マンドレイクと魔物
§ 草のダンジョン 第2領域 『黄金庭園』 §
第1領域の深緑回廊を抜けると、第2領域の黄金庭園に出ることができる。そこは、天井からは光が差し、木々や小さな川、色とりどりの花が空間を彩る本当の素敵空間……のはずなのだが――
「ォ゛ォィェ……」「アゥ……ゥァ゛」
「ォ゛ッ……ゥ」「ァ゛ェ……ィ゛ェ」
――瀕死のマンドレイクが、いたるところに転がっていた。
なぜか……二人一組で。
「むごいな……」
せっかく抜いたのなら、拾うのがせめてもの情けだろうに。
「にゃにこれ……」
「気持ち悪いのです……」
女性陣の感想は、マンドレイクに対する憐れみではなく、追い打ちだった。
ともかく、俺は一番近くの足元で絡み合っていた二人? を拾ってみた。
「……あれ、絡まってる」
マンドレイクたちはお互いに手足のような根っこを絡ませていた。
まさか……これは――
「――マンドレイクの交尾……?」
いや、交配と言うべきか。
俺の発した言葉に、テナがピクリとした。
「にゃ、何言ってんの!?」
やはりそうだよな。
「すまない。間違えた。マンドレイクの交配と言うべきだな」
これでよし。
と思っていたら、今度はアルメリゼが顔を真っ赤にして翼をばさりと広げた。
「そ、そういうことじゃないのです!」
二人は一体何に顔を赤くしているのだろうか。
え、まさか。いやしかし……
「動物の交尾ならまだしも、植物の交配を見ても、それほど思うところはないのでは……」
改めて自分が手に持ったマンドレイクのカップルを見直すと、確かにイヤらしい絡まり方をしていた。
「あー」
だめだ、これはエッチ。
手足のような根っこがあるのがいけない。
二人の反応もそうなるわけだ。
ただ、人間に見立てるのであれば、少々歪な絡まり方をしている。
それに、このマンドレイクの夫婦――
「ぃ゛ぁ……」「ぉ゛ぉぃぇ゛……」
――なんだか幸せじゃなさそう。
まるで、無理やりさせられたかのような……。
「テナはマンドレイクの交配を見たことあるか?」
「そんなのないよ!」
「アルメリゼさんは?」
「ないのです……!」
だよな。俺もない。
マンドレイクの心はわからないが、少なくともこんな明け透けに自分たちの営みを公開するような大胆さはないはずだった。
「マンドレイクは
俺の意見を聞いたテナが尻尾で?を作る。
「じゃあ、なんで地上にいるの……?」
そうだ。当然その疑問が浮かぶ。
アルメリゼも頭の触角めいたくせ毛を揺らした。
「……もしかしたら、誰かが抜いて……こ、こ――」
「交配させた」
「――です。もしかしたら、そのせいでマンドレイクが大量発生したのかも……。ですが、いったい何のために……?」
確かに、妙な話だった。
「俺なら、マンドレイクを交配させて意図的に量産させる方法が見つけたのなら、アイテム屋として彼らを商品にする。マンドレイクからは抗精神異常薬が作れるし、薬師やダンジョングルメ愛好家には生でも高く買い取ってもらえるからだ」
自分で言っていても意味が分からない。
なぜ、マンドレイクを抜いた人物はこんなことをしたんだ。
「「うーん……」」
俺とテナが二人で唸っていると、「もしかして――」という声がする。
アルメリゼの方を向くと、彼女の頭のくせ毛がぴんと立っていた。
「――わたし、分かったかもしれないのです」
アルメリゼが難しい顔を俺たちに向ける。
「わたし、マンドレイクが地面から飛び出した時のことを思い出していたのですけど――」
「「ごめんなさい」」
俺とテナが同時に謝ると、「――それはもういいです……」とアルメリゼが首を振る。
「それで、思ったのです。マンドレイクの悲鳴を聞いた瞬間、わたし、頭がおかしくなりそうになりました。けど、意識は少し残っていたのです」
アルメリゼは何かを思い出そうとするかのように目を細めた。
「これは、悲鳴を聞いたわたしの、個人的な感覚の話になるのですが……マンドレイクの悲鳴に応えるように、植物の魔物の蔓が現れたように感じたのです。はっきりとした根拠はないのですが……」
アルメリゼは自信がなさそうにそう言うが……悲鳴を聞き、実際にモンスターに襲われた当事者の感想には価値がある。
それに、アルメリゼの話には続きがあるはずだ。
「アルメリゼさん、続きを聞かせていただけますか」
アルメリゼは顔を上げ、真剣な目でうなずく
「マンドレイクを引き抜いたら、気絶しているうちに魔物に襲われてしまうのです。
では、マンドレイクを引き抜いた何者かは、何をしたかったのでしょうか。
どうして、マンドレイクは引き抜かれたまま放置されたのでしょうか。
それは、マンドレイクそのものが目的ではなかったのです。マンドレイクを引き抜いたのは――」
「――魔物なのです」
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