第26話 二倍
「さて、狩るか」
俺は溶岩洞窟へとやって来ていた。
赤の魔石を手に入れる為、それをドロップするサラマンダーを狩る為である。
サラマンダーは体長4メートル程ある大きなトカゲの様な姿をしており、体色は真っ赤だ。
その色と名前から分る通り火属性のモンスターで、その攻撃の中には広範囲攻撃である炎のブレスが混ざっている。
そして俺が狩る際に最も気を付けなければならないのが、このブレスである。
何せこれを喰らうと、通常の二倍のダメージを受ける事になってしまうらな。
なぜ二倍になるのか?
答えは簡単である。
俺と、そしてバグリンが同時に喰らうからだ。
そう。
俺とバグリンはHPが共有されているので、この手の範囲攻撃を喰らうと実質ダメージが二倍になってしまうという訳だ。
え?
左右に分かれてバラバラに行動すればいい?
そしたらバグリンが攻撃を受けまくるかもしれないだろ?
こいつに華麗な回避を期待するのは、どう考えても無理があるし。
ああそれと、安全な場所に待機させるという手も無いぞ。
理由は俺と少しでも離れると、バグリンがこっちに勝手に寄ってく来てしまうからだ。
命令を無視して。
まあゲームでもテイムモンスターは一定範囲内にいる強制仕様なので、これは仕方がない事ではあるんだが。
因みに、テイムモンスターは独自の防御力が設定されており――非表示――レベルアップと共にそれが上昇する仕様となっている。
だが最高ランクモンスターのレベルカンストでさえ、Sランクフルセット程度のの防御力しかないため、プレイヤーに比べて耐久力は低い。
なら、ダメージは倍以上になるんじゃないか?
その点は大丈夫。
バグリンはバグモンスターだけあって特殊で、防御力が俺に準拠しているためだ――叩いて確認済み。
しかもマスタリーの軽減も乗るので、その防御力は俺と全く同じと思って貰っていいだろう。
「よっと!」
サラマンダーの尻尾による回転攻撃を回避しつつ、俺は隙を見て攻撃して行く。
今回はシードラゴンアントの時の様な引き狩りはしない。
と言うかできない。
あれはモンスターの密度が低いから出来た芸当であり、ダンジョン内で
そんな真似をしたら他の奴をひっかけて大変な事になってしまう。
今の俺のレベルと装備じゃ、こいつを複数相手どるのはやばいからな。
『えーい!』
俺の攻撃の動きに合わせ、肩に乗ったバグリンがスキルで攻撃に参加する。
レベルが上がった事で習得したバグニードルというスキルだ。
このスキルは体の一部が長く伸び、それが針状になって相手を貫く攻撃となっていた。
「アサシネーションキル!」
サラマンダーの頬が膨らんだのを見て、俺は唯一の攻撃スキルを使用する。
スキルポイントの都合上まだレベルマックスではなかったが、問題ない。
何故ならこのスキルは攻撃ではなく、防御目的で使ったからだ。
俺がスキルで背後に回って攻撃すると同時に、サラマンダーが火のブレスを先程まで俺の居た一帯にまき散らす。
この様にタイミングを合わせて使用すれば、ダメージ二倍のブレスを回避できるという訳である。
まあクールタイムが長めなので連続して撃たれるとそれは厳しいが、使用頻度から考えれその可能性は低いので気にする必要はないだろう。
……ま、仮にやられても、ブレスはそこまで高火力じゃないから1発でやられたりはしないしな。
そもそも一発でやられる様なら、この狩場には来ていない。
「しっかし……バグリンの新スキル火力たけぇな」
俺達はサラマンダーを問題なく処理する。
ゲームで一時期サラマンダー狩りをしてた事があるのだが、その時より断然処理が早い。
装備やステータスの都合上、俺の火力はその時より確実に低いので、これは完全にバグリンのスキルによる物と考えていいだろう。
本当に優秀な相棒である。
『えへへー』
「よし、ジャンジャン狩ってさっさと終わらすぞ」
俺は赤の魔石を手に入れるべく、サラマンダーを乱獲する。
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