50:逆転のライト


「ふふ、用意が良いではないか蝉少佐よ。」


「はっ! ありがとうございますっ!」



巨大な水晶に手を当て彼女自身が持つ正の精神エネルギーによって“龍の宝玉”を手のひらサイズまで縮小して見せたきりんさんを眺めながら、依然隣で膝をついている愚物にそう言う。なんでこんなものを持っていたのかは少し理解に苦しむが……。巨大スクリーンと専用の音響設備をすぐに用意して見せたのは評価して良いだろう。


しかも映写機タイプのじゃなくて、液晶。それも折り畳み式の巨大スクリーンだ。これ高さ5mくらいあるんじゃない? 気が付けばお外でお手軽スクリーン。あの子たちの戦いが映画で見れるようになっちゃった。あはー、これが劇場版ってやつ? いいねぇ、好きだよそういうの。楽しく推し活できちゃう。


でも、今となりに変なのいるからなー。1人だったらサイリウム振り回しながら応援するのに。



「……気になるか、蝉の。」


「い、いえ! そんなことはッ!」


「よい、今我は非常に気分が良いのだ、多少のことは見逃してやろう。それに、貴様らの働きで多少“手間”が減った。それに、良きシナリオも思いついたのだ。その褒美と思え。」



隣で少し不満、いや正確に言えば疑問か。私の行動に少し思う所がある様な顔をしている蝉少佐に、そう問いかける。優しくしてやる義理は無いが、必要はあるだろう。どうせ今は暇なのだ、質問くらい答えてやってもいい。


実際、私がこいつらについての情報を集め終わった瞬間。最初に思い浮かんだ選択肢は『抹殺』だった。私が保護していると言ってもいいジュエルナイトの彼女たちの安全を確保するために、数分ほどかけて文字通り跡形もなくこの世から消す。組織の頂点として生み出された私にはそれが出来る力も、時間もあった。


けれどそれをしないのは、彼らに利用価値があるからに他ならない。まぁそれも生かす必要がないレベルのもの。どっちみち消し飛ばすには決まっているが、役に立つのならば少しぐらいお目こぼししてあげる慈悲は私にもある。そして彼らが想像以上に使えるのならば、“結末”は変わらないがそれまでの時間は幸福なものにしてやる必要があるだろう。それがこいつらにくれてやる最大限の慈悲だ。


さて、どうせ聞きたいことは推測できるけど疑問を残したまま死にたくないでしょう? 早く吐け。若干の不機嫌さを支配者としての仮面で押し潰しながら指で速く話す様に促す。



「クモ女様。小官が思いますにあの者たちは純粋な正義側、それも取るに足らない程の力しか持っておりません。何故お手元に置かれているのでしょうか? 傍付きであれば我らシカーダアーミーはともかく、より優秀で尊き方にお仕えするための教育を受けた者がおります。差し支えなければ手配させて頂きますが……。」


「あぁ、そのことか。何、簡単な話よ。」



彼女たちを保護する理由、まぁこんなクソッタレな世界に子供を巻き込みたくないし、子供であるのなら戦いではなく青春を謳歌して欲しいという気持ちがあるのは事実だ。けれどこの世界は泥水が聖水かと思えるほどに濁っているわけだから、自衛のための力は絶対に必要。そう言う意味で私はあの子たちの面倒を見ているし、指導しているし、保護している。


けれどそこに、全く打算が無いわけではない。


私は、“怪人クモ女”だ。世界を手に入れかけた悪の秘密結社が生み出した最後の怪人で、最強の怪人。そしていつの間にか残党たちに神格化されて崇拝されている存在でもある。……まぁどう考えてもピレスジェットが狙ってくるよねって話だ。アイツは私を殺すまで止まらないだろうし、一度戦いが始まってしまえば私も奴から逃げ延びることは出来ないだろう。どれだけの規模になるかは解らないが……。



(私が殺される可能性が非常に高い、理由はそれだけで十分だろう。)



