第16話 夢

街に戻った俺は、宿を取りそこで制作を開始する。

必要なのは鍛冶台セット――十回使うとぶっ壊れる(5万ギル)――と制作素材。

それにSPとMPだ。


さて、俺が態々宿屋で制作するのには理由があった。

それはSPとMPの回復速度だ。

制作にはそれぞれ20ずつ消費する事になる訳だが、俺のSPとMPは低い。

特にSPは58しかないので、たった2回制作しただけでガス欠になってしまう。


そこで宿屋の出番だ。


OTLはフィールドやダンジョンだと、空になったSP等の全回復は1時間程かかる仕様となっている。

だが街中や安全ポイントならその半分の30分で済み、更に宿のベッドの上だとその時間が3分の1の10分で済んでしまうのだ。


まあここまで言えば分かるだろう。

そう、その名も待機時間短縮作戦だ。


因みにこのゲームにはMPやSPを回復させるアイテムもあるが、其方は製作や高レベルのモンスターのドロップしかない。

まあ何れ手に入れるので、その時になったら宿屋卒業である。


『なにこれー』


俺がインベントリから出した鍛冶台――事前に大人買い済み――を見て、バグリンが俺の肩から降りてその上で跳ねた。


「これから武器を作るのさ。上にいると危ないから降りてなさい」


『はーい』


バグリンに降りる様に命じ、鍛冶台の上にミスリル10個(増殖済み)と鋼の塊10個、それになめし革も10個おく。

そしてスキルを発動させ、付属の槌でそれを叩いた。


『すごーい』


材料が光り輝き、謎のパワーで絡み合って一本の短剣が生み出される。

それをみたバグリンが嬉しそうに跳ねた。


因みに、俺のステだと制作成功率は100%だ。

制作は器用を2倍したものに幸運を足して10で割り、そこにスキルによる補正をかけた物が成功率になる。


なので今の俺の成功率は――


俺の器用は107で幸運は25なので、その基礎値は23,9。

そこに装備制作の補正である、レベル×0,5に1を足した数字である6をかけた143,4%が成功率となる。


ああ、言っとくけど、別に確率が100%を越えても特にボーナス的な物はないぞ。


『食べていーい?』


「ん?レベルアップしないんじゃ?」


『うん、しないよー。でも、おなかすいちゃったー』


腹が空いた……ね。

どうやらバグリンは、経験値取得目的以外にも腹が減る仕様の様だ。

生き物なら当然の生理現象ではあるのだが、武器を食うこいつにそれがあるとは考えもしなかった。


「ほらよ」


『わーい!』


要望道理、出来た武器をバグリンにやる。

上位スキルに必要なのは製作した実績だけなので、別に現物を残しておく必要はないからな。


「休憩、と」


二本目を作り、SP不足になったのでベッドに転がる。


『ぼくもねるー』


そんな俺の腹の上にバグリンが乗っかって来た。

寝ると言っても10分ほど寝転ぶだけなのだけなんだが……

まあいいか、少し疲れてるので一眠りしよう。


制作作業はその後だ。

生活費を稼ぐ必要がないお陰で、時間は腐る程ある訳だしな。


「ぐー、ぐー」


『ぷぅぷぅ』


眠りに落ちた俺はある夢を見た。

それは聖女と呼ばれる女性の夢だ。


とある男爵家に、類まれなる才能を秘めた女の子が生まれた。

やがてその少女は教会に才能を見いだされ、聖都と呼ばれる向かう事になる。

だがその道中、邪教の徒にその身を狙われる事となってしまう。


襲撃による危機的状況。

そこに颯爽と現れる勇敢な冒険者。

そしてその冒険者は邪悪なネクロマンサーを打ち倒し、だがその名を名乗る事無く去って行く。


やがて少女は教会にて洗礼を受け聖女となり、その後その冒険者と再会する事となる。

そして二人は手と手を取り合い、世界を覆う邪悪な野望に立ち向かういやがて世界を救う。


そんな夢――


「くっだらねぇ夢見ちまったな」


ヒーロー願望は特にないので、そう言うありきたりな英雄譚には興味ないつもりだったんだが……ま、どうでもいいか。

所詮夢だ。


「さーて、制作の続きだ」


くだらない夢は忘れ、俺は夢に向かって突き進むのみである。

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