怪人クモ女VS魔法少女

サイリウム

第1クール

1:怪奇! クモ女!


数年前、とある秘密結社が一人の男によって崩壊した。


十数年前であれば『何のアニメ?』という話になっただろうが、今はもう現実になってしまっている。いつしか世界は、怪人や怪物、そしてそれを倒すヒーローたちで溢れるようになってしまった。



「まぁ溢れる、とまではいかないかもだけど。」



そういう秘密結社がマスコミ関連に手を伸ばしているのか、そう言った話題は不自然なほどに見ない。けれど繁華街などの裏路地に脚を踏み入れれば、確実に“そういうの”はいる。


フィクションが現実に叩き落されたのは、事実だ。


というか私がその一人で、被害者である。


ほんの少しだけ背を意識してみればゆっくりと背が縦に割れ、そこから2対の脚が伸びてくる。一本一本を自身の腕として、足として扱うことが出来る蜘蛛の脚。黄色と黒によって彩られたこれは、見た目以上の硬度と鋭利さを持っている。


少しぱっとトマトを空中に投げてみれば、一瞬にして液体と化すそれ。……少し切り過ぎたかしら?



「まぁスープに放り込めば何とかなる、かな?」



そう呟きながら、キッチンで一人寂しく料理を進めていく。


私の名は、九条恵美。またの名を“怪人クモ女”、識別コードは確かD-000だったかしら?


元は普通の人間だったんだけどね? 捕まって改造されちゃったのよ。さっき言ってた壊滅した秘密結社にね。


組織名は『デスカンパニー』、ふざけた名前だけど、超越した科学力と資金力を持っていて世界征服あと一歩の所までたどり着いたトンデモ組織。当時大学生だった私は、“非常に適性値が高い”と言うことで誘拐されてしまった。んで眼が覚めたら蜘蛛の怪人になっていた、ってこと。


それでね? 創作の世界じゃ蜘蛛モチーフの怪人って結構序盤に出てくる敵じゃない。それですぐに撃破されてヒーローの強さを解り易く伝える怪人、みたいな。けれど私はその逆で、あの組織によって最後に作られた最高傑作だった。ご丁寧に存在しないハズの0番コードも頂いてるし、私一体でそれまでの常識が全部塗り替えられる、ってレベルの傑作怪人だったそうだ。


何せヒーローとの戦いによって蓄積されたデータを全部つぎ込んで、世界征服一歩手前まで行ったその資金力と科学力、そして保有していた超貴重な素材を全部詰め込んで作り上げたのが私。私が目覚めたときは、開発チームらしき奴らが大歓声を上げ、視察に来ていた首領らしき奴が強く頷いていたのを覚えている。


私を作った博士みたいな人は『あの“ピレスジェット”が何千匹来ようともお前ならば一瞬で葬り去ってしまうだろう! さらにお前は! 成長する! そんなものを生み出してしまったこの頭脳! この才能! 恐ろしいィ! フハハハハハ!!!』って笑ってたし、相当な存在だったんだろうけど……。



(けどまぁ、結局一度も戦闘せずに組織崩壊しちゃったのよね……。)



もっと正確に言えば『よりお役に立つために能力を自身でも把握し習熟したい』って申請したら通って、近くにあった演習場で体や能力の使い方を一人で練習してたんだけど……。その時にちょうどヒーローさんが本拠地に突撃してきてね? 私以外虐殺されたというか、首領もやられたというか、本拠地ごと全部爆散した感じだから……。



「あれ間違ってたら完全にヒーローとバッタリ会って殺されてたでしょうねぇ、ほんと怖い。どんなにスペックが上でもよく解らない工夫と謎理論で負けるのがお約束だし。」



それまでは無意識に埋め込まれていた組織への忠誠心とかがあったんだけど、首領が爆散した衝撃でそれも失せ、完全な自意識を取り戻した私は速攻で保身に走った。何せこの肉体は性能だけはいい。蜘蛛が出来そうなことは何でも出来た、つまり糸を出すのも壁を上るのも超パワーも超感覚も何でもござれ。


