第29話 道具は職人の魂

「鍛冶職人に最も重要な物が分かるか?」


ヘパイトスが聞いて来る。


一般的な思考なら、ここは情熱や忍耐力、それに技術力などが上げられるだろう。

だがそれは現実の職人に求められる物であって、このゲームでの答えは別となっている。


鍛冶職人にもっとも重要なもの。

それは――


「強さです」


そう、強さである。


このゲームの製作において最も重要になって来るのは、器用と幸運のステータスだ。

そしてそれらのステータスを上げるには、レベルを上げる必要が出て来る。

更に言うなら、素材を集めるにはモンスターを狩らなければならない。


ステータスと素材。

この二つの条件を満たすためには、モンスターを狩る強さが必要不可欠。

なので鍛冶職人に最も必要なのは強さとなる。


「正解だ。若い奴らは技術だ何だと言いがちだが……真の鍛冶職人に最も必要なのは強さよ。弱い奴に最強の武具を生み出せる訳もねぇ」


俺の答えにヘパイトスが満足げな表情になる。


「俺の教えを乞いたいんだったな。なら……テメーの強さを俺に示して見せろ」


半透明だったヘパイトスの体に色がつく。

霊体だった肉体が実体化した為だ。


「俺に勝てとまではいわねぇ。せめて膝をつかせてみな」


ヘパイトスが立ち上がる。

見上げる程の巨体だ。


「わかりました。バグリン。手出しはするなよ」


『はーい』


バグリンには手出しをしないよう命じておく。

このイベント戦は、第三者が手を出すと中断されてしまう仕様になっている。

まあテイムモンスターなのでたぶん大丈夫だとは思うが、駄目な可能性もあるからな。


「さあかかって来な!」


「アサシネーションキル!」


ヘパイトスの開始の合図と同時に俺はスキルを発動させる。

背後に瞬間的に移動し、首筋へのバックアタックを決めるアサシネーションキルを。


ただまあ、このスキルで与えられるダメージは微々たる物だ。

このヘパイトスは特殊な仕様をしており、ダメージは殆ど通らない様になっていた。

じゃあどうやって膝を突かせるのかというと、それは――


「はぁっ!」


――膝裏への攻撃だ。


スキル後、着地と同時に俺はヘパイトスの膝の裏に攻撃を入れる。

ここに12発ほど入れるとヘパイトスは膝をつく。

逆に言うと、ここ以外への攻撃は殆ど無意味と言っていい。


じゃあなんでスキルを使ったのか?


もちろんそれは背後を取る為である。

こうやって膝裏を叩くために。


「ふんぬ!」


3発ほど攻撃を入れた所で、頭上から鍛冶台が降って来た。


これはヘパイトスの攻撃だ。

目の前にあった鍛冶台を武器として戦うのが彼の戦闘スタイルである。


え?

道具は職人の魂だから、大事にするもんじゃないのかだって?


知らん。

そう言うのは製作者に聞いてくれ。

まあ好意的に捉えるなら、魂の籠った攻撃とかそういうのを表現してるって所だろう。


兎に角、ヘパイトスは両手で持ち上げた鍛冶台を頭上から乱暴に叩きつけまくって来る。

俺はそれを密着する形で避けつつ、膝の裏へと攻撃をちまちまと入れていく。


因みに、距離を放してヒットアンドウェイをするのは下策だ。

その動きだと膝裏を狙いにくくなるし。

何より、離れるとほぼノーモーション超高速の鍛冶台投擲とうてきが飛んでくる。


これを回避するのは困難な上に、威力があるので結構なダメージを喰らってしまう。

しかも投げた鍛冶台はヘパイトスの手元に謎パワーで一瞬で戻ってしまうので、そこからは投擲地獄の始まりだ。

なので絶対間合いをあけてはいけない。


ああそれとこの戦闘はイベント戦なので、死ぬ心配はない。

どれだけ大ダメージを受けても、HPは1以下にはならない仕様だ。


まあ1になった時点で敗北扱いなのでイベントは中断されてしまうが、再チャレンジ自体は何度でも可能となっている。

その時に気を付けないといけないのが、HP1で再チャレンジすると即負け判定になってしまう点だな。

まあHP1で負けた相手に即座に再戦する様な馬鹿は普通いないから、気にする様な事ではないが。


「アサシネーションキル!」


『あさしねーしょんきるるー』


クールタイムが切れたので再度スキルを発動させる。

当然だが、バグリンはこのスキルを持っていない。

まあ暇だから真似して遊んだのだろう。


「ぬ、く……」


スキル攻撃後の着地から膝裏を攻撃。

ここで決着がついた。

ヘパイトスの巨体が沈み、その片膝が地面につく。


「見事だ。お前にならばこのスキルを託せるという物。受け取るがいい」


ヘパイトスが満足げに笑いながら消えていく。

鍛冶台ごと。


おそらくあの鍛冶台は、ヘパイトスの一部だったって事だろう。

マジで魂だったという訳だ。


「まあ何にせよスキルゲットだ!」


俺の中に超越級製作スキルが生えて来た。


『げっとー』


何故ヘパイトスの膝裏を小突いただけで、製作系のスキルを覚えられるのか?


理にはかなっていない。

まったく理にはかなっていないが。


それがゲームという物である。

深く考えたら負け。

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