9:ドキドキ! 師匠と修行!





「あっ! 師匠ー! おはようございますー!!!」


「どうしたものか……。ん? あぁアカリさんにリッカさん。おはようございます。お二人とも早いですね。」


「アカリが早く起き過ぎちゃったみたいで……。」



回転寿司に三人で行ってから数日後。週末の公園で私たちは朝早くから集合していた。


彼女たちの指導役を受けたことに際して、この前言ってたピレスジェットの資料、あぁ私を改造した秘密結社デスカンパニーを破壊したヒーローね? 彼の特訓に関する資料を色々と確認してきたのだが……。まぁアレを魔法少女の子たちに施すのは無理だろう。ジープでマシンガン乱射して来る人から逃げる特訓とか、迫りくる雪崩に向かって走りそれを受け止めるとか常人には不可能だ。というか改造人間でもミスったら死ぬ。


そのためデスカンパニーの新人戦闘員に向けた訓練カリキュラムや、ネット上に散らばっていた情報を色々と合わせて、メニューを組んできた。勿論それ以外も色々用意して来たんだけど、まぁその辺りは追々。


んで、その栄えある特訓初日として朝から指導させて頂くことになったんだけど、この子たちはまだ子供。大事な睡眠時間を削らせるような真似は出来ない。


と言うことで、学校と同じように朝の9時から始めるようにお伝えしてたのだが……。



(今。朝の6時なんだよなぁ。何? 三時間前行動?)



アカリさんはもう元気溌剌で、楽しそうにぴょんぴょん跳ねていらっしゃるのだが、リッカさんは急いで用意して来たのか若干寝癖が残ってしまっている。明らかに家凸されて無理矢理出て来たのだろう。


というか私も、アカリさんに叩き起こされた口だ。彼女の家の自室に配置している監視用クモちゃんから連絡を受け取り、それを見たあーちゃんが私を叩き起こし、もう全速力で用意して公園まで走って来たのだ。いやだって責任者いないところで勝手に始めちゃってたらもう私の監督責任じゃん。朝の用意に強化フォーム使ったの初めてだよ……。



「師匠! 師匠! そのクーラーボックス? なんですか!? いっぱいありますね!」


「あぁ、これはお二人の朝食と昼食。それと水分補給用のクーラーボックスになります。まぁ半分以上私のご飯ですが……。何分嫌な予感がしたもので、急いで作ってきました。あまりちゃんとしたものをご用意できず、申し訳ない。」



そう言いながら8個程持ち込んだクーラーボックスの一つを開け、お二人に中を見せる。朝ごはん用に用意したおにぎりとソーセージ、後卵焼きと簡単なサラダだ。ほんとはもうちょっと凝ったものを持ってこようとしたんだけど、時間がなかったのでこうなっちゃった。



「見た感じ、アカリさんはともかくリッカさんは朝食べられてないでしょう? 今日は初日ですし、色々と説明を行う予定だったので食べながらにしましょうか。」


「やったー!!!」


「な、何から何までほんとすみません……。」



大きな声で喜びを露わにするアカリさんに、私に頭を下げてくるリッカさん。いえいえ、構いませんとも。見ている限り、とても振り回されているようですし。ブルーシートや野外用のクッション、暖かいお茶も持って来てますから。少しだけゆっくりしましょうね。



「あ、あったかい……ッ!」


「師匠ー! 私もお茶飲みたいですー!」



はいはい、今用意しますから待ってくださいね。


後、今日は何とかなりましたから良かったですけど、毎回こう早起きすることになるとどこかで私が潰れます(寝ぼけて正体をバラしてしまう可能性増加)。なので次からはちゃんと集合時間を守ってくださいね? 早く来るのはいいですが、五分前ぐらいにしてください。しっかりと寝て休息を取るのも強くなる秘訣です。解りました? 