あのクソ首領様が何か言い残したのか、私が訓練してた演習場にもあのヒーロー、“ピレスジェット”たちが建物を爆散させながら走って来たんだけど、その時の私は肉体を光学迷彩で隠し、呼吸も止め、体温も周囲に合わせ、思考も閉じることで何とか隠れきることが出来た。


明らかに“何か”を探していたし、多分見つかったら『こんどこそ最後の戦いだ! ゆくぞクモ女!』とか言われながら総攻撃を受けていたに違いない。



(いやほんと死ぬかと思ったわよ……、クソ怖かった……。)



まぁその後はヒーローたちが本拠地から去った後、崩壊した本拠地から使えそうなものとかを色々頂いて無事実家に帰還した、って感じ。あ、着いてた発信機とかは全部破壊してるんで大丈夫ですよ?



「もともと実家暮らしだったからどこ行ってたのかって滅茶苦茶両親に心配されたし、失踪届の取り下げとかもあって大変だったけど、まだ数か月程度だったから何とかなった。その後は大学の講義とか遅れ取り戻さないと! って意気込んだんだけど……。」



そう上手くはいかなかったんだよねぇ。


改造の後遺症というか、新しい肉体と上手く付き合えるようになるまで、結構な時間を要してしまった。


色々問題はあったんだけど、一番大きかったのは“クモ女”としての肉体。今は訓練のおかげで人の形を保つことが出来ているけど、昔はとんでもなく酷かった。何せ蜘蛛の特徴的なお腹がお尻あたりから飛び出てたし、足も今みたいに細いんじゃなくてもっと太い。口も牙みたいなの生えてたし、眼も気持ち悪い感じになってた。怪人蜘蛛女というよりも、もう蜘蛛! って体だったの。


勿論この体の機能として、蜘蛛の特徴を無理矢理体の内部に押し込んで、元の人間としての姿をとどめておくってのは不可能ではなかった。でも当時はどれだけ頑張っても一日3時間が限界。実家に帰って来たのはいいけれど、部屋から出られないという状況が続いた。



(何せ怪人としての肉体が通常状態になったようなもの、この人間形態は体を丸めてずっと体育座りしているような感じだったし、いつ失敗して形態が解けちゃって、バケモノになっちゃうか解らなかったから……。長期間の外出とか、絶対に不可能だった。)



というか親に『秘密結社に改造されてバケモノになっちゃいましたー!』なんて言えるわけないからマジで引きこもるしかなかった。バレたらマジでどうなるか解らんかったし、ほんと気を使ったよね。誰かの口から私の存在が露見してヒーローが討伐しにくる可能性だってあったわけだからさ。ほーんと怖かった。


とまぁそんなことになっちゃったわけで、実家に籠る生活が始まったわけだけど、幾ら失踪してたとしてもその生活には限界があったし、周囲の視線というか噂が変に広まってしまうという問題があった。つまりこの生活を長期間続けることは不可能だった、ということ。


幸いというか、私は改造されたことで肉体だけでなく、この頭脳も格段に強化されていた。人間形態の時間を延ばす訓練も自室で続けていたが、両親と生活する限りどこかで発覚する危険性も残っていた。早く自立して一人暮らし、それも一軒家でもないと不味い。そう考えた私はどうせ通えないと判断した大学を速攻で中退し、プログラミングを習得。そのまま自室で仕事を始めた。



(組織の遺産、私が持ち出した品々をある程度扱えるようになっておきたいっていう気持ちもあって始めたんだよね。ついでに機械工学とか生体化学とかも。)



そう言った考えもあって始めた仕事と勉強、大学は文系だったし、高校でやったことの復習からのスタートだったけど……、思ったよりも私にマッチしてたみたいでね? 怪人化の強化も相まってすっごく早く習得することが出来た。


