14:不穏と執行
「プルポ、ほんとにここであってるの?」
「ぷる! これ見てぷる! パールが光ってるぽ!」
「ほんとだ。」
彼女たちがやって来たのは、学校にある剣道場。
学校から支給されたジャージ姿で茂みに隠れながら、剣道場の中を伺うアカリとプルポ。さっき拾った、先が葉っぱで一杯の枝を両手に装備しているあたり、ステルスがかなり高いことは明白だろう。たぶん段ボールと同程度にその身を隠すことが出来ているはずだ。
まぁ、後ろから遅れてやって来たリッカからすれば、本当に何をしているのか解らなかったが。
「な、何してるの貴女たち……。」
「あ、リッカちゃんお疲れ! ほら見てよこのいい感じの棒。ちょうどいい!」
「隠れてるぽ!」
「後ろからじゃ丸見えよ……。」
額に汗を流しながらそう答えるリッカ。
どうやら運動部に交じって校内でのランニングを行いながら、“ナイトジュエル”の輝きに従って新メンバーを探していた三人。けれどスタミナに関しては圧倒的にアカリの方が上で、プルポはアカリの腰に巻き付けられていたためスタミナ消費はなし。リッカだけ周回遅れの様な状態になっていたようだった。
アカリに追いつき、また“戦闘”でも置いて行かれないようにするため、自身のスタミナ向上トレーニングについて後で師匠のエミさんに相談のメールでも送ろうと考えながら、リッカが言葉を紡ぐ。
「それで……、剣道場? 確か今日剣道部はお休みって聞いてたけど。」
「え! そうなの。」
「うん。同じクラスの剣道部の子からね。今日はみんなお休みだから先輩と放課後スイーツして来るんだーって言ってた。」
じゃあなんでこの辺りにいるって反応があるんだろう、と不思議がるアカリ。
『剣道』という少し特殊な競技を行うせいか、アカリたちが通う学校の中でも少し離れた場所に存在しているのが剣道場である。つまり周囲にあるのは剣道場とその部室ぐらいで、剣道部が練習で来る以外には人は寄り付かないんじゃないかな、という施設だ。
「ま、とりあえず覗かせてもらいましょ。反応があるってことはだれかいるってことだろうし。」
「りょーかい! んじゃプルポ。悪いけどまた腰に。」
「ぷぽ! ぷるぽは今からキーホルダー。キーホルダー……。」
首に輪っかを通され、腰に巻き付けられるプルポ。
実は先日朝のランニングの際に、振動に耐えきれず商店街という人前で戻してしまった経験があるため、かなり気合を入れて自身はキーホルダーだと自己暗示をしている様である。……え? その時はどう切り抜けたかって? クモちゃん配下の野良蜘蛛部隊が騒ぎを起こして周囲の視線を他に向けましたとも。
そんなこんなで、剣道場の中に入っていく二人。
どうやら玄関口は開いていたようで、すぐに扉が開く。学校の施設故に彼女たちが入ることは別に禁じられてはいないのだが、静かで澄んだイメージのある場所に勝手に入ることに罪悪感を覚えてしまう。音が出ないようにゆっくりと扉を閉め、そろりそろりと中へ入って行き入口で靴を脱ぐ。
(アカリ、ほら下駄箱。)
(あ。運動靴がある。他にあるのは大人用のスリッパとかそう言うのばっかだし……。この人かな?)
