それぞれの戦い
§ 火のダンジョン 第5領域 『巨人の大釜』 §
***ミリア視点***
火のダンジョン、第5領域は『巨人の大釜』。円形の領域の外周を囲むのは、真っ赤な溶岩の海である。
その中心で、二人の冒険者がぐったりと身を寄せ合っていた。
そして、その二人を守るA級冒険者――
「ミリアよ、なんとかならんのか!」
その龍には翼はあれど手足はなく、燃え盛る身体を大蛇のようにしならせ、溶岩から姿を現わしては隠れることを繰り返すのだ。
「詠唱さえできれば……!」
二人の魔法使いが強力な魔法をしかけようとすると、火龍は弱った冒険者たちを狙って、口から岩とマグマを混ぜ合わせた弾丸を飛ばしてくるのである。
今は、炎にも強いドワーフのウォロクが、前衛として盾の役割を担っていた。
「前に出るのは苦手だわいッ!」
ウォロクは巨大なハンマーを振り回し、龍が飛ばしてくる巨大な塊を砕き――
「どう見ても前衛でしょッ!」
――ミリアは無詠唱で魔法を行使し、風の障壁を生みだす。ウォロクが砕いた岩の破片とマグマから、動けない冒険者たちを守っていた。
ミリアは火龍をじっと睨み、隙をうかがう。
が、隙らしい隙は一向に見えてこない。
(こいつ、戦い慣れしてるッ!)
火龍は派手な動きは一切見せず、こちらの動きを見てから口から弾丸を飛ばし、時には身体と尻尾を使ってマグマを散らしてくる。
自分からは決して大技は出さず、じっくり弱火で攻めてくるという嫌な戦い方だ。
(まるで遊ばれているみたい……っ)
そのせいでミリアの方から大魔法を繰り出すこともできず、お互いに牽制しあう状況が続いていた。
ウォロクが「あちち」と飛んでくるマグマの弾丸を砕きながら、背後のミリアに向かって叫ぶ。
「このままじゃわしら鍋の具材じゃあッ!」
ミリアはその叫びを聞いて、ふと自分の相棒である騎士の姿が思い浮かんだ。
ネリス……こんな時、あんたがいれば。そう呟いてから、ミリアは歯を食いしばる。
(違うでしょ……!)
ミリアは、ウォロクと自分自身を鼓舞した。
「アイテム屋の二人が必ず応援を呼んでくる! そうなればあたしたちの勝ち! 絶対に耐えるわよ!」
「……のっほっほ! 倒してしまってもよいのかのう?」
「倒せるもんなら倒しなさいよ!」
「無理だのぉ!」
……軽口を叩けているうちはまだ大丈夫ね。ミリアは小さく笑う。
(けど、自分たちだけでもこの危機を乗り越える手段を考えないと……)
何か、何か糸口が欲しい……小さなきっかけでも、何でもいいから!
(だめ、そんな考え方ではこの龍を倒すことはできない……)
いつだって、今あるものでしか戦えない。
それが、冒険者ってものでしょ……!
ミリアは、熱くなってきた頭を冷やそうと努める。
(ウォロクが砕いた岩石とマグマの破片を、あたしが風で防いでいる……防いだマグマは周囲に散らばりって――)
――冷えて固まっていた。
そのことに気がついたミリアの銀色の瞳が光る。
(変化なら、最初からあったんだわ)
ミリアはウォロクに呼びかけた。
「あんたが魔法使いに戻る策を思いついたわ!」
「わしは最初から魔法使いなんじゃが!?」
「合図するから、その時が
「……のっほっほ!
その時までは死んでも死に切れんのお!」
ウォロクは、これまで以上に気合を入れてハンマーを振るう。砕ける巨石と飛び散るマグマ――ミリアがそれらを風でいなし、マグマを倒れた冒険者たちの周囲に流す。
(さあ、マグマ遊びの時間よ……!)
少しずつ、少しずつ。
砂の城を作るかのように、ミリアはマグマの壁を築き始めた。
(たった一度でいい。攻撃を防げたなら、そこから流れを変えてみせる……!)
§ 火のダンジョン 第3領域 『熱水の密林』 §
***ルウィン視点***
一方そのころ――
「にゃにゃにゃにゃ!!」
「おらおらおらおら!!」
――決死のダンジョン移動の直後、俺とテナは肌着姿で叫びながら耐火ポーションを調合していた。
本来ならばミリアのために集めていた素材だが、命につりあう素材はない。
というわけで、テナの
一方、凶刃キャルはポーションで熱水による火傷を治しながら、ご満悦といった顔で笑う。
「キャハハ! がんばれー!」
まったく、のんびり鑑賞とはいいご身分だ。こっちは命がけの気分だというのに。
だが、この調合ばかりは息の揃った二人でなければ効率が悪い。
このままいいご身分でいてもらおう。
「「……できた!!」」
~~~~~~~~収穫~~~~~~~~
耐火ポーション ×24(New !)
耐火ポーションの素材
・水竜血晶 ×20
・耐火樹の樹液 ×0
他
・炎魔晶石 ×12
・紅玉の原石 ×3
・小さな琥珀 ×4
・カサブタの欠片 ×5
・ゴールデンキングカブト ×15
・ゴールデンキングラーヴァ ×10
・ゴールデンキングオオカブト ×2
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
調合を終えた俺たちに、キャルは背を向けて言う。
「じゃあ、行こっか♪ 龍殺し♪」
「「いえっさー!」」
キャルが俺たちを巻き込むのは、応援を呼ばれて自分の楽しみが減ることを嫌っているのだろうか。
そんなことを考えていると、不意にキャルが首だけ振り返ってくる。
「キミたち、とってもいいよ」
妖しい瞳が鈍く光っていた。
「キャハハハ!」
怖すぎる。
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