しかも蜘蛛の脚は8本、すべての指で並列して作業を行うことが出来た私は半年も経たぬ間に組織の器具を十全に扱えるようになったし、同時にプログラムのお仕事も順調に推移。まぁ“蜘蛛の巣みたいに緻密なプログラム”って評価を頂いたときは身バレしたのかその背後関係を血眼で漁ったものだけど……。自立して生活できる程度に稼げるようになったのは、事実だ。



(その後は親を説得して地方に引っ越し、ある程度人里から離れた一軒家を借りて生活している。)



そんな私が越してきたのはとってもいいところ。


なんせ周辺にはこの家しかなく、数キロほど歩かないとお隣さんはいないという好立地。滅多に人は来ないからお庭で本来の姿を曝け出しても何も問題はない。……いやしないけどさ? それに、数年前まで住んでいたという元の持ち主が芸術家さんだったみたいで、お家を滅茶苦茶改造していらっしゃった。


常人じゃ住めないレベルになっていたからお値段が凄く安かったんだけど、私からすれば四方の壁も天井もただの床。だって蜘蛛だし。しかも地下室まであったわけだからさ、私のラボを作ったり仕事場を作ったり、巣を作ったりと色々出来たんだよねぇ。



「肉体の方は結局2年ぐらい掛かっちゃったけど……、この場所のおかげでようやく人間の姿で固定することが出来るようになった。その間にまぁ色々能力の拡張とか、強化形態みたいなのを手に入れちゃったのは確かだけど……。に、人間に近づいたことは確かだからヨシ!」


「キュル。」



そんな独り言を言っていると、後ろから蜘蛛にしか聞こえないであろう周波数で音が発せられる。振り返ってみれば私のペットであるアシダカグモが新聞を咥えて背後に立っていた。最初あったころは掌サイズだったけれど、今はもう大型犬ぐらいのサイズね。


ほんとは軍曹って呼ばれるぐらいの仕事人、害虫退治のハンターさんなはずなんだけど……。この子はちょっと不思議な子で、ゆっくりお散歩するのが大好きだったりする。今日も10kmぐらい離れたコンビニに侵入して新聞を勝手に貰って来たようだ。……お代ちゃんと置いてきた? ならよし。



「あぁ、ごめんねアーちゃん。ありがとう。今日もいつものでいい?」


「キュ。」


「え、私が食べてるの欲しいの? クモにトマトとか食べさせていいのかしら……。とりあえず味見してみる?」



そう言いながら先ほどまで作っていたトマトたっぷりなスープを飲ませてみるが、やはり蜘蛛のこの子には合わなかったようだ。私にしか解らないだろうが、とてつもなくしかめっ面をしていらっしゃる。はいはい、じゃあいつものペレットにしておきましょうね。


このアシダカグモのアーちゃんだが、私がこの家に初めて足を運んだ時に見つけたクモだ。家主が居なくなった家はどんどんと朽ち虫や動物も寄り付かなくなるという話だが、なぜか彼は飢餓状態でこの家の中にいたのだ。私はクモの怪人、人間でありたいとは思っているけど、蜘蛛でもある。彼に対してどうにかして助けてあげたいという気持ちを持ってしまった私は、なぜか自身の血を彼に与えてしまった。直感的にそれが正しいと思っちゃったんだけど、思い返せば正気じゃなかったよねぇ。



(それで血を飲ませてみれば……、超進化。サイズも大きくなったし、簡単な会話どころか貨幣の概念すらも理解しちゃっている。人間には聞こえない様な周波数で発せられる音で、毎日お話してくれるようになったし。一体私の血ってどうなっているのやら……。)