(でしょうね。もっと奥に行きましょ。)
下駄箱を覗いてみれば、綺麗に整えられたおそらく女性の物であろう靴が一足。整えられて置かれている。勿論他にもスリッパだとか、顧問の先生が履いてそうなサンダルなどいくつかの靴が端の方に置いてあるが……。生徒の持ち物はそれ一つだけ。
自分たちが探す先輩。ジュエルナイトの適性を持つ新メンバーになってくれるかもしれない存在を探しに、更に奥へ。この建物で一番大きなスペースを占めている、木目の床が広がる場所まで、移動する。そしてちょっとだけ扉を開けて……、隙間から中を、覗き見る。
((……おぉ。))
そこにいたのは、一人の少女。
おそらく素振りをしているのだろう。袴姿でゆっくりと体に染み込ませるように、竹刀を振るう存在。この空間に広がる、何人も立ち寄らせないかのような、静寂の主。
アカリとリッカからすれば剣道は全く馴染みのない競技、どういった考えをもってその素振りが行われているかは解らなかったが、彼女たちは何度も実戦を重ねた戦士である。眼前で剣を振るう存在が、自分たちよりも上。手練れである事はなんとなく理解できた。
師匠に見せてもらった一撃をもってすべてを終わらせる“暴”ではなく、クモの様な酷く冷たく命を刈り取っていく“災”でもない。人が積み上げ継承してきた、“理”がそこに、感じられたのだ。
そんな光景につい見とれていた二人。その対象である彼女がゆっくりと竹刀を腰に戻し、声を掛けたことで先ほどまで続いていた静寂が、破られる。
「だれか……。あぁ、そこだね。見ない顔だけど……、見学かい?」
「あ、すいません! 邪魔するつもりは……!」
「はは、大丈夫だとも。ちょうどやめようと思ってた所だしね。あいにく今日は練習が休みで、ボクしかいないんだけど……。まぁいいや。とりあえずそんなところで見てないで、入ってよ。」
そう言いながら彼女たちに向かって手招きする剣道場の主。話し方からも、事前情報からも相手が先輩だと理解している二人は、一瞬顔を見合わせた後、頷きながら中へと入って行った。
時期的にも少し遅いのは確かだが、今は新入生が部活を決めるために見学したりする期間。
彼女たちが通う学園は全員が部活に入ることを強制されているわけではないが、推奨はされている。“ジュエルナイト”としての活動があるため、部活を始めるのは難しいと考えている二人だったが……。馬鹿正直に『ジュエルナイトの新メンバーを探すためにここまで来ました!』とは言えない。
リッカはそう考え、先輩には申し訳ないが入部希望者として振る舞い、どうにかしてクライナー関連の話題に持って行けないかと頭をまわしていく。
そんな考え込むリッカの様子を緊張しているのかと勘違いした彼女は、よく響く声でゆっくりと説明を始めていく。
「ボクの名前は“白虎ヒマ”、ちょっと物々しいし言いにくいから“ヒマ”でいいよ。2年で、一応副部長もやらせてもらってる。団体戦では副将……、と言っても解りづらいかな?」
その名前で、ピンと少し思い出すリッカ。そう言えば同じクラスの剣道部の子から『すっごく強い先輩がいるの! しかも王子様みたいにカッコいい!』という話を、彼女は聞いたことがあった。何でも1年の時点で県大会を優勝し、全国まで行ったことのあるヒマ先輩という存在がいるらしい、と。
リッカの友人、その剣道部の子はかなりそのヒマ先輩に入れ込んでいるらしく、顔を合わせた時には大体その話題になるため、なんとなく相手の人柄は理解していた。県で一番強い人がジュエルナイトになってくれれば、かなりの戦力アップが見込める。一つの宝石に、適性者は一人。たとえ今回勧誘を失敗したとしても、好印象を持ってもらえればその後上手く勧誘が出来るかもしれない。
言葉を選び、どういう話題を組んでいけば不自然なく勧誘に話を繋げられるかを考えた後。意を決して発言しようとしたリッカだったが……。
彼女の気も知らず、アカリが突撃。初手から本題をぶち込む。
「ヒマ先輩! ジュエルナイトって知ってますか!!!」
「ジュエルナイト?」
(あ、アカリ!?!?)
