第35話 交信

「見苦しい所をお見せしました。余りの喜びについ……」


警備員たちから解放され、俺は椅子に座りなおした。


ま、あれだけ素敵アイテムを貰ったんだから、雄叫びを上げ続けてもしょうがないよね。

ゲーマーってのはそう言うもんだ。


しかしあのいかれたステ補正。

特殊効果がどんな凄いものになるのか……いかんいかん、また立ち上がって雄叫びを上げたくなってくる。

今は考えるのを辞めよう。


効果チェックは後のお楽しみだ。

ぐふふ。


「いえ、お喜び頂けたなら幸いですわ」


ユミルからは、特に気分を害した敵なオーラは感じられない。

さっすが聖女様だけはある。


「あれ程の物を頂けるなど、幸せの極みです」


聖女イズゴッド!

錬神術最強!


「うふふ。もしよろしければこちらもお受け取り下さい」


聖女がテーブルの上に小瓶をおく。

ポーション系だとは分かるが、虹色に光っている物を見るのは初めてなのでどういう効果なのかは判別がつかない。


タリスマンと同じで虹色に光ってるって事は……


「ひょっとしてこれも聖女様が?」


「ええ。私が作った特製のポーションになります。状態異常を含めた全ての完全回復。それに服用すると祝福がかかり、タカダ様の攻撃力と防御力が上がる効果付随しています」


「おお……」


エリクサー効果に加えて、強化バフまでかかるのかよ。

どの程度上がるのかは知らんが、仮にこれに強化が無くても今現在大した回復アイテムを持ってない俺には十分過ぎる程有難い。


「ありがとうございます!」


俺は聖女印のエリクサーを受け取り、それを笑顔でポケットに納める。

いやほんと、今日は来てよかったわ。


「材料的に一つしか作れなかったのですが……タカダ様ならそれで十分ですよね」


「もちろんです!」


ユミルの言う通り、一つあれば十分だ。

某手合わせ錬金術師ではないが、無限増殖バグを持つ俺にとって一は全だからな。


……ただちょっと気になる。


一つで十分ですよねって言い回しが。

まさか彼女は、俺の無限増殖の事を知っているのだろうか?


人前で見せた事はないので普通ならあり得ないが……聖女の持つ何らかのユニークスキルで見透かされてる可能性ってのはゼロじゃないからな。


「ひょっとして……聖女様って、俺の秘密知ってたりします」


気になったので尋ねてみた。

但し、そのものずばりは問わない。

勘違いだったら、自分の秘密を打ち明けるのに等しいからだ。


「ふふ、さあどうでしょう」


ユミルが悪戯っぽく俺の質問をはぐらかす。


それを見て俺は確信する。

あ、これ絶対知ってる奴の反応だ、と。


さて、困った。


無限増殖は周囲に知られると、色々と面倒な事になりかねない。

このバグ、もし無軌道に使ったら世界の経済状況を一変させかねない能力な訳だからな。

国の偉いさん達に知られたら、干渉されるのは目に見えている。


『ご安心ください。周りに伝える様な真似は致しませんので』


その時、脳内に声が響く。

バグリンの物とは違う、その澄んだ綺麗な声。


それは――そう、目の前のユミルの声色そのものだった。


俺は驚いてユミルを見る。

彼女の顔はベールでよく見えないが、その口元は微笑んでいる様に見えた。


『驚かせてしまいましたね。実は先程お渡ししたタリスマンには、私との交信機能があるんです。ですので、タカダ様側からも私に声をかけて頂けますよ。やり方は頭の中で念じるだけですから、どうぞお試しください』


タリスマンの効果か……


俺は首にかけているタリスマンに触れる。

聖女と交信できる効果があるそうだが、まさか特殊オプションはそれだけなじゃないよな。

もしそうだとした、余りにも無駄機能過ぎる。


まあ例えそうであったとしても、ステータスアップだけで神効果ではあるのだが……どうしても損した気分になってしまう。


『聖女様は俺の能力をご存じなんですよね?』


頭の中で念じてみる。


『はい。タカダ様のみが持つ素晴らしい能力。そしてバグリンちゃんの事も存じ上げております』


バグリンの事も知ってるのかよ。

何でもお見通しだな。

聖女様は。


一体どういう能力を持ってるんだろうな?


『タカダ様の能力やバグリンちゃんの事は秘密にしておきますので、どうかご安心ください』


『そう言って貰えると助かります』


どうやらユミルは俺の秘密を内緒にしていてくれる様だ。

一安心である。


『ただその代わり……というのもなんですが、少し会お願いがあるのですが……』


お願い?

口止め料代わりに、何か依頼をしたいって訳か。


『その……時々でいいので、私にタカダ様のお話を聞かせて頂けないでしょうか?タリスマンの効果を使って』


『俺の話ですか?』


俺の話なんて聞いてどうするのだろうか?

情報収集?

いやけど、俺はレベル上げと装備集めとかの戦い関係ばっかだぞ?

そんな話を聞いて、いったい何の情報を集めるというのか?


まさかゲームの攻略情報が欲しいって訳でもないだろうし……


『特に面白い話が出来るとも思えませんが……』


『私は聖女という身分上、祭事以外でこの神殿から外には出られない身なのです。なので……他愛ない事でも構いませんので、タカダ様から外のお話を伺えたら嬉しいのですが……』


『ああ、成程……』


神殿内での生活は、きっと息苦しい籠の中の鳥って感じなのだろう。

だからその息抜きがてら、俺から外の話を聞きたいって訳だ。

そう考えると、聖女様も大変なんだなと思えて来る。


『まあ俺のつまらない話でいいのなら、いつでもお話しますよ』


『本当ですか!ありがとうございます!』


返事を返すと、これまでにない位ユミルの声が明るくなる。

正直、聖女と話す時間は俺にとって無駄以外何物でもないのだが、良い物貰ったし、口止め料も兼ねているのでまあ付き合ってやるさ。


「聖女様。そろそろ……」


ユミルの背後に立っていた司祭が、彼女に声をかける。

どうやら接見は時間制限ありだった様だ。

ま、こっちとしては貰える物がもうないなら用はないので、さっさと終わってくれるのは大歓迎だが。


「あ、そうですね。ではタカダ様……本日は来ていただき、本当にありがとうございました。貴方に救って貰った御恩をこの程度で返せたとは思えていませんが、少しでも満足していただけたなら嬉しいです」


「いやいや。こんな素晴らしい物を頂いて言葉もありませんよ。こちらこそありがとうございました」


「では、私はこれで失礼させていただきます」


ユミルが席から立ち上がり、お辞儀してから去って行った。

この場に残る意味も無いので、俺も早々にこの場からおさらばさせて貰う事にするか。


「あ、帰りたいんですけど」


「出口までご案内します」


別に一人でも帰れるが、彼らからすれば神殿内を部外者が勝手にウロチョロするのは好ましくない状況だ。

なのでわざわざ出口まで見送りの司祭がついて来た。


まあそんな事はどうでもいいか。

人目のつかない場所まで急いで向かった俺は、聖女印のエリクサーとタリスマンをインベントリに放り込む。

その効果の程を確認する為に。


さーて、どんな効果かなー。

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