……うん、いいお返事。じゃあお茶をプレゼントです。朝ごはんの方もすぐお渡ししますのでちょっと待っててくださいねー。



「あ、そうだ。エミさん。さっき何か悩んでいたみたいですけど……。何かあったんですか?」


「ん? あぁいえいえ。ちょっと仕事のことで面倒ごとがおきましてね。それの対応をどうしようか考えていたところです。ある程度時間を掛ければすぐ終わる案件ですし、お気になさらず。」



そんなことを言いながら、お二人に朝ごはんを手渡していく。


……本当は、仕事のことで悩んでいたのではないんですけどね。ネタがネタなので隠させてもらいます。


私が悩んでいた件は、お金周りのこと。実はこの前弁償させて頂くことになった屋台のラーメン屋さんの修繕費用、こちらの明細を頂いたのですが、何でも屋台を引くときに必要な車軸が破損していたりと、想像以上にダメージが大きかったようで……。うん、とんでもない額になってました。


屋台のご主人は気を使って『事故の様なものですし、弁償していただかなくても……』と言ってくださいましたが、一度吐いた言葉はなかったことにはならない。私の食費のせいであまりたまらない貯金を引っ張り出してきて、修理するよりも新しいのを買った方がよさそうだと言うことで、新品の屋台を購入することになりました。


折角だからと言うことで色々と設備の整っている最新式をご用意したので、ご主人も大変喜んで下さり『この御恩は一生忘れません! もうお代なんか頂けないです! いつでもウチのラーメンを食べに来てください!』と言ってくださったんですけど……。



(か、金が……。)



そう、お財布が寂しくなっちゃったの。いやまぁ生活できない程追い込まれたわけじゃないんだけど、今度また同じようなことが起きれば完全に首が回らなくなるレベルだ。


だったらもう弁償しなきゃいいじゃん、って話ではあるんだけど、そうはいかないんだよねぇ。


この子たち、魔法少女たちは命がけで戦ってるし、二人しか改造された人を助けてあげられないのがクライナーだ。私は周囲への被害を0にすることはできるが、それをするたびに屍が増えてしまう。つまり彼女たちを戦わせるのを止めるって選択肢はないんだけど……。そうなると周囲への被害が避けられなくなっちゃう。


確かにこの前の野球怪人の時のこともあるし、これから明確に触れないようにしながら指導するつもりではある。けれど命がけで戦っている以上、どうしても周囲への被害は出てしまうだろう。ある程度は保険会社や行政がカバーしてくれるだろうが……。今回の屋台のように無理なこともある。もしそのせいで不幸に陥る人がいて、その様子をこの子たちが見てしまえば……、万全に戦うことなどできない。


何処かでこの子たちは壊れてしまうだろう。



(子供に対処できない、いわば大人がカバーすべき案件。……稼がないとなぁ。)



事情を知ってて動けるのは私だけ、全部を全部賠償する気はないが、誰かが引き上げなければ大変なことになってしまう方であれば、対処せねばならない。


そのためには、お金が必要だ。


ちょっと何日かこの町、『ひかりが丘』を空けることになりそうだが、一回都心に戻って仕事を取ってくる必要があるだろう。後ついでにこの近辺に寄って来た秘密結社の排除や、激戦区の都心の情報収集もしておきたいと思っていたのだ。いい機会だし、ちょっと不安だが、私の首が回らなくなる前に遠征しに行った方が良いだろう。



(無理すれば1時間かからずに戻って来れるとはいえ、戦闘での1時間はかなりの長期間。何かあった時のためにも、あーちゃんに留守頼んで置いた方が良いなぁ。……ご褒美に蜘蛛用ケーキ用意しとかなきゃ。)



