劇場版『映画ジュエルナイト わくわく海と黄色いドラゴン』
41:これでもちゃんとした進学校
聖ブリリアント学園。ジュエルナイトであるアカリたちが通うこの中学校では終業式が行われようとしていた。何せ期末テストも終わり、その返却作業も行われた直後。喜ぶ者や悲しむ者、安堵する者が次々と体育館へと入っていく。この学園における夏休み前の風物詩がそこにあった。
ちなみにテストの結果は、
生徒会長ことユアエメラルド。勉強にも気を抜かないお嬢様、玄武ユイナが3年のトップ。
長期間休学していたとはいえ“蜘蛛”による英才教育を受けたため普通に高校範囲まで手を伸ばしていたダークパール。ケアレスミスで失点したとはいえほぼ満点な白虎ヒマは2年の一桁台に。
頭の回転が早く勉強にも気を抜かなかった上に、“九条恵美”から適宜特訓だけではなく勉強の指導を受けていたユアダイヤモンドこと青龍リッカも、ヒマ同様1年の一桁台に。
そして肝心の朱雀アカリだが……。
「50位! あ、危なかった……!」
「奨学金の基準、ギリギリね……。ほんと一安心。」
色々と怖すぎて先ほどまで成績表の紙を開けられなかったアカリだったが、親友のリッカや仲の良いクラスメイト達が見守る中、勇気を出して開いたそこに書かれていたのは50位という数字。さっきまで冷や汗ダラダラだったアカリは膝から崩れ落ちながら両腕を天に掲げているし、リッカは心から安堵している。クラスメイト達も大喜びだ。
この学園では、理事長がちょっと変と言うかノリで生きているというか傍から見れば楽しいけど一緒の空間にはあまり居たくないと言うことで有名なのだが、学校施設の綺麗さや制度などを非常に充実させている存在でもある。アカリは、その中の制度の一つである『学費免除』の制度を利用していた。
各担任もしくは本人から理事長へと申請を出し、幾つかの前提条件と『達成すべき項目』を無事に完了することでその学期やその年の学費などが免除されるものだ。まぁ理事長が子供大好きというか、生徒大好きな人なので他の学校などと比べるとかなり甘い条件なのだが。無事アカリは突破した。
「来学期も一緒にいられるよ~! リッカぁぁぁ!!!」
「ほんと、ほんと良かったわ。先週泣きつかれた時はどうしようかと……。」
ちなみにアカリが理事長から提示された条件は、『期末テストで50位以上の点数を取る事』『部活動を頑張ること』『課外活動で成果を上げること』。この3つの中のどれかを達成する、というものだった。ちなみに部活動と課外活動だが、かなり甘い基準で見られるため、理事長に紹介してもらった先輩、過去に同様の制度を利用していた人から『こういうのしておけば大丈夫だよ~』と教えて貰っていたのだが……。
アカリはアカリで、ジュエルナイトとしての活動がある。部活動はそうそうできないし、課外活動であるジュエルナイトとしての活動は申請出来るわけがない。故に勉強で頑張るしかなかったのだ。
けれどあのクラフトとの戦いの後、テスト前期間中に発覚したアカリの学力問題。
ヒマやユイナが持っていた過去の期末テストの問題を解いてみた所、赤点豊作と言うとんでもない結果が待っていたのだ。リッカは泡を吹いて倒れそうになったし、監視していた故に事情を知っていた“九条恵美”も一瞬裏から不正しようか迷ってしまうほどの出来栄えだった。
まぁジュエルナイトとしての活動に、日々の特訓。そして途中からヒマ先輩の捜索をしていた彼女に勉強する時間が無かったのは仕方のないことだが……。結構な回数師匠から『そろそろお勉強に力を入れてくださいね?』と言われていたのに『まぁ何とかなるか!』と思って後回しにしていた故の結果である。
「ほんと! ほんとリッカちゃんたちと師匠のおかげだよぉ~!」