とまぁそんなわけで、この一軒家で私とアーちゃんは暮らしている。


何でも秘密結社達によって激戦区らしい都心、そこから離れた地方だから安心して暮らせるし、ある程度稼いだお金で両親に仕送りして違う場所にはなるけど同様に安全な地方に引っ越してもらっている。さらに崩壊した組織の本拠地から掘り起こした機材とかでざっと調べてみたが、この地域には“秘密結社”が求むような資源は発見できなかった。


つまり何も気にせず、秘密結社同士の抗争やヒーローとかを気にせず余生を過ごせるかなぁって思ってたんですけど……。



あ、はい。無理でした。



「ほんとにどうしようねぇ、アーちゃん。」


「キュウ?」



ヒーロー、いやヒロイン? そっちはまぁ変に言いふらすことはなさそうだったけど、秘密結社の方がなぁ。どう考えてもこの町にとって害でしかないし、部分的にだけど“怪人”としての私を見せてしまっている。もうその時点でアジト突き詰めてこの世から消し飛ばしておきたいんだけど……。



「世界観がそもそも違うとか聞いてないんですよ……。」






 ◇◆◇◆◇







私が“彼女たち”と出会ったのは、昨日のことだ。



「ふぅ、とりあえず契約は取れたね。」



この地、『ひかりが丘』に来た当初。まだデジタル化できていないところを見つけては営業をかけるという改造人間特有の無駄なスタミナを十全に使い、人間形態を保てる時間の限り走り回ったことで、幾つかの顧客を手に入れることは出来た。


そして今回その顧客からご紹介頂いたのが、今回の契約先だ。紹介してもらったところはもう何度もお仕事を依頼してもらってるお得意様だし、お話を聞いた感じかなりの大口契約。吹っ掛けられない限りは出来るだけなんでも受けるようにはするつもりで、お伺いさせてもらったんだけど……。



「デザインはからっきしなんだよな……。とりあえず幾つか作ってみて無理そうだったら他のとこ紹介してみる形にするしかないか。」



お願いされたのは、経験のある発注システムの構築とそれまで抱えていた30年分の書類のデータ化。これはまぁ一人で出来るレベル。だって私怪人だし、3カ月くらいなら寝ずにフルスペック発揮できるわけだから個人でも十二分に何とかなる。腕も追加で2対増やせる上に脚も使える。さらに頭も8つぐらいまでなら並列思考も可能。確かにしんどいが、絶対に納得いただける質の物をお届けできるはずだ。


でも問題だったのが、ホームページの作成だ。勿論、枠組みを作ることは出来る。でもアレは完全に“どう魅せるか”、つまりデザインの領域だ。一瞬『うちそういうのやってないんですよ』と言いそうになってしまったが、頼みこまれた上にかなり報酬を上乗せされちゃったらもうやるしかない。


他の仕事も同じようなものだろうが、私がやらせてもらってるお仕事はリピートして頂こうにもすっごく時間が掛かる。つまりお断りさせて頂くという選択肢が、ほとんどできない。



(だってこういうシステム、不具合出るまでずっと使い続けるわけだし……。)



文房具みたいに数か月で交換とはならず、数年。十数年となる。もちろん細かな処理などを合わせれば小金は稼げるが、今回の様な大口の契約はそう流れ込んでこない。専門外を投げられようが全力を尽くして契約を切られないようにするしかないのだ。


中抜きとか紹介料とかそういうのは取りたくないし、まだ都心にいたころの伝手がないわけではない。次回伺わせて頂いた時にサンプルがお気に召さないようであれば、そっちに仕事回すようにしよう。



「っし! でもまぁ契約取れたのは事実だし、ここから楽しい楽しいデスマーチ月間だ。今日ぐらいは贅沢しても怒られないだろうし、お祝いの食い溜めのために爆買いして帰ろっと。」



そう口ずさみながら、思考を切り替える。


元々食事は好きなタイプだったし、一人暮らしのせいか最近ちょっと料理に凝り出している。普段は食料品の配達サービスをお願いしているので、週一で届けてくれるものを少しずつ食べているのだが……。今日はチートデイだ。もう人目も気にせず大量に買い込んでやろう。