こういうのは最初から行った方がいいと考え、突撃するアカリ。急に変な話題が飛んで来たせいで首をかしげるヒマ先輩。普段なら何かやらかす前に口を全力でふさぐのだが、考え込んでいたせいでその予兆に気が付けなかったリッカ。
「その、ジュエルナイトって言うのは……。アレかい? 最近噂で聞くようになった怪物と戦っているっていう人たち。」
「はい! 私達ですね! それ「んちょわぁ!? お、おほほ……、なんでもありませんわ! えぇ!!!」」
思いっきりカミングアウトをしそうになったアカリの口を、全力で抑えに行くリッカ。
その様子にハテナを浮かべるヒマ先輩だったが、片方の後輩が触れてほしくなさそうに変な笑みを浮かべていたのでとりあえず気にしないようにする彼女。とりあえず話に乗ってあげた方がいいのかと考えたのか、彼女が知る“ジュエルナイト”についての情報を、開示してくれた。
「よく話を聞くよね、助けてくれた。って。でも確かネットにその名前とか映像とか写真を投稿したら直後に消されるんだろう? ちょっと都市伝説みたいで面白いよね。」
「え、そうなんですか。」
「あぁうん。この前確か河川敷の方で出たんだっけ? それを倒してくれたジュエルナイトの写真を撮っていた人が居たらしいんだけど、気が付いたらデータ消えちゃってたみたい。……ん? アレは体の大きな女の人が化け物を退治する話だったっけ?」
((師匠だ……。))
ネット上でそんなことが起きているとは全く知らなかったが故に、聞き返してしまうリッカ。
アカリも彼女も、SNSなどのツールは友人などと連絡をするだけ。もし自分たちのことを検索したとしても、“クモ”によって構築された自動消去プログラムによって全て消し飛ばされているため、何も見つけられなかっただろうが……。そもそも“投稿できない”、“自然消滅する”ような状態だとは、知らなかった。
まぁそんな驚きも、自分たちの師匠のイメージによって消し飛ばされてしまったが。
「あ、もしかして護身術として剣道を始めてみたい、とかそういうのかな? もしそうだったらあんまりボクたちは役に立てないかもだけど……、興味を持つきっかけはみんな違うからね。お試しで入ってみて、気に入ったら続けてみるとかも全然大丈夫だよ。」
剣道とは、剣の道。ただ単に相手を倒すものではなく、その心も強く求められている。単に身を守るだけならばそういったものを専門としている道場などに教えを受けた方が効率的だが、剣道には剣道のいい所がある。自分の好きなものにどんな形でも興味を持ってくれたのは単純に嬉しいと、言葉を続けるヒマ先輩。
「そうだ! ボクがただ竹刀振ってるだけじゃ面白くないよね。ちょっと待ってて、ちょっと倉庫開けるから。」
「「あ、お構いなく……。」」
「いやいや、気にしなくて大丈夫。面とか被ってみたいだろう? ちょうど新品があるんだ。今日はボクしかいないし、時間もある。せっかくだから全部つけてみようか。」
(あ、これ。止まらない奴?)
(エミさんに教わってるし、ジュエルナイトのこともあるから部活できないって言い出せそうにないわね……。)
自分が好きなことを、誰かに興味を持ってもらえることがうれしいのだろう。その凛とした顔を崩し、笑みを浮かべながら道場の端にあった倉庫のカギを取りに行くヒマ先輩。確かに竹刀や剣道の鎧など、着てみたいという気持ちはあるのだが、やっぱり入部することは難しいため、二人で顔を合わせ小言で話す二人。
そんな温度差が生まれてしまった剣道場。
地面が、揺れる。
(ッ! これ! プルポっ!)
(クライナーの反応ぷる!)
ヒマ先輩に見えないように、腰に巻き付いているプルポと言葉を交わす二人。彼女たちの悪い予感通り、クライナーの反応。しかもさっきの揺れからして、距離は近め。校内での出現だと考えられた。すぐに、向かわなければならない。
「地震……。いやそれにしたら連続的過ぎるね。何かあったのかな? まぁでも危ないしとりあえず外に……」
「す、すいません先輩! ちょっと急用思い出しちゃったので!!!」
「またお伺いさせていただきますので! 失礼します!!!」
「あ、ちょっと!」
大急ぎでその場から走り去る二人。
一瞬、風のように走って行ってしまった二人に呆気にとられてしまったヒマだったが、先ほどの揺れがどんな理由で起きたのかは、彼女からすれば不明。地震の可能性も考え、以前講習を受けた“部活時の避難方法”に則り、一応外に出て顧問の教師に連絡を取ろうかと思っていたところに後輩二人が飛び出して行ってしまったのである。あまりにも早い行動にびっくりしたヒマ。
