第38話 イレギュラー
『おいしおいしー!!』
レジェンド武器の外れの方を食わせてやると、余程美味かったのか、バグリンが飛び室内を飛び跳ねまくる。
喜んでもらえて何よりだ。
『あるじー。えとねー、れべるいっぱいあがったよー』
「いっぱい?」
『うん、いっぱいー』
「どれどれ……お、ほんとだ」
バグリンのレベルを確認すると5つも上がっていた。
一本でこれだけ一気に上がるとか、流石レジェンド武器と言うべきか……ん?
「あれ?全部のステータスが10づつ上がってるぞ?」
バグリンのステータス全項目が、10づつ増えている事に気付く。
レベルアップ時のポイントが2ポイントなら、こういう上がり方はしない。
つまり……
「ここにきて更にブーストされるのか!」
有難い事である。
5レベルで前ステータスが10づつ上がっているので、どうやらレベルアップ時に全てのステータスが2づつ上がる様だ。
これなら、トータルで人間キャラの196ポイントよりずっと多くなるな……
今の俺を他のプレイヤーが見たら、きっと『ずっちいぞ!』って非難されてしまう事請負だ。
しかも聖女様印のタリスマンまであるからな。
もしこの状態でゲームに行けたなら、俺は一躍有名人になる事だろう。
まあ速攻で運営から修正喰らうだろうけど。
増殖バグしてるし、種族名がそのままズバリのモンスターまでテイムしてる訳だからな。
「凄いぞバグリン」
『えへへへー』
撫でてやると、バグリンがプルプルと体を揺らす。
犬猫ではないが、撫でられるのは普通に嬉しいらしい。
こういうのはやはり万事共通の様だ。
「さあ、続きだ」
武器製作に戻り、当たりが出来たら強化してハズレが出来る度にバグリンに食わせていく。
『おいしー!』
二本目で97に。
『おいしいよ!』
三本目で98に。
リーチだ。
が――
四本、五本、六本と食わせるがレベルが上がらない。
「え?もうひょっとしてあがんない感じか?」
『うん。もっとおいしいのじゃないとー』
まさかの98でキャップ。
どうやら99に上げるにはレジェンド+の武器がいる様だ。
「全ステータス2ポイント捨てるのはもったいないよなぁ……まあしゃあない。他の武器でレジェンド+作るとするか」
レジェンド+武器への進化は、各武器一回だけとなっている。
そのため、今作っている短剣をバグリンに食わせる訳にはいかなかった。
「弓も作るし、いらない方をを食わせるとしよう」
レジェンドとその進化先であるレジェンド+は、各武器種で2種類づつある。
弓はサブウエポンとして作るつもりだったので――バグリンやタリスマンの補正で持てる算段がついている――片方を食わせてしまえばいいだろう。
……一本で上がらなかったらまあ、他の武器も作るだけだ。
「よし!完成!」
程なくして二本目の短剣、影の刃が完成する。
これは左手専用――まあ右手でも使えるが――の短剣だ。
――OTLにおいて、二刀流はコストのかかるネタスタイルと言われていた。
左手に装備した武器は、攻撃力と攻撃速度が50%ダウンする。
そしてオプションもその武器にしかかからない為、同じ武器で二刀流した場合の火力アップは単純計算で25%程度しか上がらない計算だ。
え?
25%上がるならする価値はある?
残念ながらない。
何故なら武器を両手で持つと攻撃力が30%上昇するからだ――短剣など出来ない武器もあるが。
しかもこの攻撃力アップはスキル使用時の威力も上昇する――二刀流は右手の武器基準――ので、両手持ち出来る武器を態々二刀流にする奴は見た目重視のカジュアル層だけとなる。
なので廃人は絶対にしない。
火力が欲しいなら両手持ち。
そうでないなら盾を。
が、このゲームの基本だ
んで、ま、両手持ち出来ない短剣は例外的に二刀流が現実的な選択肢に入って来る訳なんだが、弱い短剣の救世主として現れたのがこの影の刃という武器である。
基本の攻撃力は光の刃の6割ほどとレジェンド武器としては相当弱い部類に入るが、オプションに左手装備時のペナルティー無効がある為、攻撃力が下がる事無く左手に装備する事がこれは出来た。
しかも左右の武器のオプションがどちらにもかかるという効果もついているため、その火力上昇は攻撃力分以上だ――三つ目のオプションにクリティカル発生率50%アップが付いている。
正に大幅アップ。
此処まで来ると通常攻撃なら、他の武器相手にそん色ないレベルとなる。
更に進化してレジェンド+になればオプションが追加されるので、そこまで行くと素殴り最強と言っても過言ではないだろう。
ま、左手装備はスキル威力に基本寄与しないから最強とは絶対ならんが……
一応アサシネーションキルには乗るのだが、その特殊性から元々の威力が他武器で使える強スキルより低く、また回転率もそこまでよくない。
なのでどうしても、短剣はスキル面で見落とりしてしまう仕様となっていた。
まあバランス調整って事なんだろうが……レジェンド+を二本用意するという頭のおかしいコストを考えるなら、別に最強状態でもいいと思うんだがな。
「ふふふ」
俺は右手に光の刃を。
そして左手に影の刃を装備する。
そしてその姿を姿見越し――無限の資金があってそこそこいい宿に泊まっているので、そういう物が普通に置いてある。――に眺め、俺は悦に浸る。
「本来なら左手は軽い低ランクの盾の予定だったんだけど……まさにバグリンとユミル様様だな」
初期の予定では、左手にレジェンド武器を装備する予定はなかった。
何故か?
武器重量の問題があったからだ。
レジェンド以上の短剣の重量は55。
そしてレベル99で筋力が初期値の場合、装備できる武器重量は58。
この事からも分る様に、レジェンド短剣一本装備したらその時点で重量はかつかつだ。
多少筋力に振って通常のタリスマンで補強しても、とてもではないが他の武器を装備する余裕はない。
だから軽い盾を想定していたのだ。
だがバグリンのお陰でステータスが大幅に増加し、その影響で自由に振れるステータスポイントが増えた。
それに加えて聖女のタリスマンである。
この二つのイレギュラーにより、俺は現時点で短剣がもう一本装備できるレベルまで武器重量が増えていた。
「まあちょっとイレギュラーの追加で筋力はオーバー気味だけど。それは贅沢な話か」
90以降のバグリンの成長がさらに加速する事や、聖女様から何かもらえる事など予想しようもないイレギュラーでしかない。
なので必要重量を元に、レベル90までのポイントを俺は優先的に筋力に振ってしまっていた。
そのため、俺の想定よりも筋力はかなり高くなってしまっている。
まあ筋力なら無駄にはならないからいいけど……
バグリンという弱点を抱える身としては、正直な話、可能な限りHPの確保をしたかったというのが本音だ。
これがゲームならガンガン筋力上げでいいんだろうが、此処はやり直しがきくか怪しいゲーム世界で、そして俺はチキンな小市民。
生存能力を優先したいと考えるのは当然の話だろう。
「よし、じゃあバグリンの新スキルのテストでもしに行くか」
『はーい』
バグリンの新スキル確認のため、俺は街の外へと向かう。
街中でやるようなもんじゃないからな。
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