改造のせいか元の身長よりも伸びて今190ぐらいだし、この『ひかりが丘』の人たちからも『なんかデカくてたまにめっちゃ買い物してる女の人』って風に認知されてる。ほんとは牛数頭をそのままお腹に収められるレベルに食い溜めできるけど、流石に自重して人間の範疇に収めてるから大丈夫。何も問題はない。


そんなことを考えながら、この町の商店街『ひかり商店街』に足を運ぶ。昔ながらのお店が立ち並ぶ区画であり、ウチのお得意様が結構いる場所でもある。初めて買い物しに来た時に新顔ってことで話しかけられて、職業とか話してたらなんか普通にお仕事貰えたんだよね……。



(さてさて、今日のお買い得品は……。お、キャベツ安い。)


「おぉ、恵美ちゃん! 久しぶりだねぇ、今日はあの日かい?」


「えぇ、先ほど大口の契約を頂きましたので、少し羽目を外そうかと。システム周りに何か問題などありませんか?」



話しかけてくださったのは、商店街にある八百屋のご主人。ご高齢ながら奥様のお二人で店を切り盛りしていらっしゃる方です。新しい物好きということで以前お声がけいただき、更に商店街の皆様にも伝手を作って下さった大事なお客様でもあります。まぁ料金として結構な額を頂いたので、奥様にかなり絞られていらっしゃいましたが。



「いーや全然! 最初は戸惑ったけど慣れると便利でいいねぇ。っと、仕事しなきゃ婆さんに怒られちまうんだ。良かったらなんか買ってくれ!」


「えぇ、もちろん。そうですね……、まずそこのキャベツを20玉。それとそこの玉ねぎとトマトを5箱ずつお願いします。あ、それとまたいつものリンゴをお願いできますか? 3箱で。」


「あ、相変わらず業者みたいに頼むね。そらそれだけ食えばデカくなるわけ……」



これでも抑えてるんですよ、言いそうになった言葉を飲み込みながら、他に何か必要そうな物がないか物色しようと野菜たちに視線を送った瞬間。


“揺らぎ”を感じる。


これは、危機感知の予兆……。



瞬間、私たちの鼓膜を震わす爆音。商店街の中央で土煙が立ち上り、舗装のため地面に埋められていたレンガが破損し、周囲へと破散する。そしてその破片の一つが、ご主人の頭に。



「ッ! ……あ、あれ?」


「大丈夫ですか、ご主人?」


「あ、あぁ……。え、恵美ちゃん! その手!」



? あぁお気になさらず。“鍛えています”ので、この程度でケガするほど軟ではありませんよ。


そう言いながらご主人に笑みを向け、レンガを握りつぶしながら思考を高速化させる。


未だ土煙が晴れていない以上アレが“誰”であるか把握できない。けれどこの時代にわざわざあんな土煙を立てて暴れる、もしくは戦闘を行うなどもう“そういうの”でしかない。空から降ってきたような感じがしたし、周辺の住民が怪我をするような行為をしたと言うことはどこかの組織に属する怪人か、その怪人に吹き飛ばされたヒーローのどちらか。



(すでにこの時点で、私を殺しに来る可能性があった“ピレスジェット”やその仲間たちである可能性は消える。あのヒーローたちは無駄に熟練だった。周囲に被害を出す様な戦い方はしない。)



となると私の知らない秘密結社と、私の知らないヒーローが戦っている。もしくは戦う前と言うことになるのだが……。場所が悪すぎる。これがまだ夜だったり、人気の少ない場所であれば人知れず対処することも出来ただろうに、商店街という人目が多い場所で暴れられるとなると、戦えば正体が露見する可能性が出てきてしまう。


一応今の形態、人間として出せる限界ギリギリの出力に落としている今の形態で戦うことも出来るけど……。


そう考えていると、この場所に飛び込んできた下手人。その手によって、巻き上げられていた土煙が払われる。


その中から出て来たのは……。



「……は?」



私達怪人の様な化け物然とした存在ではなく……、ポップでキュート。まるで女児向けアニメに出てくるようなぬいぐるみモチーフの化け物が、そこにいた。


……せ、世界観間違ってないです!?