「はいはい、解ったから。体揺らさないで。今度からは次からもっと早く言ってよね。」
というわけで始まった勉強強化合宿、生徒会長のユイナや結局週の半分以上“蜘蛛”の所に行っているらしいヒマも招き、師匠が全力で勉強の指導を行うことに。過去問からの傾向と対策や、師匠こと“九条恵美”が大人の視点から出題されそうな部分をピックアップして提示したりと、出来る限りのことを行った。そしてその結果はちゃんと成績と言う形で出力されたというわけである。
なお師匠こと怪人クモ女は学園のデータベースに自由に侵入出来るため、採点が終わった直後に順位を知り、一人自室で胸を撫でおろしていた。今日はジュエルナイトたちの勉強お疲れ様会として大量の料理を持ち込む予定のため、朝から厨房で大忙しである。(なお9割は自分の)
「おい、そこー! 嬉しいのは解るがそろそろ始まるから静かにー! あとちゃんと並びなさーい!」
「「「はーい!!!」」」
担任の先生に怒られ、謝りながら元に戻って行くクラスメイト達。なおアカリとリッカであるが苗字が50音順で近いためこのまま一緒にという感じである。他学年の生徒たちも集まってきており、そろそろ終業式が始まるという所で、2人は体育座りをしながら小声で話し始める。
「んふー! これで夏休み遊びまくれる~!」
「はいはい。でも去年みたいに前日に宿題写させて、とかはもうやらないからね。」
「解ってるって! もう中学生だもん! 自分で頑張るよ!」
そう言いながら話していると、全校生徒が集まったようで体育館の端にマイクスタンドが立てられ、そこに教頭先生が歩き始めている。それを察した二人はすぐに口を閉じ、終業式が始まるのを今か今かと待っていた。普段こんな集まりは憂鬱でしかないのだが、これが終われば夏休み。魅力的な自由時間の前にそんな憂鬱吹き飛ばされるのに決まっているのだった。
マイクの電源が入れられ、明らかに誰が見てもズラな教頭がチェックを行う。
「これより、終業式を始めます。まずは理事長兼校長先生のお話です。」
彼がそう言うと、教師たちが並ぶ橋から一人のスーツ姿の女性が出てくる。金髪の長髪で一房だけ水色になっている。一瞬外国人かと思ってしまうような人だが、純粋な日本人というちょっと不思議な理事長先生である。そんな彼女は壇上へと上がり、ゆっくりと話し始めた。
「はいはーい! みんな大好き理事長兼校長先生のアナタちゃんだよ! みんな期末テストはどうだったかな? 良くても悪くてもとりあえず今は気にせず前を向くこと! なんで良かったのか、悪かったかのか。その原因をしっかり自分で考えて次に回してくださいねー!」
教頭先生は厳かで静かに式を始めようとしたが、理事長はそんなもの気にしない。マイクなど使わずよく通る声で楽しそうに言葉を紡いでいく。
生徒と教師の関係でなく、友人や先輩の様に話しかけていく彼女。これだけ見れば良さそうな先生。合わない人もいるだろうが、一定の理解を得る良い教育者の様に見るのだろうが……。
彼女の話が終わろうという雰囲気が出た瞬間、彼女の悪癖が露見する。
「と言うことで明日から夏休み。……の! はずでしたが!!!」
「「「!?」」」
「先生がみんなともっと遊びたいので! 一学期を続行します!!! うぇへへへ! お前らの夏休みアナタちゃんが全部貰っちゃうもんねぇ!!!!!」
教壇を蹴り飛ばし、舞台裏へ。どこかのCMで見たようなことを言い始めた理事長。この学園の最高責任者は彼女、つまりその決定は確定事項。この瞬間、生徒及び教師のお休みは全て吹き飛んだ。
けれど、そんなことに成れば反発が起きるのは必至。とある社会教師が声を上げる。
「も、もう我慢ならん! あの悪逆非道の理事長を打ち倒すのだ! 革命! 革命! レボリューションッ!」
