……、いや同性でもダメか!」
私が昨日発信機を付けたのは、4名。ジュエルナイトに変身していた朱雀アカリ(ユアルビー)と青龍リッカ(ユアダイヤモンド)。あと怪人になっていた幼稚園児と、ビジネスだ。
まず幼稚園児ちゃんだが、浄化技をどこまで信用していいのか解らなかったため、経過観察の意味を込めてその監視を行っている。あとご両親が共働きで長時間自宅で一人、という背景があったそうなので監視用にあーちゃんとは違うアシダカグモを送っておいた。家屋に監視用のカメラなどを設置した後、お友達になってあげるように頼んである。見た目はちょっとアレだが、慣れると可愛いし害虫駆除のプロだからいいのよ、アシダカグモ。
(んで、あの魔法少女の二人。)
敵対勢力である“アンコーポ”の狙いはまだ不明だが、おそらくあの二人と戦闘を繰り広げていくのは簡単に推測できる。自衛のための力は必要だと思うし、現状彼女たちしかあのクライナーを元に戻せない以上、多少は戦ってもらう必要があるだろう。たぶん彼女たちもそれを望んでいるだろうし。
でも、“必要以上”は私の仕事だ。決して子供が青春を賭してすることではない。命のやり取りは大人、それも私の様な醜いバケモノに任せるべき。つまり守る必要があるってわけ。
そ、そのためには色々情報が必要でしょ!? だ、だから二人の自宅とが学校にカメラとかクモとかを配置しても何もおかしく……
「キュ。」
「……うん、そうだよね。傍から見たら変質者。」
いやでもさぁ、必要なのよ。今はまだあの二人が敵対しているのはアンコーポ、おそらく違う世界の秘密結社だけど、この世界にも秘密結社は沢山存在している。ちょっと町の中にいる蜘蛛ちゃんたちにお願いしてざっと調べてもらった結果、“アンコーポ”以外の組織の痕跡は見つけられなかった。
けれど、今後ずっとそうなのかは解らないのだ。もし都心で入り乱れている組織の一つがこっちに流れてきた結果。確実に彼女たちではやられてしまうだろう。私を誘拐した『デスカンパニー』に比べればマシだろうが、現地勢力だからこそ、様々な方面から攻めることが出来る。あまり防諜の意識がなさそうな彼女たちでは、すぐに身元を割られ確保されてしまうだろう。
(明らかに私達“怪人”とは別分野の技術。マッドサイエンティストとかに捕まって開かれるとかありそうだからねぇ。そうならないようにも、動いた方がよさそうだ。)
それに、まだ問題があって……。
「ベタだからねぇ、身内の裏切りって。」
二人に力を与えているあの妖精。アレも、あまり信用すべきではない。何か制約があるのかもしれないが、子供に力を与えて戦わせている時点で、私からすれば秘密結社と同じレベル、誘拐して改造していないだけで、絶対に褒められた行為ではない。というか普通の精神を持っているのならば、大人。それも戦闘経験のある者に戦わせるはずだ。
設置した監視カメラや盗聴器の情報を見る限り、あまり悪い存在には見えず、ユアルビーを名乗ったアカリちゃんと良い関係を結べているようだが……。どうやら私達と別種族である“妖精”である事は確からしい。同じ人間でも異文化による軋轢が起きるのだ。他種族となればもっとその可能性は増えるだろう。
「そう考えると……。とりあえず様子見ってのはいいのかな?」
アンコーポを名乗る秘密結社を消滅させるのは変わらない、けれど情報がまだ足りないため、泳がせる必要がある。その期間中はあの子たちが青春を送れるように裏からサポート。必要であれば身を晒して、ってところかな?
「キュ?」
「ん、どうしたのあーちゃん。……仕事? ……あっ!」
そ、そう言えば案件貰ったばっかりじゃん……! さ、流石の改造人間でもデスマーチと監視の両立は……、で、できらぁ! 我デスカンパニーの最高傑作ぞ! お、おぉぉぉぉ! とりあえず仕事だァ!!!
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〇サルでも解る! ネオ・デス博士の怪人講座!(ユアルビー編)
はーはっはっ! ごきげんよう諸君! ネオ・デス博士である! 今日もサルに等しい貴様らの頭脳でも理解できるように“懇切丁寧”な説明をしてやろう! さて今回は……、ぬぅ! 今回は怪人ですらないのか! しかも改造人間でない存在だと? 確かに私は人類が誇る大天才、だが専門は“改造人間”。そう、怪人だ! 説明はしてやるが、そこを間違えぬように。っと、お小言などつまらぬだろう! 早速基本スペックといこうか!
■身長:154.3cm
■体重:52.8kg
■パンチ力:5.2t
■キック力:7.8t
■ジャンプ力:11.3m(ひと跳び)
■走力:4.8秒(100m)
★必殺技:ルビーシャワー
本名は朱雀アカリ、どうやら妖精のプルポ?という存在から借りた『ジュエル』と呼ばれる宝石の力によって変身しているようだな。原理は分析不足なためまだ解らぬが、あまり強くはないな。というかこの『ジュエル』とやら、形状的に4名揃うことでその真価を発揮するタイプではないか? 確かに個人での戦闘能力における成長性はあるだろうが、まだ2人しかいない現状、その全力を発揮するのは難しいだろう。
それにしても我が最高傑作が“浄化技”と評したこの『ルピーシャワー』という技! 非常に面白い! 胸に掲げられたジュエルで力を増幅し、相手に叩き込むその力! 他の変身者と同時に起動することで各段に威力を上げる構造になっている! おそらく負の精神エネルギーによって構築されている“クライナー”の肉体。その細胞同士を結合させている部分を正の精神エネルギーを浸透させることで一旦破壊! そして再構築させることで元に怪人化を解いているのだろう! 非常に興味深い!
まぁそもそも! 精神エネルギーなどという不安定なものを使用していな我がクモ女には何の効果もないがな! はーはっはっ!!!
ではな諸君! 次の講義まではもう少し真面な頭脳を手に入れておくがいい! さらばだ!
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