そんなとき、“あの子たち”が傍にいてくれればどうなるか。酷く善性が強い子たちだ。奴が私を殺す前に止めてくれるだろうし、ピレスジェットもこれまでの傾向からそういう存在を問答無用で殺すなんてことはしない。私の為にその人生をふいにさせるつもりはないため依存せぬようには立ち回っているつもりだが、彼女たちを甘やかしているのはそういう理由もある。


まぁ蝉少佐にそんなこと言えるわけがないので、『正義側であればあるほどにピレスジェットが手を出せぬ存在、つまり投入するだけで明確な隙を生み出す切り札になる』という嘘と真が入り混じったことを言っておく。



「それに、あの者たちはまだ改造手術を受けておらん。子供であることを考えると伸びしろがあるだろう? 幹部級に成れるかどうかはあの者たち次第であるが、親衛隊程度であれば余裕だろう。まぁ、未来への投資も兼ねた実験という奴だ。どうだ、納得したか?」


「はッ! 感謝いたしますクモ女様! また考えが至らず、大変申し訳ございません!」


「よい。そもそも兵士に策を練る頭など期待しておらん。戦働きで示せ。それでも納得いかぬのなら見て学べ。」



っと、そろそろだね。


蝉少佐と何の意味もない言葉を交わしていれば、大画面に写されているきりんさんが小さくなった“龍の宝玉”を強く握りしめ、前へと掲げている。そして常人でも視認できる、強い正の精神エネルギー。願望器の一種だと思っていたけれど……、彼女がそう望めば、ナイトジュエルと同じ働きをするって感じか。



『見ててください! わたしの! 変身を!』



彼女がそう言い放った瞬間。水晶内に蓄積された彼女の正の精神エネルギーが消費され、願いが成就する。


水晶に巻き付いていた装飾の龍がひとりでに動き始め、黄色く光り輝きながら彼女の体を包み込んでいく。どこか東洋の龍を思い出すソレは青い稲妻を伴いながら変化していき、光り輝く衣へ。その瞬間、画面が白飛びするほどの発光が起き、それが収まっていくごとに、彼女の新しい輪郭が現れていく。



『パパを止めるため。いえっ! みんなの幸せを育むこのイエローアイランドをあるべき姿に戻し! より多くの人に笑顔を届けるために! 私も、戦います! もう、なにも出来ない“きりん”じゃありませんッ! 私の名は……!』



ユアドラゴン。5人目のジュエルナイトの誕生だ。



ふふ、あぁやはり幼子は良い。


無垢で、まっすぐで、何も知らないからこそ明日に希望を持てる。知ってしまった私にはない力、酷くうらやましいけれど、これは若人の特権。大人である私が取ろうとしたり、阻もうとしてはダメだ。ならば盛大に、祝わねばならない。



「ふふ、はは、あはは! あははははは! 素晴らしい! 良いではないか“ユアドラゴン”! はーはっはッ!!! 祝いの時ぞ!」


「おめでとうございます、クモ女様!」


「「「おめでとうございます!!!」」」



ちょっとだけ気分が盛り上がってしまい、つい立ち上がりながら声を出してしまう私。


するとその直後に起きるのは、蝉少佐のお祝いの言葉と、その後に続くシカーダアーミー全員からのお祝いだ。う~ん、凄い声量。まぁ千人ちょっといるからこうもなるか。


彼らからすれば、きりんちゃんが変身したことなどどうでもいいし、興味がない。けれど私が喜んでいるとなれば話は別だ。おそらく彼らの頭の中では『クモ女様のシナリオが上手く進んだのだ……! さすがクモ女様!』という感じになっているのだろう。向かって来る視線も大体そんな感じだし。全く気分は良くないが、とりあえず受け取るだけはしておいてやろう。


……あ。みんなと一緒にお祝いの言葉を送らなかったビジネス君がボコボコに殴られてる。かわいそ。……え? クラフト? 今精神崩壊して赤ちゃんになってるからお咎めなしみたいね。女性怪人に即席の玩具であやされてるし。



「ふふふ。あぁやはり面白いな。見てみろ蝉少佐。」


「はっ! 素人ながら相性を見てよく立ち回れているかと。ですが単純な戦闘への“理解”に関してはやはりクモ女様が保護していらっしゃった者たちの方が上かと推察致します。」



……そういう意味で言ったんじゃないんだけどなぁ?