「っ! いけない! 二人とも! 逃げるなら一緒に逃げないと! まだ避難訓練とか受けてないでしょう!!!」
すぐに貴重品を懐に入れ、走り出す彼女。
パタンと扉が閉まる音に、急いで下駄箱に入れてあった靴を取り出す音。
その駆けていく音が、先に行ってしまった後輩たちを追うために、彼女がここから出ていってしまったことを教えてくれる。
残るのは再び訪れた静寂。
けれどそれを破る、場違いな声。
「キュイ。」
天井から音もなく降り立つのは、巨大な蜘蛛。
強大な存在から血を分け与えられたことで、同種のクモに比べ強大な力を得たその存在。単純な出力の向上のみならず、特異な能力を持っているのか、主が多用する光学迷彩をもって世界と同化していた。けれど休憩のためか、一瞬だけそれを解き、不思議な鳴き声を上げる彼。
おそらく小腹が空いたのだろう。背負っていたドラゴンのナップサック(主人の学生時代の私物)からおやつのペレットを取り出し、栄養補給。ついでに買い与えられたスマホを操作し、ナップサック同様背負っていたカメラの情報を、主のPCへと送っておく。
「キュ、キュー。」
作業が完了したのだろう。スマホをナップサックへと戻しながら機嫌の良さそうな声を上げた“あーちゃん”。そう呼ばれる彼は、もう一度光学迷彩を起動し、常人では追いつけぬ速度で彼女たちを追っていく。人としてもクモとしてもちょっと可笑しなところがある主人ではあるが、そんな彼女から任せられた大事な仕事だ。
ご褒美として蜘蛛用のケーキも持って来てくれるという話だし、頑張るしかない。
「キュー、キュキュ!」
蜘蛛の監視は。まだまだ続く。
◇◆◇◆◇
「たす、たすけ、て。」
「思うんだけどね、この世で一番やる意味のない行為ってさ。命乞いだと思うのよ。どう思う?」
吸い込まれそうな闇の中で散乱する真っ赤な赤と、何かの破片たち。
すでにこの場にいるのは、私と組織のトップだけ。町に潜伏している奴や、外で破壊活動などをしていた輩は全てこの世から欠片も残さず消し飛ばしておいた。そして見つけた本拠地も、中にいたそのすべてを消している。残っているのは私の足元で這いつくばる首領くんだけ。
ほんとは他のと同様に即殺してあげても良かったんだけど、こいつらが溜め込んだものとかを外に搬出するために近くにいた野生の蜘蛛ちゃんたちを集めてお願いしてるんだよね~。だからそれが終わるまで暇なのよ。
(それに、これもあるし。)
そんなことを考えながら、ちょっとだけスマホを取り出して確認してみれば……。“彼”から受け取ったロケットに入っていた写真の検索が完了するまで、残り数分。現在照合作業と、現住所の割り出しが開始されている。これを受け取ったのは約22分前、想定よりも歯応えがなくてすぐに終わっちゃったから、時間潰さなきゃならないんだよねー。だからこの死に掛けの首領くんを相手に選んだってわけ。
さ、お話の相手でもしてあげましょうか。
んで、君。命乞いしてたんだっけ?
「私達みたいなわる~い人間がさ、捕まえた人から命乞いされても、その通りにするわけないでしょう?」
無辜な民の叫びは聞き届けられることはないし、そもそもヒーローが捕まった場合は命乞いなんてしない。そしてこれまで悪事を重ねてきた存在が命乞いなんてしても、受け入れられるはずがない。つまりどの立場であってもすでに結末は決まっている。残された時間とエネルギーを有効に使いたいのなら、そんなことする暇はない筈だ。
ま、反論とか色々あるだろうけど。今の私には興味もないし、関係もない。
というか君も組織のトップなら、自分の結末ぐらいなんとなく解ってるでしょ?
「なんだっけ、君の組織。あぁ別に口にしなくていいよ? 今日で終わりだしね。もう君以外ぜーんぶ殺しつくしちゃったし、溜め込んでた資材とかデータも回収済み。キミたちが“いた”っていう証は全部消えるんだ。もうどうでもいいよねー。」
「たすけて、ゆる、ゆるして。」
「うるさいなぁ。」
まだ呻くその腕を、踏み抜く。
響く醜い悲鳴。
床にまき散らされる、液体と化した肉たち。
ちょうどさっき体内で合成した毒を打ち込んだばかり、痛覚が限界まで研ぎ澄まされ、同時に気絶することが出来ない状態。とんでもなく痛いだろう。けどお前たちがした行為を考えれば、まだまだ生温い。人体実験に洗脳、更に虐殺。まだまだ罪状を上げればあるけど、もう見たくも考えたくもないからね。割愛させてもらうよ。
