A級冒険者の集い

火龍討伐後の食事会の最中、アイテム屋のルウィンは疲れ切ってしまったテナを連れて早々に帰った。まるで何かに怯えるように、そそくさとその場を後にしたのである。


残されたミリア、ウォロク、キャルは、食事を続けていた。


ミリアは「キャル、あんたのせいでルウィンたちが帰ったじゃない」などと言っていたが、キャルは「そんなわけないよー♪」と全く気にしてなかった。


「はあ……あんたを怖がるテナの気持ちが分かるわ。あたしだって、あんたみたいな自殺志願者が来た時は絶望したわよ」


「のっほっほ! わしもー!」


「アタシはミリアに会えてとっても嬉しかったー♪」


「……わしは?」


キャルはウォロクには応えず、「それにー、アタシがいたから龍を倒せたんだし?」と言いながら骨付き肉をかじる。


そんなキャルを、ミリアは鋭く睨みつけた。


「あたしはあんたがルウィンたちにしたこと、許してないんだからね」


「こわーい♪」


「下級冒険者を龍討伐に無理やり巻き込むって……本当に、あんたはA級の恥よ」


「……聞き捨てならないなー」


キャルは双剣を抜いた。

ウォロクが「おいおい」と心配するが、止まる気配がなかった。


「あんた、それは遊びの道具じゃないのよ」


そう言うミリアも臨戦態勢に入っている。


と、キャルは急に剣を片方ずつ上下させ始めた。


「こっちがルウィンでー、こっちがテナ♪」


キャルは剣をルウィンとテナに見立てて嬉しそうに笑う。


「ルウィンとテナが言ったんだよ?







 『龍゛殺しに行くぞぉぉぉッ!!』

 『に゛ゃあああああぁぁぁッ!!』


 ……って! だから、無理やり巻き込んだんじゃないよー♪」


キャルによる迫真のものまねに、ミリアたちは唖然とした。


「遊びの道具じゃないって言ってんでしょうが……」


ミリアの怒りもすっかりがれてしまったのである。


「のっほっほ。『言った』というか、『言わされた』んじゃないかの?」


そんなやり取りをしていると、流石に周囲の目を引いてしまうのだろう。なんだなんだと視線が集まり始める。


そうなると、楽しそうなことに目がない女騎士が現れるのも時間の問題だった。


「なんだ今の悲鳴のような龍退治宣言は! 私もまぜろ!」


がちゃがちゃと音を鳴らしながら、フルアーマーを傷だらけにしたネリスが歩いてくる。顔まで覆っているため、傍目には誰か分からないだろう。


ネリスはテーブルに座るA級冒険者たち三人を見下ろした。


「ん? なんだ、ミリア……とキャルか――」


そう言った後、ネリスはウォロクの顔を見る。それから、彼が背負っている巨大なハンマーに視線を移した。


「――おお! ウォロク!」


「いや遅いのう!?」


「あっはっは! なにぶんフルアーマーだと視界が悪くてな! すまない!」


「いや絶対分かるじゃろ」


笑い声を兜の中で響かせながら、ネリスはミリアがそっと用意した椅子に座る。


「ありがとう、ミリア」

「別に。お疲れ」


ネリスは兜を脱ぐと、乱れた髪を整えて後ろに流した。


「さてと……おもしろそうな話をしているじゃないか。私もまぜてくれよ――」



「――あーっはっはっは!! 大変だったな!!」


ネリスはミリアから事の一部始終を聞いて大いに笑った。


「ほんと、大変だったんだから。こいつのせいで」


ミリアがあごをくいと動かす。


「ねー、ウォロクのせいでー」

「えぇ、わしぃ?」


ミリアは訂正するのも面倒になったのか、そのままネリスに話しかけた。


「あんたの方は大丈夫だった?」


「ああ、大きな問題はなかった。いや待て、鎧の中が非常に蒸れるという大問題は常にあったぞ?」


「あはは、お疲れ様」


二人の会話の外から、ウォロクが「訂正しろー」、キャルが「そうだそうだー」と野次を飛ばしている。


「あっはっは! いやあ、それにしても、またあの二人が龍に関わるとはな。つくづく縁があるらしい」


ネリスがルウィンとテナについて話し始めると、キャルが食いつく。


「ねー! あの二人ってさー、すごくいいよねー!」


「あっはっは。キャルは二人のどんなところがいいと思うんだ?」


ネリスがまるで母親のような調子で聞くと、キャルは嬉しそうに答えた。


「二人が冒険者・・・だから♪」


キャルの言葉に、A級冒険者たちが静かになる。ミリアも、文句を言おうとして開きかけた口を閉じた。


そんな中、ネリスが「なるほど」といって小さく笑う。


「二人はアイテム屋だが、確かに冒険者だ」


冒険者登録をしていないと、ダンジョンに入ることはできない。ダンジョンに入っているルウィンとテナは間違いなく名目上は冒険者だった。だが、キャルとネリスが言ったのは、そういうことではなかった。


「彼らには確かに、危険を冒してまで何かを成そうとする心がある……なあ、ミリア」


「……まあね」


ミリアが薄く微笑むと、ウォロクが前のめりになる。


「テナは恐ろしく勘がいいし、ルウィンはああ見えて諦めが悪い。確かに冒険者に欲しい素養が備わっとった。実際のところ、ルウィンがいなかったらミリアは自分を犠牲にしていただろうしのう」


ウォロクは「のっほっほ」と笑って自分のひげを撫でる。


と、ネリスが立ち上がった。


「なんだとミリア! それは本当なのか!」


「別に死ぬ気はなかったわよ。ただ、逃げ場のない通路で炎を吐かれたら、あたしかウォロク・・・じゃないと盾になれなかったのは確かね」


そう言ってミリアはウォロクに視線をやる。あんたに言われたくないわよ、という意思表示だった。


「のっほっほ、いやはやそれにしても……ルウィン、テナ――あの二人が冒険者として名を上げる日も遠くないやもしれんな」


「アイテム屋が、冒険者ねぇ」ミリアはそう呟いてから、「あー!」と大声を上げる。


「冒険者登録証、ルウィンに渡したままだわ……」


ミリアは立ち上がると、「ちょっと行ってくる―!」とそのままギルドを後にした。


死線を共に超えた冒険者に会いに行くために――

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