とりあえず満足そうな笑みを返答として返しながら、彼女たちの戦いを眺めていく。やはり今回が初戦闘と言うことで慣れていないきりんこと“ユアドラゴン”であったが、そもそもの出力が高いのだろう。完全な遠距離戦主体で、勝負を進めていく。


両手の人差し指と親指を合わせ、作るのは菱形。その中央に龍の宝玉を収めることで、自身の精神エネルギーを増幅させながら打ち出すと言った攻撃を行っている。



(エネルギーの増殖率、に関してはアカリさんたちの変身アイテムであるナイトジュエルよりも上か。でもエネルギーの使い方が彼女たちよりも下手、おそらく“思い描いた事象を引き起こせる”だけで、ナイトジュエルたちのように戦闘時の補助が行われていないタイプ。)



さっきの音声記録を聞く限り、妖精であるプルポも知らぬような品が“龍の宝玉”。遥か過去に人間界への友好の証として渡されたそうだが、その役割は願望機。完全に戦闘用と推測できるナイトジュエルとは根本的に別物で、戦闘向きのジュエルではないのだろう。


おそらくそれを理解したのであろうユアドラゴンは、すぐにジュエルナイトと合流。後方支援として動く意思を彼女たちに伝え、父を止めるために再度動き始めた。



『みなさん! 私も、戦いますっ!』


『きりんちゃん……、ううんドラゴン! 後ろからの攻撃は任せたよ! 私たちが合わせるから、好きにやっちゃって!』


『はいっ! ルビー!』



そうして始まった5人による共闘。敵対する化け物が何を考えてどう動いているのかは解らないが、娘が自分に反発したことは理解したのだろう。親族という真っ先に信じられるような存在に裏切られたという事実によって、先ほどよりも強い負の感情を発露させ、大量の負の感情によって生成された泥を生み出していく。


けれど負の感情は、正の感情に打ち消される。


ドラゴンの手元から荒れ狂う龍のような光線が何本も放たれ、的確にその肉体を削り取っていく。勿論彼女の迎撃が間に合わず襲われそうになった瞬間もあったが、即座にエメラルドが盾を投擲。防壁を生成しながら、同時に他の仲間たちが扱う足場を生成する。


その足場を利用し駆けまわるのは、ルビーとダイヤ、そしてダークパールの三人。



『露払いぐらいはさせてもらうよ! 黒珠斬ッ!』



ダークパールがそう言いながら放つのは、無数の真っ黒な斬撃たち。自身に迫りくる敵を迎撃しようとしていた化け物だったが、その斬撃によって払われ、ルビーとダイヤが突っ込む道が開ける。


先ほどは無理して一人で突っ込んでしまった。成功はしたが、消耗が後に引いてしまい、友に迷惑をかけた。ルビーの表情からも、それが見て取れる。けれどダイヤの表情からも、もっと自分に力があれば、あの時引き上げることに成功していれば、そういう後悔を見ることが出来た。


お互いに、思う所がある。けれどそんなもの、親友と共にいれば、全部吹き飛ばせる。


強い意志が感じられる、太陽のような笑顔が彼女たちを彩り、その拳に宿るのは、ありったけの力。



『ミスるんじゃないわよ! ルビー!』


『誰に言ってるのさダイヤ! ありったけ込めていくよッ!』



『ダブルッ! インパクトッ!!!!!』



叩き込まれる赤と青の光。


感情を爆発させ、精神エネルギーをこれでもかと叩き込まれたその拳は、確実に化け物の胸部へと突き刺さり再度その泥を大きく消し飛ばす。先ほどよりもより大きく広がったその穴は中へとりこまれていたきりんの父、“黄龍”の姿をより確実に露出させた。