「ママに教わらなかった? 他人が嫌がることはしちゃダメ。嫌がることが解らなかったら、自分がされたら嫌なことはしちゃダメ、って。アレなんでそう言ってるか解る? こうやって自分に返ってくるからだよ? 軽くしかデータ見てないけど……。自分たちの言うこと聞かない市長さんの娘さらって拷問したんだって?」
よくやるよねぇ。
まずは拷問の様子をとった動画を送って、次は体の部位を少しずつ送る。最終的には生首にして送るとか。もともと擁護するつもりはなかったけど、お前たちに対して可哀想だとか、やり過ぎだとかいう感情はもう消し飛んだよ。苦痛なき死なんてもったいない。苦痛溢れるハッピータイムをプレゼントしよう。
「うーん、考えたらまた頭に来ちゃった。じゃあ次足ね? 先っぽから潰してあげよう。」
既にもう何もできない組織の首領の脚を、踏み潰していく。響く悲鳴と、飛び散る血肉によって奏でられる音楽。これほど狂気的で面白味のないものはないだろう。あー、もう悲鳴聞くの嫌になって来たし。消し飛ばして帰ろうかなー。……でも地獄に叩き落す前に、自分がしたこと理解させておいた方がよさそうだしなー。
「最近悪人ばっかだし、地獄もキャパオーバーだからねぇ。刑罰のお手伝い、って奴? あはー、クモちゃんやさしー。 ……おい、笑えよ。私のジョーク面白いでしょ? うん?」
足でその醜い顔を持ち上げ、そう聞いてやる。
恐怖に塗れたその顔が、無理矢理笑みを浮かべようとしているが……。酷く気持ち悪い。
つい手癖で、その首から上を消し飛ばしてしまった。
「あぁもう、脆いんだから。……およ? あぁスマホね。ちょうど検索出来たか。」
振動を感じ持ち上げて眺めてみれば、“彼”の妹の名前と現住所を見つけることが出来たようだった。
名前は“白虎ヒマ”。……およ? あのヒーロー君と苗字違うし、そもそもこの子。住んでるの『ひかりが丘』じゃんか。ふぃ~、滅ぼしといてよかった。これ放置してたら絶対こいつらひかりが丘にも来てたじゃん。『ヒーローに更なる苦痛を与えてやるのだー!』って感じで。にしても、ちょっと戸籍を見た感じ腹違いの妹……。っと、彼の家庭関係にあまり触れるのはダメだね。
とりあえずこのロケットは、帰ってから渡すことにしようかな? と言っても私も正体見せるわけにはいかないし、彼女の部屋の解り易い場所に彼の遺言を書いたメッセージカードと共に置いておく、ぐらいしかできないけど。
(“彼”には悪いけど、まだやる事沢山あるしねー。ちょうどこいつらの“後始末”とか。)
汚物は消滅よ~、って奴。
デスカンパニー崩壊時もそうだったらしいのだが、破壊された組織の残骸から資材やデータをサルベージして新しい組織を作ってしまうという話はよくあることのようだ。つまりそれを考えると、この一帯は文字通り消し飛ばしておいた方が良いだろう。資材は全て持ち出して表でも流通しているものは行政へ、裏で流通しているものは私の自宅に。データ類は有用な物だけこちらで保管し、それ以外は完全に消し去る。そういった作業はすでにしているのだが……、建物ごと消し飛ばしておくのが安全だろう。
そんなことを考えていると、搬出を頼んでいた野良クモの一体。バイト君から連絡を受けとる。
『きゅーきゅ! きゅきゅ!』
「あ、作業終了? ありがとうバイトリーダー君。んじゃちょっとみんな建物から離れるように言ってくれる? 消し飛ばすから。」
『きゅ! ……きゅきゅきゅ!』
彼からの『退避完了』という言葉を受けてから数秒後。行動を始める。
一度外に出て、地下にも広がるこの組織すべてを自身の糸で包み上げる。私の8本の脚を使えばいくら奥深くに基地を作ろうが、天高く伸ばそうが。すぐに包み込みが可能。糸自体が数分で消滅する代わりに、自身が出せる最高硬度の糸によって真っ白なミイラになってしまった建物だったものを作り上げる。
後はその中へと入り込み……
自身の体内に眠るエネルギーたち、普段は強く抑え込んでいるものを、暴発させる。
一瞬だけ全身が赤く光り、私を中心に轟音と熱が、周囲を埋め尽くしていく。
人間形態を維持する過程で入手した自己の“圧縮”という技術。最近ようやく言語化出来るようになったが、どうやら私は溜め込んだエネルギーなども無意識の内に圧縮し、体内に溜め込んでいたようだ。私の強化フォームである“赤熱化”もそれを使用し行っている。