ーーーーーーーーーーーーー





〇サルでも解る! ネオ・デス博士の怪人講座!(怪人クモ女編)


はーはっはっ! ごきげんよう諸君! あの憎き“ピレスジェット”に組織を破壊されてしまったが、この私の類まれなる頭脳によって復活を遂げたデス博士! いや、ネオ・デス博士である! 今日はサルに等しい貴様らの頭脳でも理解できるように“懇切丁寧”な説明をしてやろう!

さて、初回は……。おぉ、クモ女か! ふふふ、我が最高傑作ではないか! では基本スペックからいこうか!


■身長(人間形態):190.5cm

■体高(怪人形態):240.8㎝

■体重:300.0kg

■パンチ力:120.1t

■キック力:275.3t

■ジャンプ力:321.4m(ひと跳び)

■走力:0.2秒(100m)

★必殺技:スパイラルエンド


とまぁこんな感じだな! これは正確なデータではあるが、実は首領に報告し登録したデータはこれよりも低く設定されている。なぜかって? 簡単な話よ! 何せあのプライドの高い首領よりも良く出来てしまったからな! 奴の癇癪で破壊されぬように“下回った”数値で報告したのよ。ま、ソレでは奴の満足は引き出せなかっただろうからな。『いずれ成長し、超える』とだけは言ったが。無論、成長することは事実だしな。


この“クモ女”確かにスペックは高い。けれど特筆すべきはその能力よ。あらとあらゆるクモの遺伝子を組みこんだ奴は、糸を体の指定した位置から射出するのはもちろん、壁に貼り着いたり、体内で毒を生成したり、周囲に擬態したり、高出力の電気を生み出すことも出来る! そしてその私に一歩劣るがその素晴らしき頭脳で学び、力の使い方を編み出し、そして“成長”していくのだ!


……まぁ本人がその全容を把握しきっていないのが謎だが。伝達ミスか?


まぁいい話を戻そう。


勿論、“ピレスジェット”対策も万全! 奴の攻撃は多岐に渡るが、その基本は2つ、私が作り上げた怪人の肉体を分解する“毒素”と、生命である限り逃れられん“呼吸”の破壊よ。この対策には私も頭を悩ませたものだが、このクモ女には、完全な耐性を獲得させてある! 故に何があろうと万全よ!!!


……む? この私に質問? 良いだろう。


ふむ……、ほう。良い疑問を持つ者もいるではないか! 確かに私が生み出した“対ピレスジェット対策”は首領にも施している。けれどその首領が負け一度デスカンパニーが崩壊したことを考えれば、あの憎きピレスジェットが私の対策を上回ったのは事実よ。


だがな、このクモ女は“成長する”のだよ。


我が最高傑作であるクモ女には、一部クマムシの遺伝子を入れてあるのだ。そう、乾眠状態では半永久的に生き続ける奴の遺伝子をな? もちろん、“常に乾眠状態を保つ”ようにしてある。十全なスペックを叩き出しながら乾眠状態を保たせるのは苦労したものだが……。つまり、あのクモ女は半永久的に生き続けるのだ。


奴には首領が撃破された時、我が対策を上回ったのであろう奴の毒素の情報がインプットされるように設計している! まぁその過程で何故か元の自我が戻ったようだが……、関係はない! 我が最高傑作が生存し! ピレスジェットを超える存在へと成長し続けていることは事実だからな! はーはっはっ!!!


ではな諸君! 次の講義まではもう少し真面な頭脳を手に入れておくがいい! さらばだ!

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