そしてその瞬間、エメラルドが投擲した盾がより大きく展開し、弾け飛び散らばった泥たちを地面に縫い付けるように生み出されていく。そしてまだ彼の体に残ってしまっている泥たちは、ダークパールがその斬撃をもって吹き飛ばした。……今なら、救える。



『『『『ドラゴンッ! 決めてッ!』』』』


『みなさんッ! ありがとうございます! ……パパ! 今助けるからね!!!』



皆が作ってくれたこのタイミング。絶対に失敗するわけにはいかない。


彼女がその強い意志を表す様に声を上げ、手で大きく円を描きながら、その心に宿る強い願いと想いを宝玉に注いでいく。“龍の宝玉”は、使用者の想いを叶えてくれる。負の精神エネルギーをもって引き起こそうとすれば絶望をもって実現させてしまうが、正の精神エネルギーを扱えば、希望をもって実現してくれる。


これは救い。龍の宝玉が、想いに応え、闇を打ち払う極光を、放つ。




『ドラゴンノヴァ・ブラストォ!!!!!』





「おぉ……。」



つい、声を漏らしてしまう。誰にも聞かれなかったのは幸いだが……。頑張っているねぇ。


そんなことを考えながら、画面を眺める。あまりの光量にカメラが耐えきれなかったのだろう。また画面が白飛びしてしまっている。けれどその威力は推察可能、これまでの彼女たちの攻撃を大きく上回る威力だ。正の精神エネルギーをそのままぶつけるという単純な技だが、負の感情によって生み出された泥からすれば途轍もない威力だっただろうね。


けれど、“怪人”としてはちょっと拍子抜け。見た目重視の攻撃に見えてしまう。実際シカーダアーミーの方を見て見ても『それが?』という顔をしている者が多いし。救うための攻撃だから仕方ない所もあるんだろうけど……。



(こいつらはもっとこう、思う所とかないの? 普通こんなの見たらテンション上がらない?)



こいつらと趣味合わないなぁ、なんて考えていると、画面が元の色を取り戻し始め、地面に伏したきりんのパパが、ドラゴンの隣で転がっているのが見えた。どうやら宝玉の力で元に戻し、自身の手元へと呼び戻したのだろう。それを見て安堵の息を吐くドラゴンに、お互いの頑張りを労う様にサムズアップするジュエルナイトたち。



(うんうん、よく頑張ったね! クモのお姉さんとっても感激! あとで目一杯甘やかしてやらなきゃ! ……でもその前に、お説教しなきゃかな?)



撮影していた蜘蛛の一匹が、ジュエルナイトたちではなく先ほどまで化け物がいた場所を映し始める。彼がズームした場所をよくよく見て見れば……。まだ、化け物の泥が一欠けら程、残っていた。


打ち漏らしだ。


ちゃんと止めは刺したのかしっかりと確認しなさいっていつも言ってるのにねぇ。まぁかなりきつい戦いが終わって解放感に溢れているだろうし、新しい戦士と出会えた嬉しさってのもあるだろう。これまで浄化技を当てて倒し切れなかった相手がそうそういない、っていう経験も合わせて油断に繋がっちゃったんだろうね。


……あの泥の化け物は自己増殖タイプの存在だったが、こういう敵の“お決まり”として核を失ったときの顛末が2つ考えられる。ひとつは消滅タイプ。自己を形成していた根本が無くなったのだ。人で言えば背骨を抜き抜きされたようなもの。この場合は普通に死ぬし、打ち漏らしがあったとしても放置しても大丈夫だと言えるだろう。


けれど厄介なのが、暴走タイプ。核がいなくなったせいで肉体を抑えるもの、制御するものが無くなってしまい、好き勝手動き始めてしまうというものだ。……見た感じ、こりゃ今回は、こっちだったみたいだね。