「っと、お待たせしました。お代わりも用意していますのでどうぞお食べください。」






 ◇◆◇◆◇






朝ごはんを食べさせてもらい、色んな説明を受けた後。


私たちは師匠役を引き受けてくれた彼女、エミさんから戦い方を教わっている。



「もっと顎を引きなさい、体の重心もずらさない。ただ殴るだけなら赤子でもできます。もっと相手のことを強く観察する。」


「は、はいっ!」


「えぇ、その調子。リッカさん、貴女にはアカリさんの様なパワーはない。故に、常に流れと線を意識しなさい。体格は劣るやもしれませんが、柔らかさはある。強みを理解し、常に押し付ける。鉄則ですよ。さぁ絶えず連撃を叩き込んで。」



言われた指示を何とか頭でかみ砕きながら、それを体で実行していく。言葉にすればとっても簡単そうに見えるけど、実際にやってみればとても難しい。ただ彼女に向かって打ち込んでるだけなのに……、どんどんと精神と体力が擦り減っていく。


私が見せた隙に向けられる、彼女の冷たい視線。まるでそこにエミさんの拳を幻視するような、強烈な気配。先に組み手をやってもらったアカリも、今組み手をお願いしている私も、一回も攻撃を受けていない。けれど、ずっと首元にナイフを突きつけられているような感覚。



(変身してたとしても勝てると思えない……! しっかり、しっかり1から思い出して、実行していけリッカ!)







朝ごはんと一緒に受けた説明は、私たちがすべき食事やトレーニングに関するものだった。


エミさんによると、ただ我武者羅に動いたとしてもむしろロスが多い。肉体の成長に合わせた適切な食事と、適切な運動。まずはそれを強く意識する必要があるとのことだった。そしてそれを為すために私たちは、トレーニングとしてするべきこと。そして食べるべきものについて書かれたモノを頂いた。



『本来なら専門家にお願いするところでしょうが……。まず、お二人に必要なエネルギーや栄養素の一覧がこちらです。今後少しずつ増加していくでしょうが、今はそれを目安にしてください。そしてこちらが、現在のお二人に必要と考えられる食事の献立になります。レシピ含めて2週間分をご用意しました。』



書かれていたのは、エミさんの言う通りのもの。ただそれだけでなく。この栄養素は何のために必要なのか、私たちの年齢だとどれぐらいが平均なのか。まるで私達専用の家庭科の教科書を見ているようなものを、渡されてしまった。エミさんは素人の作ったものだし、気にしなくていいって言ってたけど……。明らかにタダでもらっていいものではない。


でも、まぎれもなく私達専用に作られたもの。受け取るしかなかった私たちはただお礼しか言えなかった。



『食事に関してはご家族との兼ね合いもあるでしょうし、参考程度に。ただそちらの方にも記入していますが、とりあえず“食べない”という選択は絶対にしないでくださいね。年齢的に色々と外見を気になさるでしょうし、細い方が良いと考えるかもしれませんが……。人は動いたときにエネルギーがなければ死にます。ですので、三食必ず食べて、睡眠を取る事。そうすれば自然と体は出来てきます。こういうのは積み重ねですからね、一緒に頑張っていきましょう。』



その次に渡されたのが、トレーニングについての所。私たちの体力の増加に合わせて段階的に負荷というものを上げて行くものの様だったが……。どうやらアカリにとっては少し物足りないものだったようで、追加でやってもいいか、という質問が出ていた。


親友じゃなくても理解できる、アカリが憧れを持っているのが私たちの眼前にいる、エミさん。私たちがジュエルナイトである事は絶対に言えないけど、アカリ、いやルビーからすれば思いっきり拳骨を喰らった人だ。普通なら少し怯えそうなものだけど……。どうやら『とっても強くて優しい人』というカテゴライズがされたようで、すごくなついている。


正直、その質問をした時。おにぎりを口に入れたまま喋ってたから、またとんでもないお怒りが飛んでくるのかと思ったけど……。軽く窘められただけで終わって、とってもほっとした。いやまぁすごく気持ちは解るんだけどね?


