第32話 ストーカー

「遂にあの方と……」


私の名はユミル・ストーク。

ストーク男爵家の長女として生を受け、そして持って生まれた特殊な力を見込まれ、現在ハーミール教の聖女を務めていた。


――ユウジ・タカダ様は私の恩人である。


男爵家からハーミール教の総本山へと向かう際中、私の乗っていた馬車は邪悪なネクロマンサーに襲われてしまう。

その目的は間違いなく私だ。

私の力、もしくは力を宿す私を、何か邪悪な目的のために利用しようとしていたんだと思う。


「ユミル様を守れ!」


私の護衛には男爵家の騎士だけではなく、ハーミール教からも神聖騎士と呼ばれる方々が随行してくれていた。

彼らは邪を討つ事を生業とするか方々だ。

本来ならネクロマンサーや、それを操るアンデッドなど敵ではなかった。


だが――


「くっ!毒だ!皆息を止めろ!!」


襲撃して来たネクロマンサーは卑怯にも、毒を使って来たのだ。


それは致死性こそない物の――たぶん私を殺さない為だと思う――通常の解毒ポーションでは解毒できず。

毒の影響を受けた護衛方々は、本来の半分も力を出せなくなってしまう。


いくら邪悪なる者に強い神聖騎士の方々でも、この状態では相手を押しとどめるのが精いっぱい。

消耗戦になればアンデッドが圧倒的有利になるため、そのままだったらきっと護衛の方々はいずれ全滅させられていたはず。


そこに颯爽と現れたのがあの方――ユウジ・タカダ様だ。


彼はネクロマンサーを討ち。

更に、その配下のアンデッド達も瞬く間に倒してしまう。

そして全てを終えたタカダ様は、自らの名を告げる事も無くその場を去ってしまった。


その姿は正に英雄。

そんな英雄であるタカダ様に、別れを惜しんでついスキルを使ってしまう。


――それは聖痕と呼ばれるスキル。


スキルを刻印した相手に幸福が訪れる効果を与え、スキル刻印中は相手の様子をいつでも確認する事が出来る、特殊な私だけが持つスキルである。


――それ以来、私はずっとタカダ様の事を見ていた。


助けて貰ったお礼をしたい。

しかし、聖女となった私は気軽に彼に会いに行く事は出来ない身分だ。

だがだからと言って、ただお礼を言う為だけにタカダ様を呼び出す何て真似も戸惑われる。


気分を害されてしまうかもしれないし。


そんな私が考え抜いての出した答えが、タカダ様の喜ぶものをお贈りすれば大丈夫。

という物だ。


彼はとてもストイックな方で、ただひたすら強くなる事だけを目指し行動していた。

なので強さに関する贈り物をすれば、タカダ様はきっと呼び出すなんて不躾も気にされないはずである。

そして幸いな事に、私にはそう言った物を用意する手段があった。


――錬神術。


錬金術系の上位互換である、私の持つユニークスキルだ。

これを使えばポーションなどの薬品類は勿論の事、特殊な効果を持つアクセサリーなども私は製作できた。


幸いあの方はそういった類のアイテムをお持ちではなかったので、私は彼の為にタリスマンを一つ製作する。

製作にはハーミール教の御神物の欠片が必要だったので、バレない様にそれを手に入れて。


「これならタカダ様もきっとお喜びになる筈だわ。ふふふ」


スキルでずっと見てはいたが、それは所詮一方的なのぞき見でしかない。

だが、今度の接見は違う。

ユウジ・タカダ様と、正真正銘の再会。


そのシーンを想像し、私は喜びに胸を震わせる。

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