A級冒険者の集い

§ A級冒険者の集い ミリアとネリスとウォロク、後からキャル §


すっかり疲れ切ったルウィンとテナは、先に修道院へと帰宅した。

テーブルに残ったのは三人。


頭を抱えるミリア。

腹を抱えて思い出し笑いをするネリス。

そして、賢者めいた表情でシルバークインオオクワガタを胸に抱くウォロクである。


最初に言葉を発したのは、胸に抱くウォロクだった。


「二人に聞きたい。このところ龍種の出現が多すぎると思わんか。どこもかしこも、A級冒険者が休まる気配がない」


ウォロクの疑問に対し、ミリアが「……あたしもそう思ってたとこ」と言っては人差し指で自分のこめかみを叩く。


「……何かの予兆みたいで気持ち悪い。龍種に限らず、普通の魔物も凶暴になっているもの。ウォロクは長生きしてるし、こういう経験とかないの?」


「いや、実を言うとわしもこんな経験はないんじゃ。龍種がダンジョンをまたいで別のダンジョンに逃げるということも、わしには想像もつかんかった」


「まあ、ダンジョンの構造なんてまだまだ分からないことが――」


ミリアは続く言葉を言いかけて、やめた。


「のほ? ミリア、どうした?」

「ううん、別のダンジョンに逃げるって聞いて、あの凶刃のことを思い出していたの」


そう言ってミリアは再び頭を抱える。


「キャル……あの子ってば本当に危険な行動ばっかり! もー、何なのよ~!」


ミリアは「うぅ……」とテーブルに突っ伏した。それを見て、ずっと思い出し笑いをしていたネリスが急に真面目な顔をする。


「だがミリア、キャルは確かに危険な行動をするが、救った人の数は多いぞ」

「……なによ。だからって危険な行動が許されるわけじゃないでしょ。今日だってあんたが守らなかったらあの子、危なかったんだから」


「あっはっは! だが、キャルはあれで守ってもらえる確信があってあの位置に飛んだのかもしれない!」

「あのねぇ……そういうのはお互いの信頼関係があって成立するの! あの子のは押しつけよ! お・し・つ・け!」


「まあまあ」とネリスがミリアの肩をぽんと叩く。


「いいことあるって」

「なにそれ、むかつくんだけど」


ミリアがもう一度深くため息をつくと、ウォロクが「ミリアよ、あまりキャルラインを責めてやるな」と神妙な面持ちで言った。


「何よ、二人してあの子のことをかばって……」

「わしが思うに、あの娘は甘えておるんじゃ」


「甘えてるって? 誰に?」ミリアはツンとした態度でそっぽを向く。そして、「……甘え方ってもんがあるでしょうが」と目線を落とした。


そんなミリアに、ウォロクは付け加える。


「あの娘は、自分が刃を突きつけてもまったく動じないミリアや、大抵のことは笑い飛ばしてしまうネリスのような存在にしか甘えることができんのだ。

 あと…………わしも?」


「自信持ちなさいよ」


ウォロクが急に不安がるので、ミリアはツッコみつつ励ました。


「……のっほっほ、まあ最近は新しい甘え先を見つけたようじゃがのう」


それを聞いたネリスが嬉しそうに笑う。


「ルウィンとテナか。確かに、キャルもずいぶんと懐いているように見えたな」


それを聞いて、ミリアは再びため息をついた。


「だから心配なのよ……あの二人はキャルよりも圧倒的に弱いもの。未来は分からないけど、少なくとも今は天と地の差があるわ。あの子ったら分かってるのかしら……」


ウォロクは「ふむ」と髭をいじり始める。それを見て、ネリスも存在しない髭をいじり始めた。そんなウォロクとネリスの目が合う。


「わし、火のダンジョンでキャルラインに剣を向けられたんじゃが――」

「なんだって」


「――ルウィンが言ったんじゃ。『……危ないからやめなさい』とな」

「あっはは。意外だな。だが、そう言われてみると、言いそうだ」


「キャルラインが何を思ったかは分からんが、少なくともわしには、普段他の冒険者には決して見せない、何か特別な態度を取ったように見えた」

「特別な態度とは?」







「…………のほほ!」

「言えッ! ウォロクッ! 言えッ!」


ネリスがウォロクの肩を揺らすが、「のっほっほ!」と笑うばかりだった。

ガチャガチャとうるさい鎧の二人にミリアが呆れ顔で言う。


「あんたたち、少し黙りなさい」


ミリアが「話を本題に戻すわよ」と指でテーブルを叩くと、静かになったウォロクとネリスがひそひそと顔を近づけ合う。


「のぉネリスよ、話題を変えたのはミリアだのぉ?」

「ああウォロク、まったくもってその通りだな?」


ミリアは「……うるさいわね」と少し頬を赤らめた。


「とにかく、何か行動を起こさないと第二の魔王災厄が起きるかもしれないじゃない」

「ミリア、そうは言っても何をするべきかが分からないぞ」


「……そうなのよね」とミリアの声が小さくなると、離れた場所から若い男の大きな声が聞こえてきた。


「――さあ、冒険者たち! その有り余る冒険心で治験者になってみないかい!? 少しの時間じっとしているだけで銀貨10枚! 早い者勝ちさ!」


それを聞いたネリスが真剣な表情で口を開く。


「あれが災厄の予兆か……!」

「ただの詐欺よ」

「ルウィンのような愉快な男かもしれん!」

「おばか。あんなの他にいないわよ」


「のっほっほ。龍も変とくれば、人も変とくる。春だのぉ――」



春……それは花芽吹く始まりの季節。だが、始まりとは必ずしも喜ばしいものとは限らない。忍び寄る影に気づけなければ、それは終わりへと変わってしまうかもしれないからである。

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