このおにぎりただの塩むすびなはずなのに止まらないぐらい美味しいし、ソーセージもお味噌汁も……。特にこの卵焼き。どんな味が好みなのか解らないからって、しょっぱいのやあまいのやチーズが入っているのやら沢山の味が用意されている。しかもぜーんぶとても美味しい。朝からこんないい思いしてもいいのかな?



(とにかく。たぶん食べるのも作るのも好きな人。だからこそ食事中のマナーとかそう言うの、特に食材や作った人に対する敬意を忘れる様な事は絶対にしちゃいけない……! 気を付けなきゃ!)



まぁそんな感じで、アカリがしたトレーニングへの質問。返って来たのはこんな答えだった。



『理由は聞きませんが……、早く強くなりたい。その気持ちは理解できます。けれど過剰な無理は、体を壊すきっかけになる。そして過剰なトレーニングは肉体の成長を阻害します。短期的に見れば確かに強く成れるかもしれませんが……、すぐにどこかで崩れるでしょう。』



エミさんが紙に書いてくれた図。一気に高くなるがその後急激に下へと落ちるグラフと、緩やかだが先ほどよりも高くずっと伸びて行くグラフ。私たちがすべきものは、後者だと彼女は教えてくれた。……確かに私達は早く強くなりたい。けれどアカリが壊れる様な所は、見たくない。


それに、眼の前のこんな強い人が言っているのだ。説得力しかなかった。



『とまぁこんな感じですね。連絡先も交換していますし、いつでも連絡して頂ければ相談に乗ります。まぁ仕事の時は出られないこともあるので、電話でなくメッセージで頂ければ、と。それで本題なのですが……。週末に一度。この場所で私と戦闘訓練をしましょう。早い話、組手です。』


『組手……、ですか?』


『えぇ。私は一切手を出しません。ただ全力で攻撃してきてください。禁じ手もなしです。あぁもちろん、攻撃して怪我をしないように力は抜きますからね?』



そういう、エミさん。一瞬本当に大丈夫なのかな、と思ったけど、すぐに脳裏にあの光景。野球のクライナーがバットを振り落としても全くのノーダメージだったエミさんの姿を思い出し、変身していない私達じゃ逆にこっちが怪我してしまうことを理解する。……大丈夫? 私達怪我しない?



『えぇ、多少ですが消力もできますので。組手の中で適宜気を付けるべきこと、意識すべきことなども指摘していきます。戦いながら一緒に学んでいきましょうね?』



普段の冷たい顔をほんの少しだけ柔らかくし、笑いかけながらそう言ってくれたエミさん。何故かとんでもなく強い人だし、一体何の人なのか全く解らないけど、信用できる人だと言うことは、話していてすごく理解できた。だからこそ、一緒にする特訓も何とかなるって考えていたんだけど……。








(ッぅぅ!!!)


「はい、良く避けましたね。その調子です。」



眼前を通り過ぎる、“意志の攻撃”。エミさんは何もしていない。ただ突っ立っているだけ。けれど、私が後退しなければ直撃していたという攻撃が、私の鼻先を掠る。世界には一切影響は起きていない、けれど私が認識していた、“イメージ”。ほ、本当にこの人何者なの!


そう頭の中で叫びながらも、ともかく前に向かって攻撃を続ける。攻撃しなければ、またあのイメージが飛んでくる。アカリはその初撃を防御してしまい、5mくらい吹っ飛ばされていた。すぐに落下点に移動したエミさんが確保してくれたから怪我はなかったけど……。私がアレを喰らえば、一発で終わる。


だからこそ相手に攻撃させないように、叩き込み続ける。


永遠に続くと思われた組手、ついに私の体力が尽きてしまい、四方八方から飛んでくるイメージに対処できず。直撃するかと思ったその瞬間……。すべてが、掻き消える。



「……そろそろ、きつそうですね。一旦終わりにしましょうか、リッカさん。」


「は、はぃ。」


「っと、大丈夫ですか? さぁ息を整えて。」



エミさんの言葉と、終了を告げる柏手。それにより緊張が解け、膝に力が入らなくなってしまう。思わず倒れそうになってしまうが、その大きな腕に受け止められた。



「さて、アカリさん。二本目は……」


「む、むりれふ!」


「みたいですね。まぁ初日ですし、こんなものでしょう。今後は頑張って体力づくりをして、何回もできるようにしていきましょうね。……ではアカリさん同様、リッカさんの講評をしていきます。休憩しながらで大丈夫ですので、意識だけこちらに。」



