昼下がりの戦い
§ 氷のダンジョン 第3領域 『氷河の流刑地』 §
ここを訪れると、第2領域で見た氷河と再会することになる。氷のダンジョンは第3領域、『氷河の流刑地』だ。流刑地という名は、流れ着いた氷河が水と共に
「ねえルウィン、あれってどこに落ちるの?」
初めてこのダンジョンを訪れた時は
「落ちた人がいないわけではないが、戻ってこれた人もいない」
果たしてどこまで流れ落ちてゆくのだろうか。ダンジョンにも当然穴はあるが、穴の中でも特に行き先が不明な穴のことを、冒険者たちは奈落と呼んでいる。
「……ボクが落ちたら助けて」
「助けるが、落ちないように善処して」
小さな氷河は壁の端にある奈落にそのまま落ちていき、大きな氷河は後ろから流れてくる氷河に押されて砕け、やはり奈落へと落ちるのだ。テナが落ちたらと思うと恐ろしい。
「ねえねえ、ごはん食べよ?」
「そうだな」
俺とテナは氷河が砕け、落ちていく光景を眺めながら、鍋を囲んでいた。俺はテナの
「火、ついたよ」
「……そうだな」
火は温かいが心は寒い、そんな気分が押し寄せる。だが、俺とは違ってテナは嬉しそうだった。
「ねえルウィン、たまにはこういうのもいいよね」
テナが目を細めると、そのかわいらしいまつ毛から小さな雪が零れ落ちる。
テナは芋虫を鍋に放り込んだ。
「ああ……」
俺もテナに続いて、
俺たちはゆでイモムシをメインに干し肉をかじっていた。やはり、一品加わるだけで幸せ感がまるで違うな。
「そういえば――」
腹が満たされ、流れる氷河を眺めていると、言葉が浮かんでくる。
「――あご髭のお爺さんが『判断に困る迷い子らが、遺跡で難儀している』って言ってたな」
テナの顔をうかがうと、「助けたいんでしょ」と心を言い当てられてしまった。テナは続ける。
「遺跡って……第4領域のことだよね? ボクも気になってはいたし、行こうよ」
「そうだな!」
「どうせボクと一緒に帰っても、その後独りで行くんだから」
「……そうだな」
よく分かっている。
「じゃあ、行こうか」
「安全第一!」
俺たちは謎の小さきあご髭老人モルジャックの願いを聞き届けるべく、長い通路へと入るのだった――
§ 水のダンジョン §
ルウィンとテナが氷のダンジョンにて第4領域へと進み始めた一方、水のダンジョンには歴戦の冒険者たちが集まっていた。そんな中、一際目立つ双剣使いの少女が湖に向かって駆け出す。
「出ておいでー!」
彼女の名はキャルライン=アバレスト。
躊躇なく水に飛び込んだかと思えば、彼女に喰らいつかんとする巨影が水面から現れた。
水龍――その鋭利な牙が少女の身体を引き裂かんとしている。
ほとんど飲み込まれかけたかに見えたが、キャルは大人一人分ほどもある牙を蹴り、宙を舞った。
「キャハハハハ!!」
遊ぶように笑っているが、龍の方は遊ぶ気はないらしい。キャルの着地に合わせて
大盾を持った女騎士――ネリス=ヒルドルが叫ぶ。
「いかん、キャルが死ぬ!」
ネリスはキャルの着地点を見定め、全力で駆け出した。
「うおおおおぉぉぉぉッ!!」
線のように圧縮した水のブレスが吐かれた瞬間、間一髪……ネリスの大盾が間に合う。一本の槍のような水流は、ネリスの盾を貫けない。
「あっはっはっは! ばかものぉッ!」
「ありがと♪」
ミリアは詠唱しながらその様子を見て、肝が冷えていた。
(……ほんと死に急ぎ過ぎ!)
今すぐキャルに文句を言いたい、そう思いつつ詠唱を終えたミリアは魔法を発動する。
「
ミリアの足元から円状に火が燃え広がり、その銀の瞳が水龍を捉えた。
「――
炎は形を成し、次々に槍の雨となって龍に向かって飛んでゆく。炎は突き刺さるようにして水龍の巨体を燃やした。
〈ギュゥゥルルルルッ!!〉
龍の悲鳴が轟く中、ミリアの後ろから巨大なハンマーを背負ったドワーフ――ウォロクが飛び出した。
「借りるぞぉい!」
ミリアが場所を譲ると、残っている火の円に向け、ウォロクはハンマーを大きく振りかぶる。
「
「
弱火の中心を叩きつけると、火は勢いを取り戻す!
「――
ウォロクが人差し指と小指を立てると、燃え盛る火が津波となって龍の巨体になだれ込んだ。
〈ギュァゥルルルッ!!〉
龍はさらに大きな悲鳴を上げ、たまらず水に潜ろうとした。瞬間――ネリス、ミリア、ウォロクの三人が、口を同じ形に開く。
「「「あっ」」」
水に逃れようとした龍の背に、剣を突き刺してまたがるキャルラインの姿があった。
「キャハハ! 今日は
彼女は龍と共に水の中へと消えた。
「……」
一瞬の静寂が訪れ、その静けさが一瞬ではないことに気がつくと、一同は再び声を揃えた。
「「「やばい!!?」」」
これまで撃退で済ませていたが、キャルの我慢は限界だったらしい。今日という日は、
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