『ッ! アレ!』



真っ先に気が付いたのは、ダイヤ。


異常を感知し泥のあった場所を指差してみれば、最初は欠片だったはずの泥が、どんどんと膨張を始めている。しかもその泥が喰っているのは精神エネルギーではない、床や、その装飾品。周囲にある物質全てを吸収しながら、増殖が始まってしまっている。


即座にジュエルナイトたちが攻撃を打ち込み、その泥を消し飛ばそうとするが……、効かない。いや効いてはいるのだが、“エネルギー総量”が足りないのだろう。その泥全てを消し飛ばす様な攻撃でなければ、正の精神エネルギーですら吸収し、飲み込み、自己の糧としてしまう。負の感情によって生み出された存在ではあるが、もともとは正も負も両方扱える“龍の宝玉”から生まれたものだ。そう言う機能があったとしてもおかしくない。



(ん~、私の出番かな? アレぐらいなら人間形態の雷撃と膂力合わせれば普通に消し飛ばせるだろうし。)



後始末は大人がさせて頂くとしようか、そんなことを想いながら立ち上がろうとした瞬間。画面が映す彼女たちの間で、何か動きが見えた。アレは……、プルポか?



『こ、こうなったら奥の手ぷる! 上手くいくとは限らないけど……! やらないよりマシ! ドラゴン! これをうけとるっぷ!』


『えっ、わっ、これは!?』



そんな彼女の手に渡されたのは、透明なジュエルの下にピンク色の持ち手が付いた小さなステッキのようなもの。


どうやらプルポによると、自分もジュエルナイトたちの助けになれないかと前々から思考錯誤し、作り上げた一品だとか。ステッキの上にあるジュエルを通して彼女たちにエネルギーを送ることが出来るようだったが、増幅機能がないため雀の涙ほどしかパワーを送ることが出来ない欠陥品だという。



『でもでも! 今のイエローアイランドにはたくさんのクライナージュエルが散らばってるっぷ! 機能は大きく違うけど材料は大体同じ! “龍の宝玉”のパワーで作り替えて! みんなに助けてもらうっぷる!!!』



数は力と言う風にいうプルポ。


今ある手札ではそれが最適だと考えたのだろう。彼の言葉に強く頷き、“龍の宝玉”を起動するドラゴン。すると彼女の体から黄色い光のような物が漏れ出していき、彼女たちがいる城からこのイエローアイランド中にひろばっていく。少し画面から少し顔をずらし、実際に城を見て見れば……。確かに黄色い光がこちらに向かってゆっくりと広がっていた。



「……ふーむ。面白い、手伝ってやろうか。蝉少佐、あの男にやらせていた分離作業はどうなっている?」


「はッ! 第二中隊報告せよ!」


「現在7割ほど完了しております! 急いでやらせておりますが、これ以上の効率化は不可能かと思われます!」



7割か……。大体1400弱ぐらいいたし、1000ちょっと、って感じか。まぁそれだけあればいいかな。うん。ある程度は手元に残しておきたいというか、私の分が欲しいから置いておいてほしいんだけど、それぐらいあれば適度にこの遊園地内にばらまくことが出来るだろう。



「蝉少佐よ、お前の部下に透明化能力を持つ者はいるか?」


「はッ! いいえ! おりません! 大変申し訳ございま……」


「よい、ならば我が配下にやらせよう。我が子たちよ、話は聞いていただろう? 仕事の時間だ。疾く済ませ。」


「きゅきゅ!」



蝉少佐の声を遮りながらそう言うと、実はシカーダアーミーを囲むように配備されていた私の蜘蛛たちの一部が姿を現し、ビジネスがせっせと解除してくれたクライナージュエルを受け取りに行く。幼い印象を受けるこの子たちだが、バカなわけではない。ちゃんとあの黄色い光に当てて変化が確認された後、お空から良い感じにばらまいてくれるだろう。


あぁ、そうだ。そう言えばきりんさんが窃盗紛いをしてかき集めてたクライナージュエルは……。あ、持って来てくれたの? しかも“変化後”の奴? さっすが私の蜘蛛たち~! ちょっと支配者ロール中だからいつものように撫でてあげあっれないけど、悪い組織のボスが飼い猫を撫でるようにやさしくなでなでしちゃう~!