そう言われながら手渡されたスポーツドリンクを喉に流し込む。運動でかいた汗よりも恐怖で出て来た冷や汗の方が多い気がするけど、とりあえずすっごく体に染み渡る。大半はエミさんのご飯だったけど、大量に氷やドリンクも持って来てくれている。本当に助かります……!



「まず総評としましては、アカリさん同様戦闘慣れしていますね。あまり危ないことはしてほしくありませんが、とっさの時に動けないよりも何倍もマシです。ま、それでも一撃喰らわせた後は即離脱するのが鉄則なのですが。」



逃げられない時がないわけではありませんからね、と続ける彼女。


アカリの講評の時にも言っていたが、危険に飛び込むことはしてほしくないが、対抗する力は必要だと言って、私たちにその術を教えてくれている。私たちは力を望む理由を聞かれても、上手く答えられないだろう。エミさんはそれを理解してくれているのか、その話題は一切出してこない。危ないことはしないでね、とは言われるけど。


すごく利用しているみたいで罪悪感を覚えるけど……、今はその優しさに甘えるしかない。



(私たちはアンコーポに狙われている。そして同時に、あの蜘蛛の化け物にも、だ。)



正体を教えてしまって、巻き込んでしまった時、どんな迷惑を掛けてしまうか解らない。全部を守れるぐらい強くなるまでは、ずっと秘密にしなきゃ。アカリと相談して、私たちはそう決めた。



「アカリさんはいわゆるパワータイプ。殴って頂いた感触から筋肉量と骨密度の高さが見受けられましたが……。リッカさんは平均的と言えるでしょう。ですが貴女だけの強みもある。それは速度と、考える力。ちゃんとソレを意識した戦い方が出来ていましたよ。」



そう言われ、つい拳を握り締めてしまう。


自分も、そのことは強く理解している。アカリのように力押しをしたり、相手の攻撃を耐える様なタフネスは私にはない。だからこそ速度を上げ、回避し、見えた隙に叩き込む。アカリが一撃をもって落とすのならば、私は数をもって落とす。それを目指していた。


それがちゃんと伝わっていたのは素直にうれしい。



「考える力、まぁ戦闘勘と言いましょうか。こちらはアカリさんも同様ですが、数を重ねて磨き上げていくしかありません。本来は同じ相手とばかりすると、変な癖が付くものですが……。まだ私は手を出していませんし、当分これを続ける形にしましょうか。」


「解りました。」


「さて、追加でアドバイスすることとしましては……。リッカさん、自分の手と足の長さ。これを意識しましょうか。」



手と足の長さ、ですか?



「えぇ。ヒット&アウェイの離れる時の動きを最小限に収め数を稼ぐその動きがとてもよく出来ています。ですがその小さく動くという意識が、攻撃にも出てしまっていますね。そのせいでしっかりとした“振り”が出来ていません。そうですね、例えば……。」



そう言いながらエミさんは飲み干したペットボトルを軽く上へと放り投げ……。ゆっくりとその腕を鞭のように振るう。肩のあたりは見えた、けれど指の先は全く視認できない。空気が弾けるような音がしたと思えば、私たちの前に縦に両断されたペットボトルが転がっていた。



「「ほ、ほわぁ。」」


「腕の長さを生かし遠心力をもって鞭のように動かす。本人の力以上の威力が見込めますし、威力も上々。ま、ご参考……。あれ、スマホの電源切り忘れましたかね?」



エミさんがそう話していると、どこかからスマホの様な振動音が聞こえてくる。周囲を見渡してみれば……、アカリがとんでもないレベルで振動してる! な、何があったの!? ……あ、なんだプルポが震えてるのね。


……震えてるってことはクライナー出現の合図じゃない!?