「や、山本先生に続けぇぇぇ!!!」
「私達も行くぞ! ひかりが丘銃剣道同好会、ファイヤー!」
「「「ファイヤー!!!」」」
「あははは!!! アナタちゃんは退かぬ! 媚びぬ! 顧みぬ! どこからでもかかってくるといい!!!」
どこからか山本先生が銃剣道用の木銃を取り出し、それに続く生徒たちが突撃を敢行。いつの間にか2年3年の先輩たちがそれぞれの武器を取り出し、理事長先生に攻撃を仕掛けている。勿論玄武ユイナも陣頭指揮を執りながら攻撃の指示を出しているし、白虎ヒマもいそいそと道着を取り出して着込み始めていた。
理事長に突撃し、吹き飛ばされていく教師や生徒たち。体操部の子たちがそれをクッションで受け止め、美術部が何故か自分の書いた絵を理事長に見せ買わせることで財布にダメージを与えようとしている。夏休みを掛けた闘争が、そこにあったのだ……。
まぁ、こんなカオス初めて見た1年生はまるっきり置いて行かれてしまっているが。
「え、は? ナニコレ? り、リッカちゃん???」
「わ、私に聞かれても解らないわよ……! というかあの理事長、結構強い? さすがに師匠よりは弱いと思うけど、アレもしかしたらじいやさんより上……???」
その様子を見かねたのか、大混乱真っただ中な二人に近づいてくるヒマ。どうやら3年生がメイン火力を担い、2年生がそのサポートと1年への説明を行うようで、何人かの2年生が補助に向かっている。どうやらヒマもその一人の様だ。
「どう、びっくりした?」
「「すごく。というか何が起こってるんです?」」
「ウチの長期休暇前の風物詩。夏休みかけて理事長先生と勝負するの。あ、基本的に先生負けてくれるけど気合が入ってないって判断されたら普通に全部授業日になるからガチでやろうね。」
「「?????」」
なんでもない様にいうヒマ。どうやらこの学園では長期休暇前に行われる“いつものこと”らしいが生徒が吹き飛んだりするこの現状が普通とはとても思えない。一応大きな怪我をしないように理事長は手加減しているし、各先生方も色々用意しているようだが……。どう考えても異常である。
「あ、あはは。まぁね。……最初はなんか『夏休みだったらどこかに旅行いくだろうし、身を守る方法を覚えるのは大事っしょ!』で防犯とか自衛のための講習があったみたいだけど、実戦に伴わないってことで廃止されてこうなったんだって。というわけでボクも行って来るね~。」
「「いってらっしゃいです……。」」
竹刀片手に意気揚々と殴り込みに行っているヒマ先輩を見送る二人。
いつの間にか強化チタン合金の盾を持ち出したユイナ先輩も理事長と戦っており、そこにヒマ先輩が参加した形だが……。理事長は何でもないようにその攻撃を受け流し、財布にダメージを与えようとしている美術部に向かって謎の値切りを行っていた。しかし生徒の作品にケチ付けるのかー! という美術部顧問からの野次を喰らい、提示された値段で買い取ることに成った模様である。
「……と、とりあえず私達もいく?」
「い、いったほうがいい……、んだよね?」
そんなわけでまだ全然理解はできないが、理事長先生に向かって殴りこむことに決めた二人。高速で事情を理解し、理事長たちに野次を飛ばしたり玉入れとかで使う布の塊を投げつけたりしていたクラスメイト達の声援を一身に受けながら戦いへと身を投じたのであった……。
なお今年の決まり手は、美術部の1年が自分の処女作を『私これからビッグになるんです! だから言い値で買ってください! いや買え! あと夏休み返せ!』と言いながら売りつけたこと。お財布どころか口座も爆散してしまった理事長が敗北を認め、夏休みが返ってくることと相成った。
ちなみにこれを監視していたクモ女は意味が解らな過ぎて白目を剥いていたという。
◇◆◇◆◇
