第47話 あれぇ?
数百年前。
とある一匹の竜によって人類が滅ぼされかけた事がある。
龍の名は魔神竜エクセランサス。
鑑定魔法によって神の称号を冠するこの竜ではあるが。
どこからやって来たのか。
そしてなぜこの竜が人類を滅ぼそうとしたのか。
それは未だ判明していない。
分かっているのは魔神竜エクセランサスが不滅であり、たった一匹で人類を滅ぼすに値するだけの力を持っている事だけである。
そしてこいつはその力を持って、当時人類の半数近くを僅か一月足らずで殺してしまう。
もし何の対抗手段も無ければ、そのまま人類は滅ぼされたいた筈だ。
そこに颯爽と現れたのが勇者エターナルとその仲間達だ。
彼らについてもまた不明な点が多かった。
人を遥かに超越した力を持つ者が集った勇者パーティーだが、その出自が分かる物は一人もおらず。
またそれ程の実力がありながら、魔神竜が暴れ出すまで彼らの名は周囲に知られていなかったのだ。
それは不自然極まりない集団。
だがその事を、当時詮索する様な者はいなかった。
何故なら彼らは、滅びゆく人類を救いうる唯一の存在だっからだ。
魔神竜エクセランサス対勇者一行。
その戦いは一昼夜に及び、遂にパーティーの魔法使いによって魔神竜は封印される事となる。
その際の魔法使いが今目の前にいるブルドックみたいな顔した老婆の亡霊、サミーである。
「スキルを学びに来た……か。つまり、私の事を知ってるって事だね」
「もちろんです」
でなきゃこんな幽霊屋敷に来てねーよ、って話である。
あ、因みに、ゲーム的には別のイベントでこことサミーの情報を入手して訪れるって流れなのだが、それらは別に前提イベントではないので当然ガン無視だ。
こっちはメタ的情報元があるのだから、糞みたいな報酬のイベントなんてスキップするに決まってるよな?
「半端物にスキルを教えてやる気はないが……その目、世界を守るために命を懸ける男の目だね」
サミー婆さんが俺の目を見つめ、ニヤリと笑う。
いうまでも無く彼女の目は節穴だ。
俺にそんな気概など毛頭ない。
あるのはバグすら利用して強くなる狡い思想だけである。
まあ、ここの情報を得る為の関連イベントが世界の裏に潜む奴らと戦うって流れなので、それ前提に話を進める婆さんを節穴呼ばわりは酷と言えば酷ではあるが。
「だが、気概だけでは駄目さね。アンタに私達勇者パーティーの秘技を伝えるだけの価値があるかどうか、それを試させて貰おうか」
このイベントでスキルを得るには戦闘が求められた。
これが結構難しく、カジュアル層向けの攻略動画が上がる程だったりする。
まあ俺は一度クリアしてるから問題なくクリアできるけど。
「お願いします」
「準備が出来たならこれに触れな」
サミーが手を振ると、俺との間に青い球体が現れる。
魔法で生み出された物で、触れると精神が別の場所に飛ばされ戦闘スタートだ。
「試練の場所にあんたの精神を送るから」
送られるのは精神だけなので、イベント戦で死ぬ心配はない。
まあもちろん結果を残せなければスキルは手に入らないので、再戦しないと駄目になるが。
「わかりました」
準備など必要ない。
一度クリアしてるし、失敗してもリトライ出来る戦闘だからな。
パッと初めて、回数熟してさっさと終わらせるのみだ。
青い球に触れると光で視界が覆われ、それが収まると俺は廃墟と化した街中に立っていた。
ここは数百年前、魔神竜エクセランサスが滅ぼした街を再現した場所である。
そして戦う相手は、エクセランサスが魔力で生み出した自らの眷属。
竜牙兵(Lv95)と呼ばれる二足歩行のリザードマンの様な魔物だ。
スキル取得条件はなんとこの竜牙兵に一発入れるだけでいい。
すっげー簡単?
そうだな。
俺が俺として戦えるのなら、確かにベリーが付くレベルのイージー具合だ。
だがこの空間に俺は精神だけを飛ばされている。
つまり肉体が無いのだ。
じゃあどうやって戦うのか?
ご心配なく。
ちゃんと戦うための肉体は用意されている。
その名も、名もなき騎士(瀕死)。
である。
いや、名前ねーじゃねぇか?
ま、細かい事は良い子なしだ。
で、名もなき騎士は瀕死と表示されている通り、HPは1しか残っていない。
しかも装備はBランクの店売り品の剣と鎧。
レベルは70台で、ステータスはフラット――プレイヤー視点からみたらゴミの様な配分。
更にSP・MPは全快でだがそもそもスキルや魔法を習得していないので使い道なしと来てる。
この条件で、自分より圧倒的にリーチとステータスに勝る竜牙兵に一発入れる事がどれ程難しいか――因みに相打ちは失敗判定になるので、殴った後多少生き残る必要あり。
ゲームが凄い上手い奴でも、初見一発クリアーなんかは早々できないだろう。
俺も情報ありきで一発クリアは出来なかったしな。
なので、リトライ前提のそこそこ難しいイベント戦な訳なんだが……
『あるじー、ここどこぉ?』
――何故か俺の肩にはバグリンが張り付いていた。
あれぇ?
どゆこと?
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