ほ、ほら! アカリ! なんか! なんか良い感じで言い訳! アカリが震えてたからその言い訳! 早く! エミさんにプルポのこと伝えたらジュエルナイトに繋がっちゃう可能性あるから、ぬいぐるみのストラップで通すってみんなで決めたでしょ! ほ、ほら早く!



「し、ししし、師匠! あ、ああの!」


「はい、急用ですか? もしかしてご家族からの呼び出しとか。」


「そう! そうです! リッカちゃんも一緒にって!」


「でしたら私のことは気にせず。あ、その前にこれを持って行ってください。水分補給は大事ですから。」



そう言って、スポーツドリンクを私たちに手渡してくれる彼女。



「すぐ! すぐ戻ってきますんで!」


「ちょっとだけ失礼します、エミさん!」


「急がなくて大丈夫ですからね~。」



























「さてと、行ったか。なら私も準備するとしますかね。」








ーーーーーーーーーーーーー





ネオ・デス博士

「我が最高傑作よ、お前食べ過ぎだと怒られておったぞ?」


クモ女

「うぐっ!? た、大変申し訳ございません。今度からちゃんと予約させて頂きます。後今からお詫びしに行ってきますね……。」






〇サルでも解る! ネオ・デス博士の怪人講座!(アンコーポ・下級戦闘員編)


はーはっはっ! ごきげんよう諸君! ネオ・デス博士である! 今日もサルに等しい貴様らの頭脳でも理解できるように“懇切丁寧”な説明をしてやろう! さて今回は小賢しい指摘を受けた故、アンコーポとやらの下級戦闘員! “ジューギョーイン”とやらについて解説してやろうではないか! ま、貴様らの様な者がこの人類史上最高の頭脳であるネオ・デス博士に意見したのだ! その勇気を称えてやろうではないか! はーはっはっ! では基本スペックと行こうか!


■身長:120.0~200.0cm

■体重:10.0~20.0kg

■パンチ力:0.5t

■キック力:1.0t

■ジャンプ力:3.0m(ひと跳び)

■走力:10.0秒(100m)

★必殺技:なし


……うむ。まぁ名前の通り下級戦闘員だな。私が所属していたデスカンパニーでは書類選考落ちのスペックしかない。大体10分の1程度か? だがどうやら負の精神エネルギーが存在する限りほぼ無限に増殖、そしてそのエネルギーが注ぎ込むことで一時的な強化も出来るようだな。確かに労働力としてはいいかもしれぬが……。戦闘員として考えれば下の下だろう。戦場では邪魔にしかならん。凡夫を万人集めようとも我が最高傑作であるクモ女には叶わないことから、数よりも質を取るべきなのは明白であろうに……。


特徴としては黒い作業服を着ている者がほとんどで、個体によってはヘルメットの様なものを支給されていることもあるようだな。だがまぁ使い捨ての下級戦闘員、耐久力もオマケ程度であり、一般人相手なら何とかなるだろうがそれ以外にはどうしようもないな。上級戦闘員もいるようだが、弱い。雑魚よ。


しかし精神エネルギーで構成されているといっても、質量があるのは確か。……そうだ我が最高傑作であるクモ女よ! お前の改造前から続くその食欲のせいでこの私が「燃費が悪い怪人を作った」などと批判されてしまったではないか! お前は基本フォームという条件はつくが3ヶ月無補給で活動できるのだそ! このジューギョーインとやらは無限に増えるのだ! ガム感覚で頭からぽりぽりと……。え、不味そうだから嫌? そ、そうか……。


で、ではな諸君! 次の講義まではもう少し真面な頭脳を手に入れておくがいい! さらばだ!



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