「ふぅ。今年も何とか切り抜けられてよかったですね。春休みはもう卒業するのでヒマさんたち2年生に任せますが、冬休みも無事に手に入れたいものです。」
「ですねー。にしても今回長めでしたよね。やっぱり二人がいたからかな?」
「でしょうね。理事長風に言うならば、“活きのいい生徒”が増えたわけですから。見極めたいのでしょう。」
終業式も終わり、生徒会応接室。実質的なジュエルナイトたちの休憩室となったこの部屋ではユイナとヒマが言葉を交わしていた。若干の疲労は見えるが元々の体力とあらかじめあの行事が起きると知っていたことが大きいのだろう。優雅にお茶を楽しむお嬢様に、丁寧に菓子を口に運んでいく蜘蛛の愛し子。
対してアカリとリッカは、疲労のせいか柔らかなソファに項垂れてしまっていた。体の熱が抜けきっていないようで、クーラーが効いている部屋というのにじいやさんに団扇で風を送ってもらっていた。
「普通に吹き飛ばされたし。つ、疲れた……。」
「り、理事長。あんなに強かったんですね。」
「まぁエミさんの様な規格外な方がいるのです。私たちが思いもよらない力を持つ方も多くいるのでしょう。“自分たちの想像を超える存在がいる”とあらかじめ理解していれば、すぐに動ける可能性も増しますしね。」
そう言いながらしんどくても何か口に入れた方が良いですよ、と伝えるユイナ。
彼女の指示に従い、じいやが用意したらしい洋菓子をほんの少しだけ口にした二人だったが……。すぐに顔色が良くなりパクパクとどんどん口へと運んでいく。やはり甘いものは正義、なのだろう。幾分か疲労も軽減したかのように見受けられる。
「さて、夏休みと言うことですが皆さんご予定などございますか? いくらエミさんが『当分相手の侵攻計画は中止されると思う』と仰っていましたが、警戒を緩めてしまうのはあまりよくないと思われます。」
淡々と言葉を紡いでいくユイナ。実際の戦闘ではアカリがリーダーとして動くと決まっているのだが、それ以外のこととなるとやはり最年長であるユイナが仕切る事となっている。今回の議題としては夏休みの過ごし方、どうやってジュエルナイトの活動と夏休みを両立させるか、ということなのだろう。
「エミさんに正体がバレて巻き込むことに成っちゃったのは申し訳ないですが……。やっぱり私達よりも強い人がサポートしてくれる、ってのは凄い安心感がありますよね。」
「まぁあんなの見ちゃったら師匠一人でいいんじゃないかって思っちゃうけど、やっぱり浄化技。助けてあげられるのは私達だけだから……。やっぱり旅行とか遠くへのお出かけはしない方が良いのかぁ。」
一瞬だけアカリの方を見ながら言うリッカに。それにちょっとだけ申し訳なさそうにしながら、切り替えて『当分どこにも行けなさそうだなぁ』と考えるアカリ。
何せ相手は悪の秘密結社だ。こちらの都合など考えてくれるはずがない。今年はまだ我慢できそうだが、来年も再来年も同じ感じだと……、流石に我慢できそうにない。ため息をついてしまうアカリだったが、何かを思い出しヒマの方を向く。
「あ、そう言えばヒマ先輩。“蜘蛛”さんの方はどうなんですか?」
「ん? あぁあの人かい?」
紅茶を口に運ぼうとしていたところに声を掛けられ、ちょっとびっくりする彼女。
ヒマは先の戦闘により母親との関係性の再構築を開始することに成功している。母親の方の浄化技によって幾分か回復できたが、やはりまだ不安定なところもある。そのため週に何度か“蜘蛛”の下を訪れ保護を受けているのだ。最初はヒマが『“蜘蛛”さんに改造されちゃったかも……!』と思っていたが、ヒマからの話を聞いていると『めっちゃお母さんしてる……!』となりそのあたりの疑問や確執は全て解消されているのだ。