「して、これが……。」


『ジュエルライトっぷ!』


「……か。なるほど? ボタンを押せば光るのか。」



精神エネルギーをこのライトに送り込まなければ機能しないようだが、まぁ多少は使えるだろう。あぁ、そうだ。面白そうだしシカーダアーミーにもやらせようか。蝉少佐? このライトをお前の指揮下にいる者たちから強い順に配っておけ、ちょっとした余興よ。あぁそれと、その2人。ビジネスとクラフトにも渡しておくように。精神エネルギーであればあの者たちの専売特許のはずだ。負の精神エネルギーであろうと、ダークパールがいる以上力にはなるだろうよ。



「はっ! すぐに!」


『みんな! ジュエルナイトに力を貸して欲しいっぷ! ジュエルライトを高く掲げて、応援してほしいっぷ~!!!』



おっと、そうこうしている内に始まっちゃったじゃん。んじゃ私も失礼しまして……。



じゅえるないと、がんばれ~!!!







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー






〇サルでも解る! ネオ・デス博士の怪人講座!(ユアドラゴン編)


……支配者然とした座り方をし、悪の首領として正しい笑みを浮かべながら戯れにライトを光らせてやり、内心では『じゅえるないと、がんばれ~!!!』と叫んでいるクモ女に、とりあえず上に命令されたので見よう見まねでジュエルライトを無駄に綺麗な姿勢で掲げるシカーダアーミー、もう涙目を越えて色々とやけくそになりながらライトを光らせるビジネスに、ばぶばぶしているクラフト……! なんだこれは!? だがクモ女が楽しそうなのでとりあえずヨシ!


はーはっはっ! というわけでごきげんよう諸君! ネオ・デス博士である! 今日もサルに等しい貴様らの頭脳でも理解できるように“懇切丁寧”な説明をしてやろう! さて今回は新たなジュエルナイト! いわゆる劇場版の時にだけ登場する特殊戦士! ユアドラゴンについて解説してやろう! まぁ正確に言えばジュエルナイトとしての力を無理矢理“龍の宝玉”で実現しているという別物の戦士のようだが……。まぁ良いだろう! 基本スペックだ!


■身長:149.6cm

■体重:41.8kg

■パンチ力:4.0t

■キック力:6.5t

■ジャンプ力:8.2m(ひと跳び)

■走力:5.2秒(100m)

★必殺技:ドラゴンノヴァ・ブラスト、ドラゴンストライク


本名は黄龍きりん、イエローアイランドの経営者である“黄龍”の一人娘だな。スペックだけ見るとかなり弱いというか、そんな出力で戦場に出るな愚か者と言いたいところだが、この者の最も特筆すべき能力は、その“砲撃力”にあるだろう。つまり完全な後方火力支援タイプなのだ。


正の精神エネルギーを“龍の宝玉”の力で高め連続で打ち込むことが出来る“ドラゴンストライク”という技と、限界まで高めた精神エネルギーを一点に集め腕で太陰太極図のようなマークを作り打ち出すという“ドラゴンノヴァ・ブラスト”。ちょっと東洋の龍を思わせる衣装をまとっておるし、苗字の通り“黄龍”をモチーフとした戦士なのだろうな。


単体では使い物にならんが、前衛がいれば話は別。まだまだ成長過程ゆえに判断はつけづらいが、まぁまぁな戦士と言えるだろう! はーはっは! 我が最高傑作であるクモ女が応援しておるのだ! 他のジュエルナイト共々、不甲斐ない姿を見せるではないぞ!


ではな諸君! 次の講義まではもう少し真面な頭脳を手に入れておくがいい! さらばだ!


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