ま、早い話その圧縮したエネルギーを肉体の強化ではなく、単なる破壊に使用したってこと。無属性のマップ攻撃ってところだね。ただこれを何も考えずに使うと周囲が死の土地になってしまうから、糸でガードするって寸法。
使い終わった後は多少お腹が減るけど……、最近かなり食い溜めしてたし。なんの問題もない。
「っと、こんなもんかな。」
「きゅ!?」
「あ、驚かせてごめんね。……後は中に残った灰や塵で地面を埋め立てればお終い、って感じ。さ、バイトのクモちゃんたち。埋め立て班はそのまま待機して、糸が消えたら作業開始。輸送班は指定した場所に、人間から見つからないように運んでねー。」
「きゅ! ……きゅきゅ?」
おん? どうしたバイトリーダー君。お給金のご飯は前払いだったから、さっき食べた……。あ、ウチの子になりたいの? 自分以外にも何千匹が? んー、と言ってもウチにはもうペットがいるからなぁ。家じゃなくてひかりが丘に移り住むぐらいだったら一応大丈夫だし、お仕事してくれるのならご飯の面倒も見るけど……。あ、それで大丈夫? ならそうしようか。
えっとね。じゃあ私の家にいる“あーちゃん”ってクモに話を聞きに行ってくれる? とんでもなく大きなアシダカグモだから見ればすぐわかると思う。あの子自分のファミリーを作ってるというか、あの町の蜘蛛界隈を統一して町のトップ張ってるみたいだし。彼に許可もらってからだと、現地のクモちゃんたちと仲良く出来ると思うよ。
「きゅー!」
「はいはい、じゃあまた『ひかりが丘』でね。私は届け物した後に他の町に行くから、残りのお仕事お願いねー。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
〇サルでも解る! ネオ・デス博士の怪人講座!(秒で死んだ組織の首領編)
そう言えば我が最高傑作であるクモ女よ。お前の必殺技である『スパイラルエンド』は使わぬのか? 一瞬で掃除も終わ……。え、使ったことない!? そ、それはいかんぞ! お前のパワーのすべてを叩き込む超必殺技! 複数の町を同時に消滅させるほどの威力があるのだ! 使わねば損……。え、危険すぎて使えるかアホボケ? そ、そこまで言わんでも……。
……は、はーはっはっ! ごきげんよう諸君! ネオ・デス博士である! 今日もサルに等しい貴様らの頭脳でも理解できるように“懇切丁寧”な説明をしてやろう! さて今回は……、この名前も解らぬ組織! そして我が最高傑作であるクモ女に秒で殺された首領についてでも解説してやろうか! 確かに中堅組織のトップを張れる程度には強かったようだが、クモ女の前では総じて雑魚よ! では基本スペックといこうか!
■身長:250.0cm
■体重:180.0kg
■パンチ力:30.0t
■キック力:60.0t
■ジャンプ力:20.0m(ひと跳び)
■走力:4.0秒(100m)
★必殺技:オーバーブースト
ふむ! どうやら私が好む人と虫の融合ではなく、人体を機械化することで強化するという手法で改造された存在のようだな! そしてエネルギーを多量に消費するが、必殺技を使用することで出力を3倍引き上げることが出来るようだ。まぁ確かにその強化された時点でのスペックを見れば多少強いのかもしれぬが……。この改造を行った者は視野が酷く狭いな。
機械に莫大な効力を発揮させるには、サイズを大きくするかより精密にするしかない。けれど改造人間という括りになってしまえば、どうしてもスペースが足りなくなり、体内に埋め込まれた機械は精密で複雑怪奇になってしまう。それこそ、ギアに砂でも挟まればすぐにおかしくなるような精密機械にな? 多少これはいき過ぎた例えかもしれぬが、少しでも体内のパーツが歪めば、この怪人はすぐに崩れる。“攻撃される”ことを考えていないのだよ。確かに格下相手には圧倒的だっただろうが……、我が最高傑作であるクモ女! 格上には手も足も出なかったようだな! はーはっはっ!
諸君! 貴様らはこんな愚かな怪人を作らぬように注意したまえ! 攻撃は確かに重要だが、防御のみならず対毒などの各種状態異常への耐性を組み込まねばあっさりと負けるのだ! このような愚物になりたくなければ努力あるのみよ! ま! どれだけ努力しようと人類史上最高の頭脳を持つこのネオ・デス博士には叶わぬだろうが! 2番目くらいには成れるかもしれぬぞ! はーはっはっ!
ではな諸君! 次の講義まではもう少し真面な頭脳を手に入れておくがいい! さらばだ!
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