「確か……【幼子は遊ぶものです。厄介なものはこの“蜘蛛”が消し飛ばして置いてあげましょう。ふふ、にしても仲直り出来て良かったですねぇ。愛い愛い。……あぁ小遣いが要りますね。持って行きなさい】って言われてこれ持たされた。」
「紙幣の様ですが……、じいや?」
「一万円の旧々札の様ですね。多少驚かれるでしょうが問題なく使用できるかと。必要でありましたら新しいモノへとこちらで置き換えておきますがいかがいたしましょうか?」
なんかレアものそうだし、取っておくというヒマ。
まぁ早い話、別に遊びに行っても良い上に、九条恵美だけでなく“蜘蛛”もそのあたりのサポートをしてくれるようだった。流石に頼り過ぎてはいけないが、この町にジュエルナイトを何人か残し、それ以外が日帰りの旅行をする。その程度なら大丈夫かな、と思い始める彼女たち。
それを聞いたユイナは、少し考えこんだ後。じいやにとあるものを取ってくるように頼みながら、一つの提案をする。
「事前にエミさん、そして“蜘蛛”さんの両者に確認を取っておく必要があるとは思うのですが。全員で少しバカンスへと行くのはどうでしょうか? 実は少々良いものが手に入りまして……。」
じいやが持ってきた封筒を受け取る彼女。その中に入っていたのは、4枚のチケット。
「会長、それは?」
「リゾート施設『イエローアイランド』のチケットです。株主優待の品ですね。実は父が投資していたようで、学友と行ってみればどうかと譲っていただきました。」
「「「イエローアイランド?」」」
太平洋側の海に立てられた一大レジャー施設。マリンスポーツはもちろん巨大遊園地や素敵なホテルまで、夏を最大限楽しめると豪語している場所。勿論それ以外の季節も楽しめるが、やはり一押しは海開きがされているこの夏の季節なのだろう。いつの間にかじいやによって配られたパンフレットには、いくつもの楽しそうなアトラクションが描かれていた。
「貸し切り出来る砂浜やジムの設備もあるようでして、遊ぶだけでなく特訓などもここで出来るのかな、と。私はまだまだですが、結構な戦いがあった後ですしやはり休息は必須。少しぐらいバカンスを楽しんだとしても罰は当たらないでしょう。」
「おぉ~! すごい!」
「……会長、でもここ。結構遠いんじゃ。」
「ご安心を。近くに空港があるでしょう? プライベートジェットを回せばすぐに帰って来れます。確かにひかりが丘には空港がありませんが、最悪空からスカイダイビングして現着、と言うのも今の私達なら出来るでしょう?」
「「「た、確かに……!」」」
ジェット機を使っても数十分程度の時間がかかってしまうが、その場に“蜘蛛”か“九条恵美”がいればそれぐらいどうとでもなってしまうと考える彼女たち。実際味方よりも敵の心配をしなければいけない程強いのが、あの存在たちだ。すぐに大丈夫そうか聞いてみようとなり、アカリが師匠に。ヒマが“蜘蛛”に電話を掛ける。
「……あれ、“蜘蛛”さん出ないな。ママもビルじゃなくて家にいるのかな?」
「あ! 師匠ー! ちょっと時間良いですか!?」
『はい、大丈夫ですよ。どうかしましたか?』
“蜘蛛”の仮面に内臓されている電話機能と、九条恵美が使用しているスマホに同時に電話がかかってきたためとんでもなく慌てたクモ女。『色々バレるから一緒はだめぇ!』と胸中で叫んでいたようだが、声には一切出さない。また同時に監視で全て理解していたとしても、何かあったのかと聞き返す彼女。
アカリは何の疑問も抱かず、先ほどの内容を話し始めた。
『あぁ、なるほど。勿論大丈夫ですよ。同行でも留守でもお任せを。では今からそちらで出来るトレーニングメニューを作っておきますね。』
「ほんとですか! ありがとうございます!!!」
『では失礼しますね?』
