第34話 タリスマン

「きっとタカダ様は私の事を覚えておられないでしょうね」


「ええいやまあ……」


イエス!

そう力強く答えたい所だ、取り敢えず言葉を濁して困った感じを演出しておく。

配慮って奴だ。


ぶっちゃけ、俺にとって彼女が何者かとかそんな事はどうでもいい事だし。

重要なのはお礼が何か。

この一点のみである。


「私の名はユミル・ストーク。生家はストーク男爵家になります」


「ストーク男爵家……」


男爵令嬢ユミル・ストーク。

誰……ああ、そういや、最初のレベル上げで男爵家の令嬢を襲ってるネクロマンサーを狩ったりしたな。


ひょっとして、聖女はあの馬車に乗ってたのか?


それなら助けたって話の筋は通る。


「ひょっとして、あの時ネクロマンサーに襲われてた?」


「はい。その節はお助けいただきありがとうございました。もしタカダ様にお助けいただけなかったら、今頃私はどうなっていた事か」


「ご無事で何よりです」


無事だからこそお礼も出来るという物。

ナイス俺!

正にファインプレーだ。


「その事で是非ともお礼がしたく、本日は御足労頂いたのです。本来は私が出向くのが筋なのでしょうが、今は気軽に動けない身ゆえ、どうかお許しください」


聖女が俺に向かって頭を下げた。


「頭を上げてください、聖女様。俺は全然気にしていませんから」


何故なら貴重なアイテムが貰えるからだ。


レアアイテムイズジャスティス!


まあこれで貰えるアイテムがゴミだったら、態度急変させるけどな。


「ありがとうございます。タカダ様の寛大な心に、感謝の気持ちしか御座いません」


「ははは、そんな大げさな。所で……今日はお礼の品を頂けるとお話を伺っているのですが?」


聖女と延々中身のないやり取りを続けるつもりはない。

なのでサクッと本題を切り出す。

俺はさっさとレジェンド装備制作に取り掛かりたいのだ。


「実は私には錬金術系の最上位スキルである、錬神術ありまして」


「錬神術ですか?」


俺は錬金術系の最上位スキル、錬神術なるスキルの事は知らない。

おそらくNPC限定のスキルだろうと思われる。


「はい。それでそのスキルで生み出したタリスマンをタカダ様に、お礼としてお送りしようかと」


「タリスマン……」


OTLにおけるタリスマンはオプション付きのアクセサリーで、製作不能でボス系ドロップのみが入手経路となるアイテムだ。


聖女にそれを作る能力があるのか……


因みに、現状でも俺が倒せるボスはいる。

まあ弱い奴だが。


じゃあ取りに行かないのか?


行かない。

だって弱いボスが落とすのはショボい効果しかついてないし。

取りに行っても時間の無駄でしかない。


「虹のペンダントです。どうぞお受け取り下さい」


聖女が振り返ると、背後に立っていた司祭の女性が白い木箱を彼女に手渡す。

それをユミルが俺の前で開いた。

中に入っていたのは、虹色に仄かに光りを放つ宝石のついたペンダントだ。


見た事のない奴だな……


タリスマンは一通りネット情報で目を通している俺だが、ユミルの差し出したタリスマンは見た事のない形状の物だった。

なので、その形から効果を推測する事は出来ない。


確認するには――


「ありがとうございます。身に着けても宜しいですか?」


――身に着けるしかない。


「ええ、きっとお似合いになると思います」


……いや、絶対似合わねぇだろ。


自分で言うのもなんだけど、俺はかなりやぼったい見た目をしている。

そんな俺に、虹色に輝くペンダントが似合う筈もない。


まあだがそんな事はどうでもいいのだ。

重要なのはその効果である。


「では――」


俺はタリスマンを自分の首にかけた。


俺には物を鑑定するチートはない。

そんな俺がアイテムの効果を確認する方法は二つ。


一つはインベントリに突っ込む事である。


俺には鑑定能力はないが、OTLはインベントリに入っているアイテムの詳細を知る事が出来る仕様だ。

なのでインベントリに突っ込みさえすれば、アイテムの詳細を確認する事が可能なのである。


まあそれが一番手っ取り早く確実な確認方法なんだが、残念ながらここではその手は使えない。

何故なら、この場は武器厳禁だからである。


インベントリがあったら、武器を預けてもそこから別の武器が取り出せますよと相手に教える様な物だからな。

もし知られれば、揉め事の種になるのは目に見えていた。


……最悪、お礼のアイテムが貰えなくなる事だってありうるし。


だからもう一つの方法を使う。

それは装備してステータスを確認するという方法である。


タリスマンは基本的にステータスアップと、それ以外の効果がセットになっている仕様だからな。

なので身に着けてステータスを確認すれば、何が上がったかは確認出来る。


まあもちろん、それだとそれ以外の効果は見えないが、どの項目がどれだけ上がるかによって、だいたいそっちの効果の強弱も察する事は可能だ。


HPSPMP上昇系は総じてゴミ―—弱いボスが落とすのはだいたいこれ。

それ以外の筋力などのステータスがどれか一つ、1から5の間で上がる様なものはそこそこ当りが多い――一般人が持てるのはこの辺りまで。

そして補正6以上はハズレがまずなく、超がつく大当たりが大半を占めていた。


因みに、ステータス補正の最大値は10だ。

この最大補正のタリスマンを持っているのは、ゲーム内でもトップ中のトップである超廃人だけである。


「――っ!?」


ネックレス型のタリスマンを首にかけ、ステータスを確認した俺は思わず目を見開く。


聖女が自信満々だったし虹色に光っていたので、HPSPMPはなく、それ以外のステータスのどれかが、そこそこでいいから上がる事を俺は期待していた。


――だがその期待は裏切られる。


――それも、超がつく程の良い意味で。


「マジかよ!」


俺は興奮して椅子から立ち上がる。


タリスマン。

その効果はHPMPSPが30%アップ――


この時点でも十分過ぎる程破格だ。

普通は良くてどれか一つが10%な訳だからな。

しかもこのタリスマンのステ上昇には続きがある


――筋力、体力、敏捷、器用、魔力、幸運が20づつアップ。


「うおおおおおおおおお!」


興奮のあまり、俺は雄叫びを上げる。


ステータスアップでここまで出鱈目なのだ。

それ以外の見えない効果も神っているに違いない。

そう、これは間違いなく神アイテムだ。


「俺の……勝ちだ!!!」


更に片手を突き上げガッツポーズする。


何が勝ちなのか?

そういう細かい事は良い。

とにかく俺の勝ちだ!!


「あ、あのタカダ様……」


周りの奴らがどん引きしてるが、そんな事は関係ない。

俺は自らのパッションを込めて吠え続ける――


「錬神術最強!聖女イズゴッド!錬神術最強!聖女イズゴッド!錬神術最強!聖女イズゴッド!錬神術最強!聖女イズゴッド!錬神術最強!聖女イズゴッド!錬神術最強!聖女イズゴッド!錬神術最強!聖女イズゴッド!錬神術最強!聖女イズゴッド!」


『わーい!ごっどごっどー』


――異変を察知した警備の人間が大挙して押し寄せ、俺を取り押さえるその瞬間まで。


うん、ちょっと興奮しすぎた。

失敗失敗。

まあ幸いタリスマンは取り上げられなかったので、気にしない事とする。

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