電話が切れ、良い言葉が聞けたと嬉しそうな顔をしながらエミからの言葉をそのまま伝えるアカリ。それを聞いていた彼女たちだったが、今度はヒマのスマホが鳴る。どうやら“蜘蛛”からの折り返し電話の様だ。
【あぁ幼子、少し手が離せなくて。何かあったのですか?】
「あ! “蜘蛛”さん! 実はですね……。」
【なるほどなるほど。良いではないですか。でしたら前に言っていたあの戦士に指導を頼めばよいでしょう。たまには他の者に教えを乞うというのも必要ですからねぇ。何、あの不埒者たちは“蜘蛛”に任せ楽しんできなさい。】
そういう“蜘蛛”に礼を言いヒマ。友人との関係性が修復出来たことにより、ヒマは“蜘蛛”に“九条恵美”の話を何度かしている。聞いている本人からすれば居心地が悪い以外の何物でもなかっただろうが、“蜘蛛”はその存在を『非常に出来る戦士、人でありながらそこまで積み重ねたのは素直に称賛しましょう』とコメントし、自身の指導も良いが同じ人間から指導を受けるのも良いだろう、とコメントしていた。
「つまり纏めると……、エミさんが私達の引率として同行。“蜘蛛”さんがこの町に残り、何かあった時に呼び出してくださる、という形で大丈夫ですか?」
「ヒマ先輩。あの人、というか“蜘蛛”さん。たぶん私達と根本的な常識違うと思うんで、ちゃんと言っておいてくださいね?」
「あぁ、うん。了解。」
「あ! じゃあ師匠にもっかい電話しなきゃ! 師匠、師匠~!」
と言うことでジュエルナイト、海に行きます。
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〇サルでも解る! ネオ・デス博士の怪人講座!(デスカンパニー製怪人・フナムシ編)
はーはっはっ! ごきげんよう諸君! ネオ・デス博士である! 今日もサルに等しい貴様らの頭脳でも理解できるように“懇切丁寧”な説明をしてやろう! にしても、バカンスか。良いではないか。やはり良い仕事を熟すには良い休息が必要とよく言うからな。だから我が最高傑作であるクモ女よ、暴力はいかんぞ暴力は。お陰様で上半身と下半身が分離して、自分の足裏を見るという珍しい経験をしてしまったではないか。まぁ元に戻せるとは言え、最初が言語を持って……。ん? 言葉を使ってもお前言うこと聞かないだろ? うむ、確かにな。
よ、よし! では今回は海をテーマにフナムシの怪人について解説してやろうではないか! 早速基本スペックだ!
■身長:172.1cm
■体重:65.5kg
■パンチ力:11.2t
■キック力:39.9t
■ジャンプ力:6.4m(ひと跳び)
■走力:0.8秒(100m)
★必殺技:なし
この怪人はいわゆる速度に特化した存在だな。更に少々足の部分に特異な仕掛けを施しているため、どんな場所でもこの速度を発揮することが出来るのよ。やろうと思えば崖のぼりもこの速度で出来るため戦う場所さえこちらで用意してしまえば低い基礎スペックを上手く扱うことが出来る、という寸法だな。
あまり成功したとは言い難いが、武器や地形を上手く使えば勝ちを拾える。こういう怪人もたまには良い、昔はそう考えていたのだが……。やはりピレスジェット相手には小手先の技術など通用せん。こいつもあっさりと負けてしまったのよ。せっかく全身のいたるところに高周波ブレードを装着させ体当たりしただけで全身が細切れになるよう再調整してやったというのに……。まぁ良い! この私は最高傑作であるクモ女が今の極まったピレスジェットを正面から打ち倒し、真の最強の座につく。それが見れれば十分故な! はーはっは!!!
ではな諸君! 次の講義まではもう少し真面な頭脳を手に入れておくがいい! さらばだ!
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